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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
6:灼熱のソルベシア

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271/422

271:超高速の邂逅

「異母兄?」

「はい。ミアンは帝国の侵攻に加担した疑いで開戦前に王位継承権を剥奪されています」

「……“疑い”ではなかったわけじゃな」

 ミルリルの目配せの意味は明白だった。

“リンコにいえば吹き飛ばして終わりじゃ”

 そんなわけにいくか。俺が首を振ると、ミルリルが首を傾げる。だいたい、船に乗っているのがその売国王子だと確認できたわけじゃない。吹き飛ばした後で罪もないエルフの子でしたなんてのはご御免だ。

「王子と巫女は、いま感じられる反応だけで、その第二王子だとどこまで確信を持てる」

「……それは」

「推測に過ぎないなら、ダメだ」

「ですが、王都も王族も潰えた形骸(ぬけがら)の国に、これだけの戦力を置く理由など他にはありません。ソルベシア北部からは魔石が産出されますから、帝国内での影響力を求める海軍派閥がカイエンホルトたち陸軍派閥の傍流を出し抜くために動いた結果であることは間違いないのです」

 王子は俺に訴えるが、部外者である俺にその言葉はあまり響かない。

「幼い民を帝国に運ぶのも部族長を吊るし上げて叛乱の目を削ぐのも、どこの占領地でも行われる帝国の政策です。その後に置かれる傀儡政権にはその地の旧王族もしくは高位貴族が必要になります。反帝国でまとまっていたソルベシア王族で、その任を受け入れる者などミアンの他にはないのです」

「そんな話は俺の知ったことじゃない。しょせん破壊者でしかない俺に手を貸せるのは敵の殲滅だけだ。そして、それは行使したら取り返しがつかない。殺すとしても、本人の確認が先だ」

「……はい」

 王子の後ろでいまも膨れ上がり続ける森を見て、尋ねる。

「この森があれば、エルフは身を守れるのか」

「え? はい、拘禁枷(シャックル)に縛られてさえいなければ、この森でソルベシアの民を害せる者はおりません」

「救った連中は、もう心配ないのか?」

「はい。先ほど、南の森からの救援が来て無事に避難民を収容したと聞いております。王都から北の全域に森が広がっているようです」

「「もう、ソルベシアは帝国の入り込めない魔境」」

 そら結構。たぶん俺たちにとっても食われかねん魔境だけどな。

「では、ここまでだ」

 俺はキャスパーの後部ハッチを開けて、エルフたちを熱気のこもった車内から解放する。

「もう、出ていいのか?」

「好きにしろ。自分の身を自分で守れるんならな」

「「「「「おおおぉ」」」」」

 村人たちは解放されて顔を綻ばせるが、部族長たちは車外に立っている人物が死んだはずの王子であるとわかって慌てて平伏する。

「ご無礼を、殿下」

「……よいのだ。もう、その身分は捨てた。しょせんは国を滅ぼした無能どもの末子。民に責められる理由はあっても、敬われる道理はない」

「……しかし」

 村人たちは王族の顔も作法も知らんのかポカンとアホ面を下げたままだ。どうもエルフとしてはいままでに会ったことがないレベルで知能と民度が低い印象だった。これがナチュラルな野良エルフなのだとしたら、いささか失望させられるな。

「我らは、北の大陸に残してきた幼子たちのところに戻る。達者で暮らせ」

 王子の言葉に、部族長たちが怪訝そうに頷く。自分たちが置き去りにされること自体には、さほどの不安を覚えてはいないようだ。魔力を縛る枷から逃れたせいか、膨れ上がった森を目の当たりにしているせいか。王子や巫女の行く末など他人事と思っているような印象も受けるのは、阿呆な村人と接したことによる偏見なのだろうか。

「……殿下、失礼ながら、帝国軍の侵攻は、押し返せたのでしょうか」

 部族長のひとりが、恐る恐るハイダル王子に尋ねる。

「こちらの魔王陛下のご尽力で、王都の陸軍は殲滅した。カイエンホルトも殺した。だが海軍はまだ、海に退避しただけだ」

「また、戻ってくると?」

「いや、戻ってはこんのう」

 答えに窮する王子に代わって、その質問をミルリルが引き継ぐ。

「売国奴の第二王子ミアンもろとも、あやつらは海の藻屑と消えるのじゃ。これから、すぐにのう?」

 それは売国王子本人かどうか確認してからだという俺の視線に頷き、ミルリルは俺にキャスパーを収納するよう促してくる。のじゃロリさんは、やると決めたら案外せっかちである。

「巫女たちは、どうするんじゃ」

「残って民に尽くせと命じました。彼女らの力は、この地に必要となりましょう」

 あら、意外にあっさり。

「「いずれ戻ると、約束した」」

 たぶん、ついてくるのを諦めさせる条件だったのだろう。護衛のふたりが珍しく殊勝な顔で俺とミルリルを見る。

「それは、おぬしらの問題じゃ。砦に戻ってからのことは好きにせい。そのときには、通貨の融通には手を貸してやるがの」

 となると、頑張ってくれたミリアンとも、ここでお別れだ。名残惜しいが、彼女を共和国に連れて行くメリットはない。俺たちにも、ソルベシアにも、彼女自身にもだ。

「まおう、へいか。ひへいか」

 見事なお姉さんぶりだったミリアンだが、涙目でミルリルと手を取り合う。

「達者での」

「ミリアンがいてくれて、本当に助かった。縁があったら、また会おう」

「……はい!」

 差し出されたPPSh(サブマシンガン)を回収して、代わりに滑車付複合素材弓(コンパウンドボウ)を渡す。色気のない贈り物だが、エルフなら活用してくれるはずだ。

「元気でな」

「あ、ありがとう、ございます」

 涙目の巫女さんの頭を撫でて、背を向けた。ここで気持ちを残してはいけない。

「さて、行くぞ。妃陛下の言葉を嘘にはできんからな」

 俺はホバークラフトのグリフォンを出して、王子たちに乗るよう促す。部族長たちに短く別れを告げると、三人は恐る恐る乗り込んできた。

「これは、砦で見た陸を走る船ですね」

「そうじゃ。陸も海も自在に走る魔王陛下の眷属じゃの」

 またミルリルさんが適当なことをいってますけど。まあ、いいや。速度を上げて海岸線へと向かう。まだ緑に呑まれていない北端の平地にはいくらか水兵が残ってはいるようだが、既に荒地の八割以上を埋め侵食を続ける密林を前に抵抗する意思は失われている。彼らが生き延びられるかどうかは王子の残した“恵みの通貨”の影響力しだいだ。

「リンコから連絡は」

「おう、攻撃するならいつでも良いらしいぞ!」

「少し待つようにいってくれ。俺たちの回収が先だ」

 グリフォンで海岸線に出ると、砂浜からそのまま海に出る。リンコたちが迎えにきているというが、上空に飛行船らしきものは見えない。

「あれ?」

 海上には大小十数隻の帝国艦艇が留まっていた。旋回しながら舷側を陸に向け、何やら攻撃準備をしているように見える。

「王子、あの艦に積まれた武装は、投石砲か? それとも遠雷砲?」

「沿岸部を攻撃するための長距離攻撃兵器があるとは聞いていますが、実態は把握して……」

 ソルベシアの陸地から海に出たグリフォンを見てこちらを追撃してきた敵と認識したらしく砲艦から投石砲の斉射が行われた。

「ヨシュア、右に旋回じゃ。あんなもんは、沖に出れば届かん」

「了解」

 当たるとホバークラフトでも沈められかねない威力なのだろうが、止まった的を想定した兵器だ。山形(やまなり)の曲射で大きな弧を描いた弾道は、グリフォンなら避けるのも容易い。

 問題はこの逃走劇をいつまで続けるかということなのだが……。

「リンコ、いまどこじゃ」

 ヘッドセットで通話中なのだろう、ミルリルが銃座で何やら指示する声が聞こえてきた。

「こちらは、ソルベシア北端から沖に向かって東に一(ミレ)ほどじゃな。もう見えとる? ……どこからじゃ?」

 雲ひとつない空に飛行船など影も形もない。ドローンは飛んでいるのかもしれんが俺に視力ではわからん。そんなことより帝国の砲艦が揃ってこちらに向かってきているんだけど、どうすんだよ。

「フェルかエアル、そのミアンとかいう売国王子はどの船にいるかわかるか!」

「「北側、旗を上げた船!」」

「よし、その船以外は、沈めても良いのじゃな!」

 乗ってるのは、旗艦か。俺には旗など視認できないが、たぶん旋回する艦隊の中心にいる大型の砲艦だろう。転移で飛ぶときに再確認しなきゃいけないんだろうけど……

「おわぁッ⁉︎」

 いきなりグリフォンの横十メートルほどのところに白い閃光が弾け、激しく波飛沫が上がる。遠雷砲の攻撃が掠めたのだろう。昼間で距離があると軌跡が読めん。速度を上げて逃れようとするが、雷による攻撃はグリフォンの航跡を辿るように次々と落ちてくる。

「あれで案外、射程があるようじゃの。砲座を潰すにも数が多過ぎるわ」

「そんな呑気なこといってる場合じゃないって!」

 おい、どこだよリンコ⁉︎ いま上空に見えてないんなら近くにいなくないか⁉︎ この状況だと、そう長くは持たないんだけど……。

「ヨシュア、来よったぞ!」

「……は?」

 何かよくわからん巨大な代物が凄まじい勢いで沖合を通過し、大きく回り込みながらこちらに向かってくる。水面を滑るその姿は、まるでイカだ。全長十数メートル、平べったくて奇妙な形をしたその乗り物から数本、細長い消火器みたいな筒が打ち上げられ、よろめくように空へと上がる。青白い光を放って加速した筒は遠雷砲を放っていた砲艦の横腹に吸い込まれると爆煙を上げて大穴を開けた。

「おい、なんで対艦ミサイルなんて作ってんだよ」

 しかもあの爆発の感じ、黒色火薬のまんまじゃん。なのに推力は魔道具っていう技術的アンバランスがひでえ。

「ていうか、なんだよそれ⁉︎ 飛行船で来るんじゃなかったのか⁉︎」

「……魔王、陛下。……何ですか、あれは」

 ハイダル王子は目の前の巨大な乗り物を輝く目で見つめていた。新しい技術や思想に食いついちゃうあたり、リンコと同類なのかもしれん。

 王子に何て説明したらいいかわからんけど、知識としては知ってる。その性能が現在の状況に最適であることも理解している。けどさ。

 俺は、操縦席で手を振るドワーフ連中とポンコツ聖女のアグレッシブさに呆れていた。

「水の上に浮かんで超高速で走る船、みたいなもんかな。名前は」

 かつて“カスピ海の怪物”と呼ばれた、軍事技術の徒花。軍オタが愛する異形のレトロフューチャー。


「……地面効果翼機(エクラノプラン)だ」

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