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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
6:灼熱のソルベシア

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262/422

262:隠れ里の人々

 困った。ぜんぜん、わからん。

「ソルベシアの城壁上にいたミリアン、砲座にいたマシアン、城の前にいたルキアン、尖塔の監視哨にいたシャリエル」

「そうじゃな」

「帝国軍の馬車にいたのがカイエル、本陣にいたのがメリアンで、最後尾の白天幕にいたのがオリクエル、だよね」

「「「はい」」」

 双子の護衛が、フェルとエアル。いま海賊砦でみんなを守ってくれてるお利口さんが、テニアンちゃん。そこまでは、いいんだけどさ。

「何を困っておるのじゃ」

「ミルリル、あのね? 見分け、つく?」

「当たり前じゃろうが」

 ヤバい。ぜんッぜん、わかんない。いまは順番に並んでもらってるからなんとなくわかる気になってるけど、シャッフルされたら見間違うこと断言できる。

 これ、あれか。アイドルグループのメンバー見分けられないオッサンみたいなもんか。そんなん、みんな同じような美少女で同じような背丈で同じような髪型と白装束でお前、見分けろって方がどうかしてるだろうよ。

 双子の護衛は巫女さんたちと顔付きも年齢も服装も違うから判別できるけど、こっちは逆に、ふたりのどちらがフェルかエアルかわからん。

 その視線でバレたようだ。双子のひとりが俺の目を見て凄む。

「わたしは」

「……フェル?」

「エアルじゃ」

 額に手を当てて首を振るけどあなた、こいつら見た目は同じじゃん⁉︎

「魔王陛下、それは……その、いまは巫女の装束ですが、それぞれ違う服を着るようになれば、自然と……」

「いつでも同じ服を着ておるわけでもあるまい」

「ですね」

 気を使ってくれた王子の渾身のフォローも不発。俺は冷静さを装いつつ、密かに匙を投げていた。

 だって、ほら。俺はミルリルさえいれば何も問題ないし。巫女さんたちも、無事に目的地まで送り届けたら……。

「後は知らんとは、いかんであろう」

「だね」

 俺は頭を捻って、解決策を編み出す。

「東方神殿の巫女はなんだかアンで、西方神殿の巫女はなんだかエルなんだよね。てことは、本来の名前があったんじゃないの? それで呼べば……」

「巫女の適性者は、幼い頃に名を捨てます。覚えているものは、あまりいないのではないでしょうか」

「そもそもが無理矢理な妥協案じゃの。顔の見分けがつかんという根本の問題は解決しておらん」

「そうね。まったく、その通りだね」

 夕暮れが迫り、俺たちはキャスパーの傍で焚き火を囲んで夕食を摂っていた。遠征続きで“狼の尻尾亭”の絶品料理は品切れ。鍋で湯を沸かして部隊用糧食のグループレーションを温める。表記は読めんが、なんかよくわからん肉入りシチュー的なものだった。別の容器に入っていた平焼きパンみたいのと、ミネラルウォーター。デザートに焼き菓子を出して果物の缶詰をいくつか開けると、幼い巫女さんたちに喜ばれた。

 さて。個人を見分けるのはともかく、彼女たちの行く末は考えなければいけない。


「王子、その……避難民の集落に、彼女たちの係累はいないのかな」

 いまはオアシスを抜けて、百キロほど北上したところだ。戦闘前に王子が“恵みの通貨”で確認したところによると、この辺りに避難民が隠れ暮らす集落があるらしいのだ。

「わかりません。俺にわかったのは、命の色と数と強さだけですから」

「色、というのは同胞かどうか?」

「はい。強さは概ね、年齢と同じです」

 それが百を切るくらい、いると。

 このまま通過するのもアリだとは思うけれども、そうなると巫女さんたちは俺たちとともに七千キロ先の大陸に渡ることになる。二度とこの地に戻れない可能性が高い。

「その集落を訪ねることは可能かな」

「……おそらく」

「「問題が起きたとしても、こちらで対処する」」

 護衛のふたりを見て、俺は決断した。

「では明朝、その集落を訪ねる。必要な物資があれば渡して、南側の状況を伝えよう」

「「「はい」」」

 心なしか、王子たち三人に嬉しそうな感じの気配はあった。同胞の生き残りと会えるのが嬉しいのか、それとも本当は誰か知り合いでもいることがわかっているのか。

「ヨシュア」

 ミルリルが俺の腕に触れる。その顔にはちょっとだけ案じるような気配があった。

「ごめんミルリル、勝手に決めた」

「わらわは、良い決断だと思っておるぞ? なんぞ問題があれば反対しとるわ。おぬしの考えることは、筒抜けだからのう」

 その後に続いた、“少し、意外だっただけじゃ”という言葉を俺は軽く聞き流していた。

 その真意を理解したのは翌朝、彼ら避難民の隠れ里に入った時だった。


「……うそん?」

 俺たちを出迎えたのは、長身・長髪で長い耳、麻のような貫頭衣に手作りらしい弓を手にしたエルフの一団だった。ダークエルフ、というのには健康的すぎるんだけど肌が淡い褐色で髪のカールが強い。

 王子たちも肌と髪はそんな感じではあるから、彼らが“ソルベシアの民”なのだろう。

「王子、ご無事とは存じませんで、お見苦しいところを」

「よい、詫びねばならんのは俺の方だ。ソルベシアの民には、艱難辛苦(かんなんしんく)を強いた。これも王族の無能が招いた結果、許してくれ」

「勿体ないお言葉でございます」

 臣下の礼を取ろうとする一団とそれを拒絶し頭を下げる王子、みたいな光景を前にポカンと口を開けてあっちこっちに指を向けていたアホ面の俺は、ミルリルさんと目が合って首を傾げる。

「……エルフ? 王子も?」

「やはり、わかっておらんかったようじゃのう」

「だって、みんな、耳」

 巫女さんたちが、怪訝そうに首を傾げる。

「「「「「「こども、だから」」」」」」

「「耳が伸びるのは、二十代から」」

 護衛のふたりが無知に呆れたような顔で教えてくれた。いや、そんなん知らんし。

「ケースマイアンの子エルフ、耳長かったよ?」

「人間に比べれば、であろう? だいたいエルフの成長は遅いんじゃ。たしかミルカの年齢は、わらわとそう変わらん。あやつにしても大人のような長耳になるのは二十過ぎ、三十近くじゃ」

 そう、なのね。いや、別に、王子たちがエルフでもドワーフでも構わないんだけどさ。

 同胞同士で抱き合い情報交換する彼女たちを尻目に、ミルリルが俺にコソッと耳打ちしてきた。

「わざわざ集落に寄りたいというので不思議だったんじゃ。おぬし、なんでか知らんがエルフが苦手だったであろう?」

「⁉︎」

 それはさすがに、誰にも知られていないはずなんだけど。

「心配は要らん。おそらく、わらわの他には誰も気付いておらんはずじゃ。その苦手意識も、悪意によるものでないことくらいは察しておる」

「……ああ、うん。俺も別に、嫌いなわけじゃないんだけどね。コンプレックスを刺激されるから避けてるくらいのもんでさ」

「こんぷれっくす……というのは、気後れするというような意味かの。なんでそんなことになるのかは理解できんが」

 文脈を読んだのか表情で察したのか知らんけど、ミルリルさんは平常運転で意図を汲んでくれた。

「それは……そうだなあ、俺のいたところで、優秀さを鼻にかけて偉そうにしてた奴らと、少し雰囲気が似ているんだよ。実際にエルフから嫌な思いをさせられたことはないから、この件に関しては俺の責任だ。今後も避ける気はないし、できれば力になってあげたいと思ってる」

「うむ。それでこそ寛大で公平なる魔王陛下の御心というものじゃ」

 しかしのう、とミルリルさんは笑う。

「エルフの本質に関して、おぬしの推測はそう間違ってはおらんぞ?」

「いや、ちょっと⁉︎ 俺の気遣いは⁉︎」

 ケースマイアンでも北の大陸でも、おそらくこのソルベシアでも、虐げられ孤立して苦労してきたから謙虚になっただけで、選民的・排他的・独善的な傾向はエルフの本能みたいなものなのだとか。

「滅びかけた北方エルフなぞ、その最たるもんじゃ」

 そんなもんですか。まあ、いいけど。


「ようこそいらっしゃいました、北方大陸の魔王陛下、そして妃陛下。我がソルベシアの王子を守っていただき、民として感謝の念に絶えませぬ」

 連なった砂丘の陰にひっそりと立ち並んだ、わずかな潅木に囲まれた集落。最も立派な建物なのであろう小体なログハウスといった感じの小屋に通された俺たちは、十畳くらいの部屋で長老らしい褐色のエルフから頭を下げられていた。

「うむ、急に訪ねてすまぬ。こちらの都合で悪いんじゃが、この地で蔓延(はびこ)る偽魔王の討伐に参ったのじゃ。昨日、数万の帝国軍ごと討ち果たしてきたのでな、おぬしらにも伝えておこうと思ったまでじゃ」

 ミルリルさんは、明るい声でハキハキと物騒なことを伝える。

「は?」

 長老も、その後ろに控えた青年か中年か知らんけど五人ほどの指導者らしきエルフたちも、固まったまま動かなくなった。

「……ご、じょうだん、を」

「「事実」」

 同族である護衛の双子が端的に返答すると、エルフの指導者たちは硬直したまま視線だけを泳がせる。

「ど……どう、やって、ですか」

「王子の力で玉座の間に飛んで、魔王の力で臓腑を食い破って殺したのじゃ。その後は、追ってくる帝国軍の雑魚どもを魔道具で手当たり次第に粉微塵じゃな」

「「魔道具を借りて、わたしたちも戦った」」

「うむ。こやつら若いとはいえエルフの子じゃ。射手として素晴らしい腕前であったわ」

 双子から即座に裏付けまでされてしまい、ようやく再起動した長老が再びブルースクリーンになってしまった。でもそれ、急に受け入れろったって無理だろよ。

「ちょ……いや、あのねミルリルさ、いや妃陛下。そんなことより、ホラ」

「おお、そうじゃ。最後はおぬしらの王子が……“恵みの通貨”といったかの。凄まじいばかりの奇跡の力での、その死骸を広大な森に変えよった」

「……まさか、そんな……」

「長老!」

 そこでドアが荒々しく叩かれ、汗だくの若者が駆け込んでくる。来客中と知って一瞬怯むが、役目を思い出したようで俺たちに頭を下げると長老の傍で耳打ちする。

「もりッ⁉︎」

「そうです。こっちに向かってくる」

 タイムリーですな。あれを見ちゃったんだ。というか半日以上経ったのに、まだ侵食し続けているのね。

「縦横が、それぞれ十(ミレ)近くはある」

「そんな、馬鹿な」

 ソルベシアでも距離の単位は同じなのか。七千キロ以上も離れてるのにな。こっちの大陸にも欧米からの転生者がいたのかな。それとも、貿易上で接触があった結果か。どうでもいいけど、縦横十六キロ? それは数字を盛り過ぎてるような気はする。報告者の彼が興奮しすぎて冷静な判断が出来なかったか……森があの後もずっと拡大し続けていたかだ。

「魔王陛下」

 考え事をしている間に、気付けば長老たち全員が俺に平伏していた。

「陛下のお力を、少しでも疑いましたこと、平にお詫びいたしまする!」

「……え? ああ、お構いなく。それより、あれですか。逃げた方が良かったりします?」

 確認のために王子を見ると、彼は苦笑しながら首を振った

「問題ありません、魔王陛下。我らソルベシアの民にとって、あの緑は故郷そのものなのですから」

「エルフは食われない?」

 平伏したままの長老が首肯する。

「はい。緑の恵みは糧を下さり、住処を下さり、身を守る術と、豊かな水を下さるのです。我ら、もう砂に怯え、渇きに怯えることもありませぬ」

 これは、結果オーライ、かな。ミルリルに目を向けると、満足げに頷いてくれた。

「わたしたちは、元いた北の大陸に戻らなくてはいけません」

「え?」

 そりゃそうだろよ。王子たちはともかく俺たちはこっちの人間じゃないし。

 ただ、こうなると問題は少し変わってくるかな。

「明日の朝までは、こちらに滞在させてもらいます。王子や巫女さんたちは、明日までにどうするか決めてください」

 王子は表情を消し、護衛は目を泳がせた。

 巫女さんたちはそれぞれに顔を見合わせ、不安か期待か困った顔で見つめ合う。

「結果がどうであれ、向こうにいる子供たちは必ず、全員が幸せな人生を全うできるように全力を尽くすと約束します」

「そうじゃ、何の心配もないぞ。魔王陛下が約束を違えたことは、ただの一度もないのじゃ。いま()るところも“恵みの通貨”の恩恵のなかで、心強い味方が傍についておる。向こうにも、エルフはたくさんおるしの」

「「「……」」」


 王子と話し合う長老から離れて、俺たちは小屋を出る。

「「「「まおーへいか」」」

「ああ、ありがとう。みなさん、そこに並んでくださいね」

 俺は、巫女さんたちに集めてもらっておいた避難民たちから拘禁枷(シャックル)を外した。収納するだけだから大した手間でもなかったんだけど、こちらが恐縮するくらいに感謝された。

 彼らから話を聞いて、護衛の双子がいってた“いま自らの意思で生きている者は自分たちだけ”という言葉の意味が、何となく分かった気がした。魔法の知識と行使能力に秀でたエルフにとって、魔力を封じられることは生きる力と選択権をほぼ全て奪われるのと変わらないのだ。そのための拘禁枷(シャックル)なんだろうけどな。

 作業が済むまで小一時間ほど。王子との話し合いが一段落――というか平行線というか堂々巡りというか――となったようなので長老たちの拘禁枷(シャックル)も外して、昼食にした。こちらからは小麦粉と塩と水と植物油を提供して大型の缶詰も開けたので、質素に暮らしてきた彼らには久々に豪華な食事になったようだ。今後は森の恵みも手に入るだろうから、貧窮生活もそう長くはないだろう。

 俺とミルリルは昼食後、キャスパーで休むことにした。

 砂漠のなかに隠れ暮らす小さな集落だ。客のために空けられる家屋などない。長老たちからは気遣われたが、正直こちらの勝手にさせてもらった方が楽だ。

 キャスパーの前でオアシスのあった南方を振り返ると、地平線の少し手前まで緑の波が迫っているのが見えた。このまま侵食が続けば、いずれここも深い森に飲まれるのかもしれない。ソルベシアの民にとって、それは福音なのかもしれないけれども。

「どうするのが、幸せなのかな」

「わからんのう。こればっかりは、あやつら自身が決めることじゃ」

 王子の仇敵は倒した。帝国の頸木(くびき)からも解放した。見える限りの同胞も救出した。けど、ここから先は部外者が干渉することではないだろう。

 王子の力をもってすればソルベシアの再興も夢物語ではない――少なくとも自殺行為ではないようなので、王子や双子や巫女たちが残るというなら、それはそれで構わない。

海賊砦(むこう)に残ったテニアンたちも、望むならいずれ連れてくることもできよう」

「そうだな。その頃には、砂の国じゃなくなってるだろうけど」

 俺たちは、顔を見合わせて笑った。どこかで、雷鳴が聞こえた気がした。

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