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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
6:灼熱のソルベシア

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260/422

260:会敵

 オアシスの後背位置、最も高い場所に置いていたキャスパーを発進させ、スロープ状になった砂山を降りて敵の大軍勢に向かう。

「しばらく揺れる、射撃開始の合図まで弾薬は装填するな!」

「「「「はい!」」」」

 俺はオアシスを大きく回り込んで、いっぺん進路を西に取る。巨大カイエンホルトは西寄りに向かってきているので、それを避けて南東側に向かいたいのだけれども。

 最初の計画が変わってしまったため、オアシスの南側に掘った枯れ河(ワジ)で一万近い死体が山積みになったままなのだ。キャスパーで乗り越えると車重で潰れちゃうため、大きく迂回する必要がある。おまけに枯れ河(ワジ)は東西に延びているがオアシスに対して左右対称じゃなく、東側の方が二倍近く遠い。

 誰だクソ余計な手間を掛けさせやがって。どちらも自分でやったんだけれども。

 西の端で枯れ河(ワジ)を抜けたら、進路を南東に取る。オアシスに向かって北上してくる巨大カイエンホルトの前を斜めに横切る格好だ。振り切れるか捕まるかはお互いの速度次第だが、どのみち追い掛けっこにはなる。

 そこからは、キャスパーの速度と火力で敵陣を蹂躙しつつ、術者を探して南東に抜ける。

 見つからなければ外周から同心円を描いて捜索範囲を狭めてゆくしかない。速度差から兵士の追撃を受ける可能性は低いが、生きたまま残すと避難民の暮らす北側に逃げられるかもしれない。

 可能な限り、ここで殲滅する。

巨大カイエンホルト(あれ)には向かわないのですか」

「戦力としては、お飾りだからね」

 おまけに砂じゃ銃火器で撃っても効かないし。

「さっき、王子がいうておったであろうが。操る術者がおるとな。そやつらさえ仕留めれば、あのデカブツは終わりじゃ」

「「でも、あれが襲ってきたら」」

「問題ないのじゃ。化け物とはいうても、しょせん人の作った化け物。人が相手であれば、わらわたち(・・・・・)が遅れを取ることなどあるわけがない(・・・・・)のじゃ」

 彼女は、幸せそうに笑う。

「そうであろう、ヨシュア?」

 そんな顔をされたら、否定などできるわけがない。

「そ、そうネ?」

 カタコトか。声、思っクソ裏返ったし。次から次へと危機の連続だっつうのに、いまでも慣れん。しかし、これはホントに、あれだな。危地で結ばれたカップルの宿命かもしれん。きっと逃れられないほど強固に縛られているんだろう。俺と、ミルリルと、トラブルは。

 怪訝そうなミルリルの視線を受けて、俺は覚悟を決める。そうだ。最期のときまで一緒にいると決めたのだ。分かち難く結びついた、己の半身と。

「あったりめぇよ! 俺とお前がいる限り、何が相手だって屁みてぇなもんだ!」

 江戸っ子口調で開き直る。東京で暮らしたのは三年ほどしかないんだけどな。しかも二十三区外で……まあ、それはいいや。

「王子、術者の位置はわかるかな。大体でいいんだけど」

「反応は敵陣後方から。まだ、正確な位置まではわかりませんが」

「近付けば、わかるかのう?」

「「「「「「「わかる」」」」」」」

 巫女たちの言葉に、俺はミルリルと頷き合う。

「全員、射撃用意じゃ!」

「「「「はい!」」」」

「銃を触れたことのない新入りには、危ないので撃たせるでないぞ。加熱した銃の交換と、弾倉の受け渡しだけに留めよ」

「「「「はい!」」」」

「銃を触れるときは、革手袋を着けておくのを忘れるでないぞ」

「「「「はい!」」」」

 ミルリルさん、心配性のお母さんみたいになってる。でも俺だって手数が足りていれば、子供に銃を持たせたりはしたくないのだ。それをいうなら王子と双子も子供だけどな。でも万の敵と対峙するのに射撃手がミルリルだけだと、どこかで詰む。

「王子、フェルと、エアルもじゃ。銃撃よりまず、巫女たちのことを頼むぞ」

「「わかってる」」

「こちらは、ご心配なく」

 後部コンパートメントの端には、予備のPPShと弾倉を置いてある。使用済みと区別するために、空の弾倉と加熱した銃は中央の木箱に入れる段取りにしてあった。

 PPShで拳銃弾を四千発以上、PKMで小銃弾を追加含めて三千発以上だ。それだけ叩き込んで決着しないなら……。

 そんときは、そんときだ。最後までやってやる。どんな手を使ってでもな。

「さて、やってやるかの」

 ミルリルが銃座の下で、俺が渡した大荷物を広げていた。長いのから太いのから、助手席まではみ出してギチギチである。

「……見ておれ、下郎どもが。真の(・・)魔王夫妻に楯突いて生き延びられると思ったら大間違いじゃ」

「あ、あのね、ミルリルさん。すっごく頼もしいけど、さすがにKPVを銃座から手持ちで撃つのは無理だと思うの」

 三脚は外したくらいじゃ開口部から出ないんじゃないかな。

「要らん心配じゃ。やれるだけのことはやってやるわ。おぬしは運転だけに集中せい!」

「あっ、ハイ」

 敵の最前列までは、三百メートルくらいか。意外なことに、先頭は軽歩兵だった。KPVの射撃後に行われた配置転換に取り残されただけかもしれんが。

「ヨシュア、中列両翼、弓兵が斉射を加えてきよるぞ」

「無視していい。弓や投擲武器くらいなら窓でも止める。車体なら投石砲でも弾く!」

 ……はずだ。試してないけど。

 いってる傍から上空を埋め尽くすような大量の矢が雨のように降り注ぐ。後部コンパートメントで悲鳴が上がるものの、気にせずアクセルを踏み込む。

「大丈夫だ、射撃用意!」

「「「「「「はい」」」」」」

 巫女たちが左右両側にふたりずつ、それに護衛の双子がひとりずつ銃眼(ガンポート)から銃身を突き出す。(やじり)が全て弾かれたのを見て肚を据えたか、静かに合図を待つ気配があった。

「よーし、周囲は全部敵じゃ! 各自、射撃始めい!」

「「「「「「はい!」」」」」」

 凄まじい轟音が響いて無数の薬莢が後部コンパートメントを跳ね回る。血と肉片を撒き散らして薙ぎ払われる敵兵の姿が視界の隅に映った。

「良いぞ、その調子じゃ!」

 RPGの発射筒と弾頭ケースを抱えて、ミルリルが銃座に上がる。その直後、遠方で密集陣形(ファランクス)でも組もうとしていたらしい重装歩兵集団が吹き飛ばされ、突進してきた軽騎兵部隊の先頭が頭をカチ上げられて転げ落ち後続を巻き込む。最後のあれは、UZIの目玉撃ちか。振り落とされて馬体に潰され、視界から切れるまで起き上がるものはいなかった。軽歩兵の集団など逃げることもできず戦う術も持たず恐慌状態で立ち竦んでいるしかない。とはいえキャスパーが通過する頃には後部銃眼から撃ち出された銃弾でズタズタ引き千切られる運命にあるのだが。

 また前方に重装歩兵集団が……と思ったときにはRPGに吹き飛ばされて転がる。帝国軍のとっておきと思われる重装騎兵部隊など、中列で出番を待っていたのだろうが俺が視認するとほぼ同時に消滅した。

 斜めに走り抜ける車体に追い縋ってきた軽騎兵集団を弾き飛ばし、轢き潰してキャスパーの巨体は敵陣をまっすぐに突っ切って行く。

「“あいいーでー”を撒く。少し揺れるぞ!」

「「「「「はい!」」」」

 銃座から降りてきたミルリルは大荷物を持ってまた戻る。バックミラーで見ると、追い縋る軽騎兵集団がキャスパーの背後でひとつの巨大な水流のように集まり始めていたのだが、そこに放り投げられたIEDによって赤黒い噴水のようになって消滅した。

 返事をした巫女さんたちも“あいいーでー”とやらが何かは知らなかっただろうが、“揺れる”という部分から朧げなイメージを持っていたのだろう。動じる様子はなかった。

「王子! 巫女でも良い、術者がどこにおるか見当がついたらすぐに教えよ!」

「「「「はい!」」」」

「魔王陛下、左へ!」

 王子の警告に反応してハンドルを切った直後、それまで走っていたルート上に茶色い岩のようなものが降ってきた。

「おわぁ⁉︎」

 それが再び持ち上がったところで、巨大カイエンホルトの拳であるとわかった。直撃したところでキャスパーにどれだけのダメージがあったかのは不明だが、衝撃と轟音を見る限り試そうとは思えない。

 PKMの射撃音が響いたが、ミルリルの不満そうな罵りを聞く限り邪法で作られた巨体に小銃弾の効果はなかったのだろう。

「貴様の相手は、後じゃデカブツ!」

 気を取り直してPKMの攻撃が兵士たちに向けられる。砂の塊には効果がないとはいえ剥き身の肉体に対しては、むしろ過剰火力といってもいいほどだった。連射するたび兵士の一団があっさりと射抜かれ、後方までバタバタともんどり打って倒れる。

「誰か、これを頼むのじゃ!」

 銃座から後部コンパートメントに空の弾薬箱が降ってきて、巫女のひとりがそれを拾って“使用済”の木箱に運ぶ。弾帯を交換したのか、再び銃座で射撃が始まった。

「魔王陛下、前方右に術者の反応です!」

「ヨシュア! 右奥、赤い旗が集まっておるところに向かうのじゃ!」

「了解!」

 何を見つけたのか知らんけど、応答だけして従う。ミルリルは視力も勘も洞察力も、俺より遥かに鋭い。もし外れたところで、知ったことか。敵部隊のど真ん中、どうせ蹂躙するしかないのだ。

 フルスロットルで突進して行くと、旗が集まっているのはそっけない土色の天幕だった。巫女を助けに向かった補給部隊の白天幕に似てはいるが、周囲には杭が打たれてエスニックな注連縄というような感じの縄が張られている。地面に敷かれた絨毯で魔法陣のようなものが光を発していた。その中心部には、僧服の男たちが四十人ほど、車座で蹲っているのが見えた。

 あれが、術者か?

 不思議なことに、見据えていても存在が揺らいで霞み、ディテールが判然としない。

「妃陛下、隠蔽魔法です!」

「わかっておる! あやつら、小癪な真似をしよって。そのような小細工で、ドワーフの視力まで欺けると思う……なッ⁉︎」

 前方に気を取られたせいで反応が遅れ、気付けばバックミラーに悪夢のような光景が大写しになっていた。

「危……ッ」

 踏み込んできた巨大カイエンホルトの足が、サッカーボールでも蹴るようにキャスパーに向かってくる。

 後ろに攻撃するかと思ったミルリルが、呵々大笑とばかりに吠えた。

「ヨシュア、速度そのまま! 右に旋回(・・)じゃ!」

 俺はハンドルをいっぱいに切る。蹴り抜いた巨大カイエンホルトの足がキャスパーの後部を掠める。目を見開いた振り返った僧服の男たちが、いまは俺の目にもはっきりと見えていた。

「いいぞ、全弾ぶち込めい!」

 銃眼と銃座を含めた数百の弾丸が発射され、天幕内の男たちを一瞬で挽肉に変えた。

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