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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
6:灼熱のソルベシア

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244/422

244:王子の帰還

 翌朝、来るように伝えた神木の前でハイダル王子と護衛の双子は直立不動で待っていた。

「おはよう」

「「「おはようございます」」」

「おはようなのじゃ。これを、ひとりひとつ持つが良い」

 彼らに貸し出す装備はPPSh-41(ペーペーシャ)ということになった。今回の行動方針を考えると、他の銃器はあまり現実的ではない。

「これは?」

「即死の(やじり)を打ち出す、魔道具みたいな武器だ」

「ケースマイアンで三万の敵兵を屠ったのが、これじゃ」

 ミルリルの言葉に三人は一瞬だけ怯んだが、すぐに持ち直して銃を受け取る。ひとり一丁、弾薬未装填の状態でPPShを渡して原理を説明、そこから基本操作・通常分解と整備を教えながら扱いに慣れさせる。

「午後からは実際に弾薬を使った射撃訓練に入るからね」

 昼食は子供たちみんなで焚火を囲んで、収納にあった有角兎(ホーンラビット)を焼いた。

 ソルベシアにはいない生き物だとかで、解体も切り分けも試行錯誤しながらだ。焼き加減も味付けも手探りだったから、当然できあがった肉はひどく雑で適当なものになった。あちこち焦げてたりムラがあったりしたけど、すごく美味かった。子供たちはぎこちない笑顔を見せながら動けなくなるまで兎肉を食べて、王子が作り上げた暖かな森の木陰で眠った。

「……良い子たちではないか、のうヨシュア」

「そうな」

「十名のなかで代表者は誰じゃ」

「ぼくたちが率いていたので、とくに序列はないです」

「決めておくのじゃ。戻れなくなったときのために」

 顔を強張らせた王子たちに、俺も頷く。

「常に最悪を想定して備えておけば、不幸は少なくて済む。ここの領主に頼んではおいたけど、不在の間は彼らだけで過ごすことになるしね」

「「「はい」」


◇ ◇


「その玉座の座標に飛ぶというのは、転移みたいなもの?」

「機能は、近いかもしれません。でも正確には、王族を縛る呪いです。王と王族が責任を果たすために課せられたものだときいています」

 玉座に向けての一方通行。脱出用ではないのだ。そして、いっぺん飛べば現在地の海賊砦に戻る手段はない。

帰還手段(それ)については、少し待ってもらうのじゃ。わらわに少し、当てがあるのでのう」

 あの……ミルリルさん。なんか嫌な予感がするんですけど、大丈夫ですかね。

「ソルベシアの玉座が破壊されていたり、移動させられていたりする可能性は?」

「ありません。玉座は、いわゆる“椅子”ではないのです。王として政務・商務・軍務を果たすための魔法陣のようなもので、カイエンホルトがその機能を掌握していることは間違いありません」

「防御機能や護衛は」

「当然、兵は配置しているでしょう。玉座の間だけで最大百名程度」

「百か。楽勝じゃの」

「「そんなわけない」」

「おそらく最精鋭の近衛部隊です。側仕えの五名ほどは魔導防壁を張った重甲冑を着込んで、非常事態には盾になるように動きます」

 ですよねー。そうだと思ったんだ俺は。無事に戻るまでが誅伐行です、はい。

「玉座の間は王城の最深部にあります。そこから脱出する間には数千の兵士が配置されているはずです」

 俺は王子たちから城の構造や脱出経路を聞き、通路の幅や強度を確認してルートの選定を行う。

「城の外までは、転移かのう。おぬしら、合図と同時にヨシュアにしがみつくのじゃ」

 こう、といってミルリルは俺の首に後ろから抱きつく。王子と双子の護衛は抵抗があるようだが、いざとなれば全員ひっつかんででも飛ぶしかない。

「城の外は、城下町があったのですが現在はおそらく更地です」

「なんぞ車両(くるま)が出せるかの」

「敵の攻撃能力次第だな。要注意なのは攻撃魔法と攻城兵器」

「帝国には投石砲と遠雷砲があります」

 後者は聞いたことがないものだけど、どうやら攻撃魔法陣を組み込んだ魔道具で強力な雷を落とす広域制圧兵器らしい。人間だと即死レベルというからシャレにならん。耐える装備を考えるよりは、早急に潰す方が賢明か。

「まず全員の生還が大前提だ。次に、カイエンホルトの殺害。その順番を間違えているようなら考え直して欲しい」

「協力していただく以上、異論はありません」

 双子は多少の不満を持っているようではあるが、王子が断言したことで不承不承、それを受け入れた。

「玉座の間に出たら、君らはカイエンホルトを殺せ。他の兵士は俺とミルリルが始末する」

 王子たち三人は各自ドラムマガジンを装着した銃を革帯で二丁ずつ持って、帝国の“魔王”を最短時間で仕留める。現地でモタモタしている時間はない。迷いも連携不足も即座に死に繋がる。

「問題は、こっちだな。重装歩兵が混じってるなら、トカレフ弾は無意味だ。AKMかRPKで弾丸が通るか? 重甲冑を着込まれると跳弾の可能性もあるんだが……」

「わらわは、“うーじ”があれば万全じゃ! いざというときは、“あらすかん”もあるしの!」

 あなたはそうでしょうよ。でも俺はどうすんだ。百からの敵兵を相手にするには、弾幕を張れんと荷が重いぞ。

「なに、硬い(・・)奴らは、わらわに任せておくのじゃ。ヨシュアは軽歩兵だけ薙ぎ払えば良い」

「それで行くしかないか……」


 午後からは、実弾射撃。襲撃に必要な連携の確認と合わせて実践的な訓練を行う。安全性の確保だけは厳しく教えるが、そこから先はアホほど撃ちまくって射撃を感覚で叩き込む。

「狙い過ぎるな、着弾で調整しろ!」

「「「はい!」」」

「撃った後に動きを止めるな!」

「「「はい!」」」

 どのみち精密射撃など無理だし、必要もない。手当たり次第に弾丸をバラ撒いて周囲の敵を殲滅し、即座に撤収するだけだ。最優先は密閉空間で圧倒的多数の敵に包囲されている危機的状況をいかに打破するかだ。捨て身はなし。自己犠牲もなしだ。全員で生還することを最優先に考えなくてはいけない。

「味方の位置だけは常に確実に把握するのじゃ。味方の弾丸でも当たれば死ぬ。最悪の無駄死にじゃ」

「「「はい!」」」

「銃を持ち替えるときは安全装置を掛けろ! 撃つとき以外は絶対にトリガーに触れるな!」

「「「はい!」」」

 中途半端な気持ちなら中止させることも考えていたが、三人は真剣に訓練に励んで、見るみるうちにサブマシンガンへの習熟度を高めていった。

 息の合った連携が見事で、弾倉交換のタイミングも無防備にならないよう互いにサポートに回っている。正直なところ非装甲の的なら俺たちの助けは必要なさそうだ。

 この調子で進めば二、三日で決行できそうなところまで来ていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] こう言う室内でのインファイトはイサカに 鹿玉とスラック弾交互に詰めて薙ぎ払うか MAK10にアーマーピアッサーを詰めて豆撒きだね 無論サプレッサーを外し100%のファイヤーパワーで! 薙ぎ払…
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