22:武装する亜人たち
中央作戦司令室に定められた教会廃屋の前庭に、俺は収納から出した木箱を次々と積み上げてゆく。整理も分類も大雑把にしかしない。どうせ引き渡して終わり、なんてことになるわけがないのだ。それどころか、端から波乱の予感である。
直情径行で感情がすぐ顔に出る獣人のみならず、ふだんは無表情のエルフや仏頂面のドワーフまでもが、呆れ半分・期待半分といった表情で重火器と有刺鉄線の山を眺めていた。
良くも悪くも冷静なエルフと違い、ドワーフは頑固な技術屋だけに最初は銃という聞いたこともない武器に懐疑的だったが、俺がAKMで行った一回の試射でコロッと支持派に寝返った。
驚くことに、彼らは見て聞いて触ってすぐに、銃という武器が持つ先進性と脅威、利点と欠点、問題点と対処法を大まかに読み取って理解し自分たちなりに考え始めていた。
「なんじゃ、これは。槍……いや、これも“じゅう”か?」
「この箱、見慣れぬ文字だな。いや、箱自体もこれは複合素材を圧縮して……」
「待て、そもそもヨシュア、この量をどこから出した?」
「ああ、おぬしら。ヨシュアのやることを、いちいち気にしていても疲れるだけぞ?」
失礼だな、ミルリルちゃん。
それもそうだなー、なんつって冷静に確認作業を始めるみなさんも大概ですけどね。
有刺鉄線はロール状になっていて、広げて固定するだけで突破困難な障害になる。すぐに有効性に気付いたのはドワーフだった。金属加工はお手のものという種族特性からか、そのイヤらしさにも一番早く気付いたのだろう。
「……えげつないな。こんなもん、並みの覚悟じゃ越えられんぞ。それどころか、引っ掛かって身動きが取れなくなる」
「だろ? 止まったところを、こいつで薙ぎ払う」
俺が指したのは、M1919重機関銃。ちなみに、弾薬でいえば軽機関銃と同じ小銃弾だが、一般に設置型のものを重機関銃という。この2丁ある高火力火器は、最前線に置いて十字砲火を加えたい。
「なんだ、それは」
「重装歩兵でも即死させられる鉛の礫を、数百単位で連続発射する武器だ」
今回のように多数の敵が相手の戦闘では、敵の攻撃射程外からの蹂躙・殲滅手段をどれだけ確保できるかが勝敗の鍵になる。その点、長射程の30-06なら200m以上が楽に射程圏内だ。
弾丸を見せながら戦闘プランを話す俺の言葉に、ドワーフが揃ってドン引きした。
いざというときのため、街に登るスロープにも機関銃を据えたいところだが、いまのところは数が足りない。機関銃は(主にコスト的に)貴重なのだ。
その代わり、同じ弾薬を使うボルトアクションのM1903小銃が100丁近くある。これは全住民が操作可能になってもらう。
「そ、そっちの長い方は、なんだ?」
「あれは、さっきのと同じ弾丸を1発ずつ発射する武器だ。有効射程は、1/4哩くらいなんで、試してみてくれ」
「ゆうこうしゃてい?」
「狙って当たる距離だ。届くだけでいいなら、半哩以上は飛ぶからな」
今度はエルフが一斉に顔を引き攣らせる。一瞬、怪訝に思ったが、そらそうか。長弓が役立たずといわれたようなものだからな。
後でフォローしないと。まあ、覚えてたらな。
「そ、そうか。すごいな。その、さらに長いのが、ひとつだけあるようだが」
「それは、エルフで最も目の良いやつに担当してもらいたい。発射したときの衝撃も激しいから、ある程度は筋力も体格も必要だが……」
俺の言葉に、ひとりのエルフが出てくる。
揃ってすらりと背が高いエルフのなかでも、さらに頭ひとつ近く長身。さらにドワーフとの混血かと思うくらいに筋骨隆々。顔に走った刀傷があり、歴戦の勇士といった表情の偉丈夫だ。
エルフやドワーフだけでなく、ふだん傲岸不遜といった印象の虎娘や熊男でさえも、怯んだような顔でそのエルフを見据える。
――エルフ、だよな。一応、耳は尖ってるし。
「ケースマイアン解放軍の長で、エルフのケーミッヒじゃな。ふたつ名は“龍殺し”だそうじゃ」
「……フン。お前のくだらん玩具を、俺に持てとでもいうのか? もし俺を満足させられるようなら使ってやってもいいがな」
ドゴンッ!
渓谷の上から試射した 14.5×114ミリ弾は、平地の中ほどでたまたま日光浴をしていた不幸な大亀の甲羅に着弾。半身を粉々の肉片に変えた。距離は楽に500mはある。
「うぉおおお、すっげーッ! 初弾で命中させちまったよ! さっすが龍殺し! あのカメ、バラバラじゃん……!」
サイモンがサービスとして付けてくれた双眼鏡で“戦果”を確認し、振り返った俺を、当の“龍殺し”が対戦車ライフルを構えたまま苦笑いの表情で見る。周囲のエルフやドワーフ、獣人たちも完全にドン引きしている。
あれ? なんでそんな顔するの?
「…………これを作ったやつは、頭がおかしい。それにたぶん、お前もな」
「いやいやいや、殺すつもりで撃ったんじゃないのか? 殺しちゃダメなの?」
「ああ、ヨシュアは知らんのだな。あれはカメではなく、陸走竜というドラゴンの亜種じゃ。剣どころか戦槌も、攻撃魔法も跳ね返すという、鉄壁の装甲を持った草原の化け物じゃ。いいとかダメではなく、殺せん。……ふつうはな」
「俺が殺したのは、攻撃力も防御力も劣る下級小龍だったが、それでも半日がかりだったんだぞ!?」
いや、知らんし! そんなん、撃つ前にいえや!
「ちなみに、肉はものすごく美味いぞ」
「身体強化と魔力向上の効果もあると聞くしのう。市場に回ることはないし、あったとしても高価過ぎて、食ったことがある奴はおるまいが」
「「「「わぁーッ、どらごんにくーッ!」」」
さいですか。まあ、結果オーライ。
ともあれ、銃も弾薬も膨大な量を供給されたので、国民皆兵を目指して住人全員に射撃訓練を行ってもらった。まずは徹底して安全装置と安全な操作の習得からだ。
1:射撃直前まで、薬室には絶対に弾薬を入れない。
2:撃つときまで、トリガーガードのなかには絶対に指を入れない。
3:殺したい相手以外には、絶対に銃口を向けない。
これ、絶対厳守。
獣人たちはボルトアクション式のM1903小銃に、案外すぐ慣れた。重さも長さも反動も、体力に優れた彼らには苦にならないらしい。おまけに目も、勘もいい。
その反面、スコープは不評だった。裸眼に比べて不自然な歪みが気持ち悪いのだそうな。せっかく20本も用意したのにな。まあ、見えてて当たるなら、使わなくていいけど。
彼らは生粋の狩人で、動作に無駄も隙もない。棒立ちで撃つのではなく、隠れて伏せて、撃っては即座に音もなく移動するという特殊部隊のような動きを本能的に行うのだ。銃剣を支給することで、距離を詰めてきた敵にも難なく対処出来そうだ。
離れてよし、近付けばなおよし。正直、俺には真似出来ない。する気もない。雑な照準でも弾幕を張れるAKMくらいがちょうどいい。
在庫処分で“ひと山いくら”状態のM1903用銃剣は長さも仕様もバラバラだったが、好みと体格に差があり個性を尊重する獣人たちからは逆に喜ばれた。
余談ではあるが、獣人に一番人気の武器が何かおわかりだろうか。
これが意外というか、さもありなんというか、スコップである。仕掛け罠と陣地構築用に配布したのだが、軽く丈夫で突き易く斬り易く、手腕の延長がごとく振り回せ、おまけに穴も掘れると引っぱりダコ。
いや、穴掘れよ。
「おーいヤダルー、足りないもんないかー」
「そうなー、いい男ー?」
「悪いな、どこも品薄だー」
最初に会ったときには殺されかけた虎娘のヤダル(渋々だが名前を教えてくれた)とも、なんとなく馴染んできた。俺が仲間に害を加える人間ではないと、認めてくれたのだろう。
ムスッとしてても憎まれ口叩いてても、シッポが感情丸出しなので面白い。指摘したら怒るので黙ってるけどね。
あちこち見回りながら指示と指導と相談を行っている俺に、ミルリルがさりげなく寄り添う。その動きが仲良しさんというよりも護衛っぽい感じなのは、俺が頼りないからではないだろうな。
「順調じゃな。狩猟用弾頭は、手に入ったのかの?」
「おう、500発だけどな」
多いようにも思えるが、弾薬全体からのパーセンテージとしては“ようやく確保した貴重品”なのは事実だ。なにせ今回、サイモンから供給された30-06弾は――重機関銃用にベルト連結された分を除いて――約7万発。弾薬に掛かるコストが想定より増え、さらに装備をあれこれ追加したこともあって30万ドルの予算は超過している。サイモンからは“貸しにしておく”と、戦勝後の見返りを期待されてしまった。
そうそう、その狩猟用弾頭、大型獲物用というだけあって、威力はえげつない。
装薬量が通常弾よりも多く、発射エネルギーが高いのだ。さらに弾芯の鉛が半ば露出しているため、着弾すると大きく変形して運動エネルギーを標的の体内に残らずぶちまける。
甲冑を着ていても効くには効くが、やはりここは最大の効果を求めたい。
「M1903の射撃適性が高い者、5人くらいに渡して、主に騎兵の馬を狙ってもらう」
「なるほど、まず敵の足を奪う、ということじゃな」
「それもある。移動手段がなくなれば、攻められず、逃げられないからな」
見晴らしのいい広い平地で馬を喪った重装騎兵など、盾も弓もないただの的だ。速度が落ちただけでも、優位性はゴッソリとなくなる。
「それ“も”、というのは、足を奪う以外に理由があるのか?」
首を傾げるミルリルに、俺は簡単に説明する。
「いや。足を奪う、優先順位だ。まずは、指揮官の馬。次に、突撃してくる先頭の馬」
騎兵は育てるのにも維持するのにもアホほどカネと時間が掛かる。実質それが可能なのは財力と地位を持った貴族だけだ。彼らが危機に陥れば、平民の歩兵たちが救出や撤退支援を命じられる。それは、簡単に殺すよりも何倍も敵の手間と戦力を削ぐことになるのだ。
突進してくる騎兵の先頭が倒れれば巻き添えも発生するし、大きく目立つ戦力を派手に殲滅すれば、その死にざまを後続が見て、恐怖心も広がる。
ほら一石二鳥で一挙両得、とドヤ顔で振り返った俺を、ミルリルの苦笑が迎える。慣用句がちゃんと通じているのかどうかは知らんけど、大意は伝わっている風だ。
「……おぬしは、相変わらずじゃのう」
「ん?」
「理に適っていて、簡潔。有効ではあろうが、清々しいほどに非道……いや、外道じゃ」
「しょうがないじゃない、戦争だもの」
みつを風にいってみたけど通じるわけもなく、ミルリルは笑顔で応える。
「いや、責めているわけではないぞ。感心しておるのじゃ。殺すよりも敵を苦しめる方策など、我らでは思い付きもせぬ発想じゃ。そして、感謝しておる。おぬしがいてくれて、本当に良かったとな」
会話の間も、ミルリルはずっと御満悦の表情だった。
それはたぶん、俺と一緒にいるからではない。彼女の左肩にはM1911コピー拳銃が収まったホルスター、そして右肩には彼女が“うーじ”と呼ぶイスラエルのタフな短機関銃、UZIがぶら下がっているからだ。
そのどちらにも、たっぷりと45口径弾が詰まっている。たった1発の射撃体験だけで、どうやらミルリルはアメリカ人ばりの45口径信仰者になってしまったようだ。
「ミルリル、ライフルの練習はしないのか?」
「わらわに狙い撃ちは、不要なのじゃ。射程が足りないなら、敵に近付けばよい。目が見える、距離までな」
満面の笑みで答えられてしまった。
UZIは通常9ミリパラベラム弾仕様なのだが、サイモンが調達したものは、どこぞの国からの特注とやらで45口径に換装されている。9ミリより大きな反動も、サブマシンガンとしては重い(弾薬込みで4キロを超え、長大なM1903小銃と同じくらいある)重量も、彼女の筋力ではまったく苦にならないのだそうな。むしろ絶大な信頼感の証として常に肌身離さず持ち歩いている。
なにそれ、怖い。
「なあ、ヨシュア。このM1919の射手(機関銃手)と助手(装弾手)は、ドワーフにやらせてくれんか」
ヒゲ面のちっこいお爺ちゃんたちから呼び止められ、真剣な目で訴えられた。
どうやらこの熟練機械工さんたちは、三脚に乗ったデッカイ機関銃に魅入られてしまったようなのだ。ただでさえ精巧な機構にぞっこんだった彼らは、その威力を目にして以来、もう片時も手放そうとしなくなってしまった。奪い合うように整備され磨き上げられて、100年前の武器とは思えないくらいに輝いてビッカビカである。
さらに予想外だったのは、銃身の過熱を抑制できるというドワーフのチート能力。火魔法というのか、熱の制御を行う彼らの生得魔力は金属に熱を与えるだけでなく奪うことも可能なのだとか。
銃身交換が不要とまではいわないにしても、そのペースを調整するのは(ドワーフには)簡単なのだそうな。
おう、ファンタジーや。またスゲー地味だけど。
「ああ、そうだな……でも、危険な役割だぞ? 最前線で、数万の敵と対峙することになる」
「それは、まったく問題ない。わしらは4人とも、死に掛けのジジイじゃ。若いもんは後衛に回す」
「……お、おう。……じゃあ、頼むかな。その前に、きっちり銃座を作るよ。矢が降って来たくらいじゃ屁でもないくらい頑丈なやつをな」
サイモンからは布ベルト式の銃弾を追加で5千発と、サービスで防弾板を何枚かもらってある。軽装甲車両の追加装甲板だったらしいけど、ミルリルの機械弓でも貫くのは無理だという折り紙付きだ。
最新最強殲滅兵器を設計したはずのミルリル先生は、多少ショックを受けてたけどな。
それを組み合わせて簡易陣地を作る。もともとボトルネックになっていた渓谷の入り口を、丸太と溝と有刺鉄線でさらに動線を限定させ、両脇から射線を交差するように銃座を配置する。いわゆる殲滅用の空間を作るわけだ。
さらに、そこを強行突破されたとしても、渓谷の奥まったところにも阻止線を作ってある。直前に来るまで視認できないが、騎乗ではほぼ絶対に越えられない。一定数の敵がそこに入ったら、上空から死のプレゼントが降ってくるという段取りだ。
「なあミルリル、前回……ここが陥落したときには、どういう攻撃を受けたのかわかるか?」
「数十倍、数百倍の、数の暴力に押し切られたと聞いている。それと……有翼龍じゃな」
やっぱり。上空支援があったんだ。
だったら今回も同様だろう。対空警戒が必要になりそうだ。高速で飛来するワイバーンに対して、単発のシモノフだけでは難しいかもしれない。長射程で高火力の弾幕……
「ふむ。あいつの出番だな」
俺は教会前に戻り、隅に置かれたとっておきの木箱を開く。この銃が現役当時も、体格に優れ判断力に秀でたものにしか与えられなかったと聞く。これの銃手はひとつの名誉職であり、また狙われやすい危険な役割でもあった。
「なんじゃ、それは“しものふ”の親戚か?」
「どちらかというと、シモノフよりM1919機関銃の親戚かな。こいつで、龍を撃ち落とす」
「それはエルフが受け持とう」
振り返ると、6人のエルフが立っていた。決意を秘めた目が、俺を見据える。彼らは、もう長弓だけではこの戦争に勝てないことを理解していた。それだけに、無意味な矜持を捨てることに躊躇がない。
「いや、どうか我々にその役目を果たさせて欲しい」
「我らも射手としては一流と自任している。M1903小銃でも、他の仲間たちに引けは取らんが……」
「エルフの誇りとして、最も危険な場にいて、最も危険な敵に対したいのだ」
「その重責を、ケーミッヒだけに背負わせるわけにはいかん」
口々に訴えるエルフたちの目は、真剣だった。長弓が無用の長物になってしまった戦場で、彼らは彼らなりに考え、自分たちの出来ることを探っていたのだ。
「……そっか。じゃあ、頼むよ」
俺は、彼らに6丁の銃を渡す。20発入りの箱型弾倉を、各3個ずつ。
それぞれにBARを抱えた彼らは、ようやく得た相棒の長さと重さに驚き、その強靭な鋼の頼もしさを実感したのか、涼しげに笑った。
「報告、王都で大規模な兵の動員を確認」
「報告、糧秣と思われる物資の流入が増加」
「報告、先遣隊らしき軽騎兵の小部隊、数波に分かれ出立」
上空警戒を続けていた有翼族(鳥の獣人)からの相次ぐ緊急連絡に、俺たちはいよいよかと覚悟を決めた。
怯む者はいない。逃げる場所などないのだ。勝って生き延び故郷を守るか、死んで全てを喪うかだ。
不思議なことに、心は静かだった。共に闘うケースマイアンの民を、俺は愛おしく思った。




