218:和解と丸投げ
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……あ、あれ〜?
おかしいな。どうしてこうなった。サルズの衛兵隊は無事に救出してきたし、残っていた敵対勢力は一掃した(というか勝手に自滅した)し、めでたしめでたしで今夜はパーリーナイツ、だったはずじゃないのかしら。
「さて、魔王陛下に妃陛下。お疲れのところをわざわざお越しいただき恐縮だねえ」
おうふ。エクラさん、ムッチャ笑顔だけど怖ぇえ。つうか、なんでか知らんけどムスッとしてるより笑顔の方がずっと怖ぇえ!
「心を探りにきているからではないかのう?」
「ミルリルさん、冷静に分析してないで守ってくださいドワーフの超科学的能力かなんかで!」
「すーぱーなんやらは知らんが、おぬしなら大丈夫じゃ。最初から内心を微塵も隠せてないからのう」
「そうみたいだねえ……一応仮にも商人を名乗っておきながら、ここまで考えが丸見えな奴を見たことがないよ」
「うむ、そこは同感じゃ」
ちょっと! あんた方なんで共感してんですか。
「しかしの、それでしっかりと結果を出しておるのじゃ。ターキフなりの生き様なのであろう。わらわは、悪くいう気はないぞ」
「それはどうも。正直過ぎてすみませんな」
「正直、というのとは少し違うのう。おぬしは、おそらく……興味がないのではないかの」
「ほう?」
エクラさんがミルリルの言葉に首を傾げ、興味深そうな顔で俺を見る。なんですのん、興味がないって。俺が?
「他人にどう思われるかを、じゃな」
あー、っと。どうだろ。そんなこといわれたことない。それについて考えたこともないな。
「初めて会うたときから、ターキフには自分をえらく低く見る癖があるのが不思議だったんじゃ。しかし、それも同源じゃな。おぬしは、他人にどう見られようが構わんのじゃ」
「……へえ、それは面白いねえ。揺るぎない自信と確固たる自我があるか、それとも逆に、失うものなど何も無いと開き直っているか、だけど……」
ミルリルさんとエクラさんは揃って俺を見つめ、揃って首を傾げる。
「「どっちにも見えん」」
ハモるな。ほっとけよ俺の生き様なんて。そんなん知らんわ、自覚してねえし。
「はいはい、俺の話は結構ですよ。御用を伺いましょうか」
「簡単だよ。アンタたちが、何をしたいのかを知りたいのさ」
「アイヴァンさんには話しましたけど」
「あいつは口を噤んでる。ちょっとやそっとの脅しや魔法じゃ吐きゃしない」
「魔法、掛けたんですか」
「ああ、“人心掌握”程度の軽いもんだったけどね。魔王の冬休みに遊びにきたんだ、とかなんだとかいうだけで全然さ」
思っきり効いてんじゃねえか。“人心掌握”て、名前を聞く限り、全然軽くねえ。
「それで正解じゃ。わらわたちは、遊びに来ておる」
「……あん?」
「ケースマイアンが雪に閉ざされて、春まで戦争もなさそうだし、食料にも生活物資にも事欠かなくなっていたし、俺たちも外の世界を見たくなったので海のある共和国まで遊びに来たんですよ。海の魚を食べたいなって思って」
エクラさんは胡乱な表情でこちらを見る。ジト目、というのとはちょっと違うな。しゃべる昆虫でも見るような顔だ。失礼だなオイ。
「それがシーサーペントかい? ありゃ魚じゃないよ、水棲の龍だ」
「だから、シーサーペントも海賊退治も、巻き込まれただけなんですって。自分の意思で殺しに行ったのなんて……なんだっけ、あの“土竜義賊団”の女首領」
「コフィナのことかい? ドワーフの?」
「おお、そやつじゃ。わらわの父の名を騙りよったのでな。あの下衆だけは、この手でブチ殺してやったが……他は、ついでじゃ」
エクラさんは溜息を吐き、頭を抱える。
「冗談だろ、本当にカジネイルの娘かい……」
たぶん、だが……アイヴァンさんの報告と、直接締め上げて聞き出した内容とが、彼女には到底受け入れられるようなものではなかったので真実を知る必要があると思っていたのだろう。で、いま面と向かって俺たちと話して、それがほぼ真実だと知ったと。
「しかし、あれじゃないか。“自分や身内に危害を加えなければ殺さない”、とかは聞いたがね。共和国に来てからの、アンタ、たち、は……」
マッキン領主とも連絡は取ってたんだっけな。じゃあ、あの王国南部貴族エルケル侯爵の警告文書みたいのも知ってるわけだ。
「……なるほどね」
「そうじゃ。わらわたちは冬の間だけとはいえ己が暮らす地を、そこで共に暮らす者たちを“身内”と見做すことにしたのじゃ。それが、多少の持ち出しやら手間やらが掛かったとしても、快適に過ごす秘訣だと考えたわけじゃな」
「それが……うぃんうぃんうぃ〜ん?」
「うむ、その通りじゃ」
いっこ、多いですけどね。
「貴殿も、いまのところはその一部ぞ?」
「……笑わせてくれるじゃないか。このアタシが魔王の身内とはね」
「魔女であれば、道理であろう」
ミルリルの冗談に、エクラさんは笑って頷く。
「参った。とりあえずは、無礼を詫びよう。疑ってすまなかったね。いまからアンタたちは、サルズのいち冒険者だ。頼りにしているよ」
「ありがたいお言葉です。ついては早速ですが、あれの始末をお願いできますか?」
俺は窓の外を指して、エクラさんに面倒ごとを引き継ぐ。
「……あれ、って何だい?」
重量のせいか体積のせいか、ええ加減ハラんなかがドンヨリし始めたので、収納の中身を整理して要らないものを、冒険者ギルドの解体倉庫前に積み上げておいたのだ。
死体が数百と、金鉱石を積んだ馬橇が四両と、武器装備がふた山ほど。雪をかぶっているから腐敗も進むまい。
積み下ろし用に荷馬車を回すスペースなのだろう、テニスコート三面分はある空き地が埋まってしまっているけれども、俺は知らん。
「今回の遠征で回収してきたものです。とりあえずは南領で……というか主導的に動いたサルズで処理すべきことかと」
「ちょ、っとターキフ⁉︎ あんなに、どうすんだい⁉︎」
「さあ……わたしには、なんとも。共和国内での内政問題について、“いち冒険者”が関わるのは荷が重いので」
「えらい、ぎるどますたーさまに、はんだんを、ゆだねるのじゃ」
「ミル、ターキフも、ちょっと待ちな! 都合のいい時だけ……ちょっと!」
すげえ棒読みのミルリルさんを抱えて、俺はドアから逃げ出す。いち冒険者でいいっつったのギルマスさんだし。
「さあ、アイヴァンたちと飲みに行くのじゃ〜!」
「おおー!」
金鉱石はほとんど渡したが、俺たちと衛兵隊でひとり一個ずつをお駄賃にもらっておいた。せめて危険手当と燃料代くらいは、もらっておかないとな。
今夜は豪遊だ!




