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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
5:魔王の冬休み

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207/422

207:ダンジョンズ&ドラッガーズ

 これは、なかなか難物だ。

 念願のダンジョン入りを果たしてすぐ、俺はかなりの苦戦を強いられることが判明した。というのも……

「リスクとコストが、見合わん」

 案内がてらダンジョン入口まで馬に乗せて来てくれた(助力は不要と断って、そのまま領境に向かってもらった)衛兵隊のアイヴァンさんたちから聞いた情報によれば、だ。ざっくりした魔珠や素材の買取り価格。それが案外、安いのだ。

 数が多くて難易度の低い魔獣、ゴブリンや有角兎(ホーンラビット)に関してはまあ、安くても納得できんこともない。だが、数がそこそこ多く遭遇頻度が高く難易度も中堅どころといった感じの洞窟群狼(ケイブウルフ)大岩熊(ロックベア)あたりの大物が、魔獣ではない(体内に魔珠がない)ため素材の買取価格が渋い。おまけに肉も不味いというから良いとこがない。

 五頭前後の洞窟群狼(ケイブウルフ)、あるいは標準的サイズの大岩熊(ロックベア)というのは四級の四人パーティでギリギリ討伐可能な脅威というから、おそらく剣や魔法で仕留める分には採算が合ってるんだろうけど、動きが速いので銃器では辛い。あまり無駄玉を撃つと赤字転落の可能性が出てくる。

「あんなものは、拳銃弾一発で十分じゃ」

 そら、あなたはそうかもしれんけども。暗がりのなかを高速移動する大きめのチワワくらいの狼とか、ダンジョンの天井付近まで跳躍する柴犬サイズのウサギとか、一発で射殺するのは俺には無理です。弾幕を張らんと怖い。ブローニング・ハイパワーで9ミリパラベラム弾を撃ちまくったら、たぶん赤字だろう。装弾数十三発とはいえ、スペアマガジンがないのも痛い。MAC10なんて論外だ。全自動射撃(フルオート)だと三十発の45ACPを2秒で消費するし、単発射撃(セミオート)だと狙いにくいし当たらんし……

 となるとAKMか。弾薬としては安いが、7.62ミリ弾を派手にバラ撒くってのも、さすがに気が引ける。うるさいし奥に冒険者が残ってるというから二次被害も気になる。無視して蹴散らして突破しても良いんだけど、数として膨大な魔獣を残したままにすると、おそらく負傷者がいるであろう遭難者を連れての帰還が無理ゲーになる。ショットガンしかないのかな。たしか手持ちの散弾は、あと百発ちょい。追加購入するか。いや、長銃身で銃床(ストック)付きのイサカでは狭い場所で取り回しが悪い。

「ああ、そっか」

「どうしたんじゃ?」

 ここでサイモンからもらったサービス品、スタームルガーMk2の出番だ。拳銃としても軽くて低反動。使用するのは市販弾薬のなかでも群を抜いて低コストの22口径ロングライフル弾。乳幼児の指くらいの小さなタマだ。サイモンから渡されたのは有名メーカー製(ファクトリーロード)の純正弾薬だったけど、ゴチャッとバラでプラスティックのバケツに入ってた。ラベルによれば千四百発入りだそうな。すげえなアメリカ、こんな売り方してんの初めて見たわ。

「よし、小物は練習がてら俺の方で担当するね。大物が出てきたら頼む」

「了解じゃ」

 銀色のステンレスボディで重厚銃身(ヘビーバレル)減音器(サプレッサ)仕様。弾薬のエネルギー量は45ACPの半分以下だけど、これがなかなか命中精度は良いし殺傷力も案外、高いのだ。

 ぺスペスと気が抜けたような音を立てながらも、スタームルガーMk2はほとんど反動もなく驚異の集弾性能で洞窟群狼(ケイブウルフ)有角兎(ホーンラビット)の頭を着実に撃ち抜いてゆく。正確にいうと抜けてはいないみたいなんだけど、それだけに運動エネルギーは余さず確実に標的へと送り込まれている。小口径とはいえ体内で潰れて花開く(・・・)ホローポイント弾。即死はしないながらも、被弾した獲物は悶えつつ数分で倒れて事切れる。なかには逃げ延びたのもいるかもしれないが、そこまで構っている暇はない。後に脅威として残らなければいい。ぺスぺス、と。

 しかし、これホントに撃ちやすいな。22口径ナメてたわ。

「ほう、上手いもんじゃのう。おぬし、腕が上がったのではないか?」

「銃が良いんだよ。俺22LR(このタマ)、けっこう好きかも」

 とはいえ低威力なのは間違いないので、たまに現れる革鎧のゴブリンや硬い大岩熊(ロックベア)はミルリルに担当してもらう。

 死体は一定数まとまったところで邪魔にならないように収納。解体は時間もないので省略、ギルドで依頼できるというから丸ごと持ち帰る。

 Mk2に付属した予備弾倉はプラスティック製の安っぽいのを含めて三本。隙を見て再装填しつつ射撃を続ける。奥に孤立した遭難者がいる状況でなければ娯楽用射撃(プリンキング)を楽しむところなのだが、サクサクと駆除作業を続ける。

 やがて血の匂いに誘われてか、大型の生き物が移動してくる気配があった。

「ミル?」

「わかっておる。あれは……巨鬼(オグル)じゃの。大丈夫じゃ、おぬしは小物の始末を続けておれ」

 へいへい、ペスペスと。なんか命中率上がってきた気がする。思ったところに弾丸が送り込まれる感覚。もしかしてこれは、俺とMk2との間に紐帯が得られたのではないだろうか……?

「ターキフ、魔獣の巣窟でニヘラニヘラしておると怪我をするぞ。気を引き締めんか」

 怒られてしまった。が、いってることは道理である。

 アイヴァンさんからの情報によれば、サルズのダンジョンで高難易度の魔獣として挙げられるのが巨鬼(オグル)だ。出現頻度はそう高くないが、三階層以下の、比較的深いところに多いのだとか。俺たち、まだ二階層にも到達していないんだけどな。

 現れた巨鬼(オグル)は身長2m前後。赤や緑がかった肌を晒して、着衣はなく人間から奪ったらしい鎧の残骸程度。武器も棍棒やらボロボロの鉄器まで様々。たぶん22LR弾は通らない。

「左に二体、奥から一体、来よるのう」

 いってるそばからUZIが鳴って、巨体が崩れ落ちる。相変わらず眼球を射抜いての瞬殺である。

「ヨシュア、このまま進むのじゃ」

「了解」

 見た目はオークの色替え(2P)という感じの人型魔獣だが、薄暗いダンジョン内では見分けがつかない。牙が生えてるのがオークで、角が生えてるのが巨鬼(オグル)とか聞いたけれども、収納しながら確認する限り牙も角もあったりなかったりバラバラなので、亜種か下手すると同種の個体差なんじゃないのかと思う。大物を呼ぶか呼ばないかで分類するなら、こいつらは巨鬼(オグル)なのかもしれんけど。

「たまたま近くに大物がおらんかっただけで、臭気は出しておるのかもしれんがの」

 さらっと俺の心を読んで、ミルリルが笑った。リアクションするとフラグを立ててしまいそうなのでスルー。そのまま奥に進み、孤立しているという冒険者たちを捜索する。

「おーい! 誰かいないか!」

 何かが這い出てくる気配はあるが、見るとゴブリンだった。咄嗟に撃ったものの頭蓋骨が厚いのか22LRは弾かれ、ミルリルに目玉を撃ち抜かれて倒れる。

「人間の反応はないようじゃ。下層階かのう」

 傾斜を降りて二層目に到達。周囲を警戒しつつ、声を掛けながら進む。

「こっちだ!」

 しばらく行くと、俺の呼びかけに応える声があった。ガウガウとうるさく吠える声は洞窟群狼(ケイブウルフ)か。狭く薄暗い岩場を抜けて、開けた場所に出る。

 岩陰から手負いの大岩熊(ロックベア)がこちらに振り向くが、立ち上がるより早く45口径弾に目玉を撃ち抜かれて転がる。

「お見事」

「奥は大騒ぎのようじゃ。ここで再装填しておくかの」

 ミルリルが弾倉に弾薬を込める間、俺は周囲で目につく限りの洞窟群狼(ケイブウルフ)を仕留める。住み分けの境界でもあるのか、二層目から有角兎(ホーンラビット)は見当たらない。

「頼む、もう持たない!」

「いま行く!」

 悲鳴のような懇願に急いで装填を済ませ、ミルリルが移動を開始する。俺も後に続いて声のした方に向かった。

「……む?」

 孤立した冒険者たちは壁を背に半円陣を組んで全方位警戒の態勢だが、七人中四人は倒れたままだ。生死は不明。残る三人もまともに動けず、立っているのがやっとの状態だ。彼らが必死に戦っている相手は、見たことのない生き物だった。

「あれは、撃って良いのか?」

「わからんが、放っておくわけにもいくまい」

 こちらを向いたそれは洞窟群狼(ケイブウルフ)に似ているが、チワワサイズのそれと違って体躯は大型犬ほどもあり頭がふたつある。それが二頭。

「おぬしら、危ないので少し伏せておれ」

 射線が冒険者たちに掛からないよう、俺とミルリルは二手に分かれて接近する。双頭の狼は反応して飛び退き、連携するように円を描きながら唸り始めた。わりと阿呆だったチワワ狼に比べるまでもなく、知能は高そうだ。

「こやつは……洞窟群狼(ケイブウルフ)の、群れの長(アルファ)、かのう?」

「わからん」

 森林群狼(フォレストウルフ)の場合は群れの長(アルファ)だけが魔獣化して知能が高く、毛並みも良く、サイズも大きいとは聞いた。それも伝聞でしかなく、そもそも森林群狼(フォレストウルフ)という生き物を直接目にしたことはない。

「ターキフ、この図体では、ちっこいタマは効かんぞ」

「わかってる」

 ミルリルのUZIが発射されるが、驚いたことに双頭狼は横っ飛びでそれを躱す。意外にも彼女は追撃を掛けず、短機関銃を革帯で背中に回した。

「ミル?」

「ケダモノ風情が生意気な真似をしよるわ。魔王の妻に牙を向けたんじゃ……」

 ミルリルは、丸腰なのを見せつけるように両手を上げ、軽い前傾姿勢で笑みを漏らす。まるで早撃ち競技の開始姿勢だ。

「己が(ぶん)というものを、思い知らせてやらんとのう?」

「馬鹿、危ないッ!」

 満身創痍の冒険者がミルリルを助けようと踏み出すが、その間にも双頭狼は二頭が真っ直ぐに突進して行く。どうやっても救出が間に合わないのは明らかだった。

 ドゴン!

 ドワーフ娘の頭に食らいついたかと思った瞬間、先頭の狼が臓腑を壁にブチまけて転がる。アラスカンの抜き撃ちですか。スゲえ威力だな。

 死角からミルリルの腹に食いつこうとしていたらしい二頭目の双頭狼は一瞬で危機を察知し飛び退こうとしたようだが、のじゃロリフックで横っ面を殴り飛ばされて俺の前に転がる。

「さあ、魔王陛下から死を賜るが良い」

 見せ場を作ってくれたのはありがたいけど、俺そういうの、向いてないと思うんだよね。

 跳ね起きようとした狼の右頭をイサカのショットガンが吹き飛ばす。牙を剥いた左頭の口の中に銃身を突き入れると、噛り付いた狼の頭を次弾が粉砕した。

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