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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
5:魔王の冬休み

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187/422

187:海賊魔王

「皇国軍の砲撃音じゃの。どこを撃っておるんじゃ」

「ミル」

 ホバークラフトを動かすのを中止した俺は、乗員に待機を伝えるとミルリルの手を取って城壁の上まで転移で飛ぶ。中央領の兵たちが並んでいるが、こちらを見る余裕もないようだ。

 城下町の向こうに、内湾が見える。そこでは皇国の砲艦が四隻、既に二隻は着岸して兵を陸揚げしていた。あれは沈めるには手遅れか。残り二隻はまだ沖合に留まり、砲撃で街を焼き払っている。燃え上がる家屋の炎に、逃げ延びる人影が照らし出されていた。

「港町を焼いたところで、戦略的には何の価値もなかろうに。あのクズども、嫌がらせのためだけに民を殺すか」

 ミルリルさんが忌々しげに歯を食いしばる。出張って行って殲滅するのはいいが、既に百を超える上陸部隊がこちらに向かってくるところだ。対応のために、こちらの戦力をどう分けるかで迷う。

「各職掌長! 部下を城門前に集合させろ!」

 指揮官らしい男が城門上の回廊を走りながら、兵たちに命じている。

「おい、補給はどうなってる!」

「南領からの海上輸送は、やはり東領傘下(青旗)の海賊に潰されたようです。西領からの輸送は天候により困難、逆に救援要請が入っています」

「ここまで積んで来た備えの差か。クソが。叛乱に踏み切るような奴らだ。狡猾さじゃ勝てねえかもしれんが、戦で出し抜かれるのだけは我慢できねえ」

「キャスマイアが陥落す(おち)れば、首都まで押し込まれます」

「馬鹿野郎! そうなんないように、ここで俺たちが削ってやんだよ!」

 指揮官は肝の座った人物らしい。豪快に笑って、部下たちの士気を上げようとしている。

 見たところ、兵たちの士気はそれなりに維持しているものの、剣も槍もボロボロで限界だ。籠手と胸当てが弓兵装備の兵も混じっているが、矢が尽きたのかひん曲がった手槍を抱えている。

 待っていれば議事堂から俺が渡した補給品は届くだろうけど、間に合うかは不明だ。


「副長、議事堂の戦闘が静かになりました」

陥落し(おち)たか。クソが」

「おかしな音と光が上がってた。皇国の大砲を揚陸したのか?」

「いえ、例の衛兵隊長によれば、援軍が入ったのだと」

「あ?」

「門前の皇国軍と東領軍を屠ったのが、その援軍だとか」

「あのお飾り野郎の戯言は無視しろ。あいつは拘束して詰め所に転がしてある。戦闘が終わり次第、衛兵隊長の任を解く。持ち場を棄てて逃げる無能は、害にしかならん」

「了解です、副長。まあ、戦闘が終わったら、俺たちは誰も生きてませんけどね」

「違いねえ! ぷあッはっは……!」

 何が面白いのか大笑いして死地に向かおうとする衛兵隊の皆様に、俺は咳払いして両手を上げる。


「お取り込み中のところ、失礼します」

「何だお前、商人か? さっさと避難しろ。こんなとこウロウロしてると死ぬぞ」

「お気遣い感謝します。仕事を済ませたらすぐにでも」

「仕事だあ?」

「わたくし、南領に雇われた商人でターキフと申します。先程お話にありました、“援軍”のひとりです」

「衛兵隊長のいってた……あれは、本当だったんだ」

「事実ではあるがの。戦時に城門の守りを放棄したのも事実じゃ。そやつの咎は消えんわ」

「なんだ、この小娘は。いい啖呵を切るじゃねえか」

「ふむ、いい面構えじゃ。死ぬのは惜しいのう」

 ミルさんと指揮官が牽制し合いながらの自己紹介をしてるうちに、俺は収納に残った武器を城壁上に並べる。基本的には議事堂で渡した物と同じ、王国軍の鹵獲装備だ。

 それを見た兵たち、特に矢筒に入った矢を見た弓兵たちからは歓声が上がった。

「補給が!」

「いいぞ、いますぐ配布! 下にもだ、持てるだけ持って走れ! 足りなきゃ取りに来させろ!」

 積み上げた弓と矢と槍と剣が、各所に分配される。ついでに、議事堂で出し忘れてた樽入りの水と葡萄酒と携行食もサービスだ。

 さっき“下”といっていたのは城門前を指すのではなく、坂の途中にある前衛陣地のことらしい。そこに駆けてゆく新兵を見て、陣地の位置を頭に入れる。二階建ての民家のような建物で、暗がりのなかで見透かすと、屋上には兵らしき人影があった。


「ミルリル?」

「……というわけじゃ。わかったか」

「サッパリわからん。が、そこはこの際どうでもいい。補給を受けたって事実だけで十分だ。信用するし感謝するさ。この戦闘を生き残れたら、酒でも奢るぞ」

「うむ、楽しみにしておくのじゃ」

 二人の会話が終わったところで、俺たちは前衛ポジションに移動する。

「それでは副長さん、城門は任せますね」

「おい、どこに行く? 避難するなら議事堂(むこう)にしておいた方が……」

「気遣いには感謝する。しかしのう、ひとつ、いうてなかったことがあるのじゃ。わらわたちは、王国から流れてきた商人で、南領主マッキンに雇われた冒険者。そして……」

 ひょいと首に抱きついて来たミルリルをお姫様抱っこで抱え、俺は城門の胸壁に飛び乗る。危ないという感じで手を伸ばした副長の前で、剛腕ドワーフ娘はクスリと微笑みを漏らす。


「……“三万人殺し”の、“魔王夫妻”じゃ」



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