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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
5:魔王の冬休み

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184/422

184:燃えるキャスマイア

 中央領の港町キャスマイアは、北領と東領の間で海に大きく突き出したミア半島にある。“ミアの城”を意味する名の通り、古くから栄えた城塞都市だ。

 半島は裏返したクエスチョンマークのような形をしていて、直径二キロほどの内湾は開口部が南側を向いている。俺たちが湾に入ったのは深夜、感覚的には午前二時かそこらだったが、暗闇のなかでも迷うようなことはなかった。

 小高い丘の上にあるキャスマイアの城塞が派手に燃え上がっていたからだ。


「おいおい、あれは何の騒ぎだ。どこから攻められてるんだ」

「わからんのう。旗幟が入り乱れておる」

 ミルリルが双眼鏡で内湾の奥にある港や城塞を確認する。

「手前の船は、北領の旗印(セイレーン)じゃな。砲艦二隻に移乗戦闘艦が四隻、兵員揚陸艇は漁船やら商船の陰でわからん。ここから見える限り、城壁の前で騒いでおる陸兵は北領と東領。左奥に固まっておるのは、おそらく皇国軍じゃな」

 ぽかんと口を開けて固まっていたマッキン領主が、俺の視線を受けて再起動した。

「皇国艦が湾に入ってないってことは、皇国軍(やつら)北側から上陸したんだ。くそッ」

「北領の手引きがあったということか? だとしたら、あやつら何で東領沖では潰し合っておったのじゃ?」

「わからんな。おい、ジジイを連れて来い!」

「「はッ!」」

 衛兵に首根っこをつかまれ、簀巻きの東領主タイレルが運ばれてくる。絶対に喋らんとばかりに不貞腐れた顔で俺たちを睨みつけていたが、後ろ手に縛られた手をマッキンが踵で踏みにじると、情けない悲鳴を上げてアッサリと口を割った。

「だ、だから、いうたであろうが! 北領の女狐が外患を誘い込んだんじゃ! 首都制圧後の分け前で揉めておったから、売国奴が仲間割れでもしよったのであろう、ワシは知らん!」

 のじゃロリならぬ、のじゃジジイのコメントにマッキン領主が額に青筋を立てる。

「勝手なこと抜かしてんなよ。お前もその売国奴の一味だろうが。おまけに南領まで出張って貿易の妨害に海賊の支援、船団を率いての侵攻か。手前の分け前は何だったんだ。タダで動くほどめでたい頭じゃなかろうが。あれだけの手間隙とカネを掛けて、何を手に入れようとしたんだ、いえ!」

「そ、それは……」

「吐かんと腕ごと踏み砕くぞ」

「……南領の、領有権……じゃ、ぶッ⁉︎」

「ふざけんじゃねえ、下衆が!」

 吐き捨てると同時に、マッキンは老人の顎を蹴り上げる。吹っ飛んで床に頭を打ち付けた東領主は折れた歯を吐き出し、泡を吹いて動かなくなった。

「……すまん、魔王。船を汚した」

「そんなことは、どうでもいいですがね。これからどうするつもりなんです」

 未だ怒りが収まらない様子だが、個人の感情にこだわっている場合じゃない。マッキンもそれはわかっているのだろう、必死で冷静になろうと息を整えている。

「……ああ、そうだな。キャスマイアには、評議会の常任理事七名が詰めてる。そいつらを押さえられたら、国政の決定権が割れる。できれば侵略軍と売国奴を殲滅したいが、無理なら理事だけでも奪還したい」

「ミル?」

「さすがに、いまからでは少しだけ(・・・・)難しいのう。船に残っておるのは操船用の水夫じゃろうから、東領でやったような荒技は無意味じゃ。見たところ上陸した兵だけでも五千はおる」

「何でだよ、ミルとターキフがいれば時間の問題だろ? もちろん、あたしたちも手を貸すぜ」

「その時間が問題なんじゃ。殲滅だけなら、できなくはないがの。見たところ、城塞は一刻も経たずに陥落す(おち)る」

「「「え⁉︎」」」

 俺も、それは同感だった。炎上しているところを見ると、侵攻部隊の一部は既に城塞内部に入り込んでいるようだ。臼砲の射程外なのか半島外縁部に着岸した皇国艦から砲撃がないのが救いだが、長引けば内湾に回航してくる可能性もある。とはいえ、いまから艦艇を潰しに行っていては城塞が占拠されて常任理事とかいう人質を取られかねない。

「それじゃ、行きますか」

「ふむ。それしかないようじゃの」

「行くって……おい、魔王⁉︎」

 俺はグリフォンのスロットルを開けて、内湾を真っ直ぐに縦断する。全速力のホバークラフトは轟音を上げて突進し、ものの数分で岸辺に到着。そのままスロープ乗り上げて、キャスマイアの城壁めがけて坂道を登り始めた。

「頼むぞ、ミル」

「うむ、任せておくが良い。たかが五千やそこらの雑兵など……」

 MAG汎用機関銃が小気味良い音を立てて銃弾を吐き出すと、坂の中腹に布陣していた重装歩兵の一団がもんどり打って倒れる。

「……わらわたちの前では、木っ端も同然じゃ」

 非装甲の軽歩兵や弓兵はUZIの点射で目玉を撃ち抜かれ、あるいはM1911コピー(スター)で頭を吹き飛ばされる。グリフォンの屋根に腰掛けたまま、両手にフォーティーファイブでミルリルさんは吠える。

「魔王陛下のお通りじゃあ、道を開けぇい!」

「あ、いやミル姉さん、その名乗りはちょっと……」

 凄まじい音と突風を巻き上げて突っ込んでくるホバークラフトの威容に、臨戦態勢だった兵たちも思わず悲鳴を上げて逃げ惑う。抵抗する意思のある者はほとんどいないが、不幸にも逃げ遅れたのか足が竦んだのか、あるいは勇気ある兵なのかは知らんが、雄叫びを上げながら立ち塞がる者も、なかにはいる。

「うぉおお……ぉぶッ⁉︎」

 だがそれも銃弾を浴びて血飛沫を上げるか、グリフォンのスカートに弾き飛ばされて石畳で擦り下ろされるかだ。点々と転がった死体と血痕が俺たちの通った後に残される。もう回収はしない。通行の障害になる荷馬車や資材を排除するときだけだ。

 坂道に展開していた敵の無力化は着々と進行し、俺たちの乗ったホバークラフトはキャスマイアの城門まで到着した。そこで展開されていた皇国軍と共和国北領軍、中央領軍の戦闘は中断され、兵たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去ってしまった。

 城塞の正門を、開け放したまま。

「……あやつら、腑抜けの上に阿呆か」

「俺も同感だ」

 俺は“吶喊(バトルクライ)”の連中を呼んで、彼らにしかできない仕事を頼む。

「すぐにホバークラフトに戻れる距離を維持して、マッキン領主に近付く敵の排除だ。予防的に、過剰防衛で構わない」

「おう」

「はい」

「「「わかった」」」

「お前もだ。頼りにしてるぞ、モフ」

「わふ」

 マッキンの護衛には、領主本人の防衛に専念してもらう。キャスマイアの政治的中枢に入れば、敵味方を識別するのは彼にしかできない。

 俺はグリフォンのスロットルを開け城門を突破する。城塞内部に入ると、混戦する武装勢力が駆け回る姿が見えた。


「さてミル、行こうか。常任理事とやらを救出する」

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