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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
5:魔王の冬休み

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178(閑話):そして春を待つ

 サイモン、絶対なんか勘違いしてると思うんだよね。

 たしかに弾薬として45ACPの追加注文は多いけど、それはほぼミル姉さんだけが消費したものであって俺はMAC10(イングラム)で数十発使っただけなのだ。

 サービスとして山ほどくれた銃器のなかにXDM4.5があった。45ACPが13発も入る樹脂製(ポリマー)フレームの新型拳銃だ。トリガーガードの前にレールがあってフラッシュライトまで付いてる。ゴツいのにスマートで、すごくカッコいい。こんなんおまけに付けてくれたのは大変ありがたいんだけど、この世界では拳銃弾が甲冑なしの敵を倒す手段でしかない以上、俺は正直もっと反動(キック)の弱い銃が欲しい。

 45口径拳銃を前に悩んでいる俺に、ミルリルさんが不思議そうな顔をする。


「どうしたんじゃ?」

「仕入れ先の商人から、俺まで45口径が大好きだと思われている」

「ヨシュアは“ふぉーてぃーふぁいぶ”を好かんのか? あれこそが唯一無二、命を賭けるに足る弾薬ぞ?」


 うん。確かに威力はある。それを使用する銃器も、全般に信頼性の高いタフな製品が多い。他人事としてみれば良い弾薬だとは思う。剛腕ドワーフなら平気かもしれないけど、45ACP(それ)俺には反動がキツいんですよ。短機関銃(サブマシンガン)ならともかく、拳銃ではあんまり使いたくない。

 ミルリルさんに渡してもいいんだけど、UZIにスターにアラスカンにXDMって、なんか武蔵坊弁慶みたいになっちゃわないかな。


XDM(これ)要る?」

「良さそうな銃だがの、わらわは“うーじ”と“すたー”があれば幸せじゃ。“あらすかん”は例外として、あれはお守りだしのう」


 さいですか。

 やっぱミルリルさん、一途なタイプなのね。そういうところが好きなんだけどさ。

 これは、とりあえず仕舞っておこう。いつか役に立つときが来るかもしれないからな。


 もうひとつのサービス品は、スタームルガーの……Mk2か。チョイスがえらい渋いなサイモン。

 銀色のステンレスボディで減音器(サプレッサ)仕様の重厚銃身(ヘビーバレル)が装着されている。

 使用する弾薬は、22口径ロングライフル弾。銃に興味ないひとには凄いタマに思われそうな名前だが、エネルギー量はミルリルさんが愛用する45ACPの半分以下、メーカーの仕様によっては1/3くらいしかない。

 この弾薬、安くて低反動で扱いやすく、かつ命中精度も高いので娯楽用射撃(プリンキング)や小型害獣駆除、射撃競技などに幅広く使われている。

 ある意味、凄いタマではある。

 エネルギー量が低いとはいっても小動物や剥き身の人体であれば殺傷力は十分にある。その上、初速も低いので減音効果が高い。サイモンの選んだような減音器(サプレッサ)仕様だと、ほとんど機械の作動音くらいしかしない。使い方次第では恐ろしい武器になる。

 これは俺がありがたく使わせてもらおう。いろいろと戦略の幅が広がりそうだ。単純に小動物とかの狩りでも重宝しそうだしな。


 他にも、ありがたいサービス品があった。

 かなり状態の良いブローニング・ハイパワー。もらった銃自体の製造年は不明だが、初期型の生産は1935年。古さも知名度もM1911ほどではないものの、歴史に残る名作だ。現在では正直どうということもない性能だが、それは現代の軍用拳銃の要求基準値(ベンチマーク)になった結果だ。

 弾薬が弾倉内にジグザグ2列で装填される複列式弾倉(ダブルカラム)の嚆矢でもあり、装弾数が13発と多い。高火力(ハイパワー)というのは当時この多弾数から命名された。

 イギリス軍の特殊部隊SASの隊員が使ってるのを本や映画で目にしてきてたから、個人的な思い入れもある、かなり好きな銃だ。これも自分で使おう。革製の真新しいショルダーホルスターも付いてて、サイモンの気遣いが感じられる。あの男、ツボの突き方は上手いがどこかマニアックだな。


 ブローニング・ハイパワーで使われる弾薬は、いまや自動拳銃弾の世界標準となった9ミリパラベラム弾。銃弾のエネルギー量は45ACPと大差ないが、弾頭が小さく軽いので初速は高い。45口径ほど反動(キック)がキツくないので撃ちやすく当てやすい。ミルリルさんには悪いが、俺には9ミリの方が使いやすそうだ。

 問題になるのは、補給だ。ただでさえケースマイアンで使用される銃弾の種類が増え続けているなかで、新たに拳銃弾が2種類(22ロングライフルと9ミリパラベラム)も増えては管理に支障が出てしまいそうだ。個人使用にとどめるか、開き直って補助武装(サイドアーム)の近代化に着手するか。どっちにしろケースマイアンにはまだ拳銃弾仕様の銃器は配備していないのだ。試験運用という名の試し撃ちをしながら考えていくしかない。これは責任重大だな。うん。困った困った……


「両手に銃を持って、何をニマニマしておるのじゃ?」

「新しく仕入れたのを確認してただけだよ。いままで揃えたものとは毛色の違うものばかりで、嬉しいけど、今後の運用について悩んでる」


 ミルリルさんは呆れた顔で笑う。


「わらわも武器を作っておったからわかるがのう。そういうときには考えてもしょうがないのじゃ」

「ん? どういうこと?」

「無理に押し付けて広めようとしても、消えるものは消える。必死に隠して誰にも知られぬようにしても、求められるものは日の目を浴びてしまうものじゃ」


 自然淘汰、みたいなものか。そうかもな。みんなで今後の計画を考えて、そのための装備を選ぶのも楽しいかもしれない。

 俺は春からのケースマイアンで行われるあれこれを思って、冬の終わりが少しだけ待ち遠しくなった。

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