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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
5:魔王の冬休み

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174/422

174:巡り来る醜聞

 すれ違って行き過ぎた領主の船はこちらの後方を回り込んで接舷し、こちらに許可を得てから両船を繋ぐ鉤綱を掛けてきた。確保を確認すると、領主だという男が案外慣れた動きで飛び移る。その間も、護衛の兵たちは剣を鞘ごと右手に持ち、見える位置に両手を出して舷側に控えたままだ。

 攻撃の意思がないことの表明なんだろうな。別に良いんだけどさ。

「おお、おお。やっと見付けた。会いたかったぞ、魔王! ああ、テーキッフヨーシュアン殿といったかな?」

 いや、なんか俺の名前また訛ってますやん。親しげに肩を叩かれるが、小太りのオッサンに会いたかったとかいわれても微塵も嬉しくない。

魔王という(その)呼び方は勘弁してください。共和国では、ターキフと名乗っています。ええと?」

「南領の領主モルフォス・マッキン様だ」

 イマイチ要領を得ない俺に代わって、領主と付き合いのある商人オコナーが紹介してくれた。

「おお、オコナー無事だったか。海賊に襲われたと聞いて半ば諦めておったが」

「おかげさまで、こちらのターキフさんたちに助けられました」

「海賊どもは」

「生き残りは、そこに転がってるだけです。積み荷も無事に取り戻してもらえました」

「なるほど、さすがは魔王」

「マッキン様。その、魔王というのは?」

 怪訝そうなオコナーに領主が振り返る。止めようとしたが、遅かった。

「知らんのか。こちらの御仁が、音に名高い“三万人殺し”。かの“ケースマイアンの魔王”だ」

「「「「ええええええぇ……‼︎」」」」

 ちょっとぉ! そこバラされたら、わしらの冬休みが終わってしまいますやん!

「その話は秘密じゃ。わらわたちは、いまお忍びの休暇中なのでのう」

「ふつう休暇に盗賊ギルド壊滅とか海賊退治はしねえだろうよ。それとも、あれか。魔王だったら、そのくらいすんのか?」

 いや、知らんし。ルイちょっと黙っててくれ。

 俺はマッキンに向き直り、気になっていたことを確認する。

「ああ、それよりマッキン殿。俺たちのことはどこで知ったんですか」

「そうじゃのう。場合によっては、そやつらの口封……口止めをせねばいかんのでのう」

 心の声が駄々漏れなミルリルさんの言葉に、全員がサッと青褪め激しく首を振る。

「お、俺じゃないぞ」

「あたしのわけないだろ」

「ち、違うよ、俺ほら、ずっと捕まってたし」

 動揺する面々に首を傾げ、領主は俺を見た。

「いやいや、貴殿らの情報なら、前から入っておったぞ。南回りでな」

 南? 南領の南って何だ。海しかねえだろ……って、ああ、もしかして。

「王国のカイリー・エルケル侯爵だ。わしの、母方の遠縁でな」

 そっちか。そうは見えんな。あのゴッツいルモア公爵かと思ったんだが。

 顔に出ていたんだろう。マッキンは豪快に笑った。

「わからんだろうな。エルフの血が混じっているのはカイリーのところだけだ。それより魔王、会いたかったというのに嘘はないが、ひとつ頼みがある。というよりも、仕事だな。貴殿ら、冒険者登録をしているのだろう?」

「そうじゃ。休暇中の楽しみとしてのう」

「そのようだな。護衛のついでに盗賊ギルドを潰した話は聞いた。サルズの魔女から苦情が出ていたが、握り潰しておいたぞ。海賊退治もあっという間にこなしたし、こうなると、次は生半なものでは満足できまい」

「おぬし、何がいいたいのじゃ?」

「海戦でも体験してみんか」

 ああ、うん。まるで釣りでも誘うように簡単にいうてくれるな、この小太り領主は。

 ミルリルさんとアイコンタクトすると、彼女は“面白そうじゃの”というような顔で頷く。ついでにティグとルイ、カルモン父子も乗ってきた。

「それは条件と報酬次第ですね。何しろ、俺たちは元々、商人なんで」

「決まりだ。船一隻沈めるのに金貨五百枚。敵艦隊(・・)は最大で二十隻と聞いている。兵員は四百といったところか」

 ……あれ。気前が良いのは結構だけど、やけに話が早いな。というよりもこれ、けっこう急ぎの案件?

「敵は、東領の軍? それとも、北領?」

「両方だ。そのうち北領の軍船は既に出港している。東領海域で合流してこちらの領海に向かうのだろう。到着するのは、早くて明日未明」

「こちらの戦力は」

「船は、こいつを含めて三隻。兵は二百ほどいるが、船員が足りん。前の海賊討伐で怖気付いてしまってな。常雇いだけで動かせるのは、こいつだけだな」

 海戦どころか出港前に詰んでる感じか。まあ、良いけどな。手持ちの銃器で沈めるには火力が足りないが、どうにかなるだろ。全滅させたら金貨一万枚だ。

「ターキフ」

「どした、ミル」

「マッキン殿は、どうも読みが甘いようじゃ」

「ぬ?」

 ミルリルは指を振って、後方を指した。海賊砦のあった島の、さらに奥。遥か彼方の水平線上、雲に紛れて白い物が見える。俺より視力の高いみんなはそれが何なのかすぐに気付いたようだ。マッキンと部下たちの顔が驚愕に凍る。


「見たところ船が七隻。あれが、その“軍船”というやつではないかのう?」

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― 新着の感想 ―
[一言] こう成ればサイモンに南アフリカ製のライノを頼み 155㎜榴弾砲で船を砲撃だな! ロシアの榴弾砲でも良いが使い方がねえ? 若しくは120㎜モーター?だと点射は無理だしねえ? 迫撃砲より無反動砲…
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