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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
5:魔王の冬休み

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171:エネミーライン

「簡単なことじゃ」


 商人の発言を聞いて、ミルリルさんは笑う。


「襲ってくるものは敵、共に戦うのが味方。何もせんのが雑魚じゃ」


 シンプルこの上ない生き様に惚れます。真似する気にはなれないけど。

 そう簡単には割り切れん。まして商人なら敵味方は情勢によって動くし、利益のためなら敵との共闘や役立たずの雑魚を救済する必要も出てくるだろうしな。

 俺はやりたくないけど、たぶん味方への裏切りもだ。


「冒険者は、羨ましいな」


 中年商人はそういって自嘲気味に笑う。


「戦闘を経験したら、その考えも変わる」

「若い時分には、何度か経験したよ。しかし、いまのは失言だった。謝罪する」


 殊勝に頭を下げる彼は、ラファン出身の商人でオコナー。いまは共和国の北領で中堅どころの商会を経営しているのだとか。若い頃は冒険者の真似事をしてみたことはあるが、ものにはならなかったらしい。


「元冒険者か。だったら、これを使え」


 俺は商人オコナーの手足を縛っていた縄を鉈で切って、そのまま手渡す。ついでに短剣と手槍と棍棒を収納からゴッソリ出して放り出す。どうせ盗賊から奪ったゴミみたいな武器だ。


「他人を羨んでも、状況は改善しないぞ。自分の身は、自分で守れ。生き残れたら、脱出には手を貸してやってもいい」


 俺の言葉に人質の半分は怯み、もう半分は意欲を燃やした。生き残るための分水嶺というのは、案外そんなところにあるのかもしれない。


「ターキフ」


 俺はミルリルの腰を支えて、ルイとティグのところまで転移で戻る。早くも敵は数人しか残っていない。


「なんだよ、助けが要るって風じゃないな。どうかしたか?」

「こいつら、貨客船に乗ってた連中だろ。どうも海賊じゃなさそうなんだけどさ。殺していいのかな」


「知らん。どうせ証拠は残さないから、どうでもいいといえば、どうでもいいんだけどな」

「なるほど。それじゃ、向かってきたやつは殺そう」


 ティグの言葉にルイが頷く。やっぱこいつら、ミルリルと同じタイプだ。


「向こうは?」

「祭壇みたいなところに、商人と護衛が10人いる。海賊と一緒に船の連中も皆殺しにするんなら、あいつらの口止めか縁封じが必要になるかもな」


「う〜ん……余計な手間を掛ける価値があるかどうかだな。ミル、そいつら役に立ちそうか?」

「使いよう、じゃな」


 女性陣ふたりは視線で語り合って、ニヤリと笑みを浮かべる。いや、あんたらの方がガチで海賊に向いてるんじゃないですかね。


「き、聞こえてるよ! 役に立つって! 物騒なこというな!」


 裏返った声でオコナーが叫ぶのが聞こえて来た。ミルリルとルイの地声が大きいのもあるが、それ以前にたぶん聞かせる目的の発言だったのだろう。


「うぉおお……!」


 話の途中で突っ込んで来たのは、海賊らしい薄汚れた服の男。錆びた剣を振り回して、殺す気満々だ。これは問題ないだろうとMAC10で射殺する。

 その先にある岩陰で隠れている男も、露出した肩を撃って転がし、倒れた頭を撃ち抜いた。


 ひとりふたりの敵に対しては当然ながら単発射撃(セミオート)なのだが、MAC10は狙い難く精度も低いため妙に気を使う。まあ、オープンボルトのサブマシンガンというのは、“大量の銃弾をバラ撒く”という機能に特化した銃器なので本来の使い方としてはそれで正しい。UZIで目玉やら金玉やらを正確に射抜くミルリルさんの方が異常なのだ。


 ティグたちが倒したのだろう、折り重なった死体のなかにこちらを伺う気配があったので死体の山ごと全てを収納、全裸で残された中年男に近付いて脇腹を蹴り上げる。


「ご、ぅえふッ!」

「立て。抵抗すると、右膝を壊す。余計なことを喋っても同じだ」

「ふざ、けん……」


 俺は予告通り、45口径弾で膝を撃ち抜いた。

 足を掴んで転移で人質たちのところに戻ると、悲鳴を上げて転げ回る男を放り出す。


「こいつから情報を聞いてくれ。協力しないなら殺していい」

「わかった」


 いまやオコナーだけではなく護衛も他の商人たちも拘束を解かれ、武器を得て復讐に燃えている。そんな10人に囲まれて、中年男は膝の痛みも忘れるほどに震え上がった。


「また会えたな、ケイリー?」

「ひッ!」


「“次に会うのは地獄で”、だったか?」

「つまり……ここがそうだ、裏切り者が!」

「ひぃいい……!」


 感動の再会に水を差すのもなんだし、俺は散らばった装備や死体を回収しながら歩きで脳筋メイツの元に戻る。

 倒れた者たちのなかに、もう生存者はいなかった。ルイとティグに本気で殴られたら、生きていられる者はいないのだろう。

 ホント、冗談じゃねえぞ、おい。


「なあミル、ここの頭領ってのは、あの白骨死体なのかな」

「そんなわけはなかろう。おかしな儀式でもするつもりだったようじゃがのう。あれは偶像、教会の女神像みたいなもんじゃ。どっかに絵を描いた司祭役(ボス)がおる」


 のじゃロリさんは、くすんと鼻を鳴らして祭壇の左奥方向を見た。ミルとティグも、視線で肯定する。

 なにそれ、俺だけ非脳筋の疎外感?


「風の流れがあるのじゃ。そこが頭領のいる最深部、おそらく宝の山もそこじゃ」

「「よーっし」」


 商人オコナーに手を振って、その場に留まるようにいう。


「安全を確認したら、また戻ってくる」

「わかった!」


 その過程で何をするかは、いわない。獲得したお宝が彼らの物だったりすると後々面倒なことになるかもしれない。それこそ、証拠隠滅とか口封じとか。


 海賊どもが人質を運んで来たのだから、祭壇の左右にはどこかに抜ける通路があるはずなのだ。ミルリルが壁のように見えた部分を蹴って、隠し扉を開く。


「こっちじゃ」

「奥の気配は……10人てとこか」


 ピクニックにでも行くような気軽さで奥の暗がりへとズンズン進んで行く脳筋たち。俺は呆れつつも周囲を警戒ながら続いた。

 もう隠密行動の意味も必要もないので、俺にはイマイチ使い勝手の良くないMAC10を収納してAKMに持ち替える。樽やら木箱やら壺やらが積まれ、遮蔽が多いので拳銃弾では心許ない。


 隠し扉の奥に広がっていたのは、洞窟の内壁のまま最低限の居住環境を追加したような縦横百mほどの空間。

 壁に焚かれた松明が、積み上げられた物資の山と金銀財宝を照らし出す。それは案外チープなまでにイメージ通りな、“海賊のお宝”だった。


「見よ、宝の山じゃ!」

「「おおおおぉ」」


 そのとき、宝物の陰から魔力光が弾けた。飛んでくる光の矢を咄嗟に収納で散らし、隠れていた樽にAKMの銃弾を叩き込む。幸か不幸か樽の中身は硬貨ではなく穀物か何かで、7.62ミリ弾に撃ち抜かれた男は声も出さずに事切れた。バラバラになった樽の中身が流れ出して死体を覆い隠す。


「殺せ!」

「殺すな!」


 敵の頭領らしき男と俺の声が重なる。頭領に突進しようとするルイたちを、ミルリルが身振りで制止した。


「情報が取れそうな奴を何人か生かしておけばよいのであろう?」

「頼む」


 俺が返答するのと、ミルリルが冷静な射撃で敵の膝を砕いたのはほぼ同時だった。

 あっという間に6名が膝を押さえて転がり、地面で痛みに身悶え始める。


「ぎゃあああぁ……」

「あし、脚ぃッ!」


 どっかで聞いたような悲鳴だな。

 うん、ミルリルさん指示通り、ちゃんと殺さずに済ませてくれた。即死こそしないとはいえ、犯罪者としてはもう死んだも同然。死ぬほどの痛みと治らない後遺症を抱えることにはなるのだが。

 さっき俺が膝を撃った、ケイリーだかいう裏切り者と同じだ。


「残るは、お前だけじゃ。コソコソ隠れておるのも良いが、絶対に逃げられぬぞ?」


「……殺す」


 奥から身長2m近い巨漢が姿を現した。

 手には大楯と大剣を構え、全身を覆う重甲冑を身に纏ってはいるが、背中を丸めたチンピラのような歩き方といい、雑多な装甲を取り留めなく脈絡なく着崩した感じといい、到底どこぞの軍にいた風ではない。


「ふむ?」


 ミルリルのUZIから撃ち出した45口径拳銃弾は呆気なく弾かれ、俺がAKMで叩き込んだ7.62ミリ弾も盾で防がれた。ミルリル得意の眼球撃ち抜きも、開口部が視界確保用のスリットしかなく、鳥の(くちばし)ような面頬の形状に阻まれているようだ。


「ドワーフの名工が打った重甲冑に、国宝級の盾だ。加えて物理攻撃を防ぐ魔剣の魔導障壁。どこぞの冒険者風情がどんな攻撃をしようと……」


「なあミル、こいつは殺してもいいよな?」


 ルイがミルリルの肩に手を置き、選手交代を告げた。ティグもやる気満々で前に出る。ただし、配置を見る限りサポートに回るようだ。


「どうじゃ、ターキフ?」

「ああ、情報を吐かせる相手は確保したし、あいつは生かしておくと面倒臭そうだ。好きにしていいぞ」

「よーし、それじゃこのデカブツは、あたしが倒す」


 ルイが肩の力を抜き、ぽーんと軽く跳躍して身構えた。その背中から、身体強化に回したらしい魔力光が青白い輝きを放つ。明らかに、興奮している。


「貴様、剥き身の身体で俺に挑むか? 身の程を知らんな」

「笑わすなよ、クソが」


 ルイは笑って踏み出すと一瞬で敵の懐に入り込み、頭領は反応すらできないまま豪腕の拳骨を食らう。

 手甲と激突した甲冑からゴイーンと鐘でも撞くような金属音が上がり、驚くことに巨漢は数歩よろめき後退した。体重差が2倍以上はありそうなんだが、この世界には質量保存の法則とかないんか。


「き、効かぬわ! 貴様ごときの拳で、この重甲冑に傷ひとつ付けられはせん!」

「弾くだけじゃ意味ねえんだよ」


「……ばッ」


 馬鹿な、とでも吐き捨てるつもりだったのだろう。棒立ちになって噎せると、面頬の隙間から血反吐を吐き出した。

 ルイ、バケモンだな。まさか、一発で決めるか。


「ごぶぉ、げぅ! ……ぞ、ぞンだッ、はずが!」


 どうやったのかは知らないが、ルイは敵の内臓に深刻なダメージを与えたようだ。体当たりを使う中国武術でそんな技があったような気がするけど、格闘技経験などない俺には理解の外だ。

 膝を突きかけた男が最期の力を振り絞り、突進しようと身構える。

 突進が開始される寸前、男の背後から伸びてきた両手が、兜をがっしりと掴んだ。


「死ぃ、んがッ!?」

「うるせえよ、お前が死ね」


 ゴキリと首を180度捻る。背後に立ったティグと視線を合わせたまま、頭領は倒れ伏して死んだ。

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[良い点] ルイさんかっけぇ△!
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