170:海賊砦急襲
海賊のアジト入り口のゲート前で、俺とミルリルはサブマシンガンを構えて突入のタイミングを計る。
扉をそっと開くと、近くに見張りの姿はなかった。
「脅威なし」
脅威の確認と排除を行ってアジト内に入る。内部は薄暗いが外より少しだけ暖かく、内側には外気遮断用の毛皮がカーテンのように掛けられていた。
奥に広がる暗がりのあちこちで、多くの人の気配があった。
人質に女性でもいたら酷い目に遭わされているのではないか、などと思ってもみたのだが、いまのところ女性の声はしない。というよりも、気配だけで誰の声もしない。どういうことなのかはわからない。
入り口ゲートをくぐった先、ゆるい傾斜を上がったところに、祭壇めいた石造りの台が据えられていた。距離にして300mほど。元々あった自然地形を利用しているだけかもしれないが、それは玉座の間を模したような作りになっている。
その中央にある豪華な椅子に座っているのは、キャプテンハットを被った男。海賊の頭領なのだろう。眠っているのか、俯いたまま身動きひとつしない。
「右側の敵をルイとティグじゃ。ターキフは左側の敵を頼む。わらわは正面を……」
そこまで話したところで、ミルリルさんの動きが止まる。
「……なんじゃ、あれは」
祭壇の左右から、縛られた男たちが運ばれて来た。彼らが人質なのだろう、商人風の身形をした者がほとんどで、護衛らしい皮鎧の男がふたり混じっている。運んで来たのは、いかにも海賊の一味といった風情の薄汚れた男たちだ。
海賊ひとりに人質ひとり。それが運搬の都合ではなく意味があるような感じでどうにも引っ掛かる。
「偉大なる船長に、我らの糧を」
「「「我らの糧を」」」
人質は10人。彼らは“偉大なる船長”とか呼ばれた海賊頭領の前に放り出されて、恐怖に身悶える。口に猿轡を嚙まされて声が出せないようだ。
「……おい、あいつ」
「死んでおるのう。というか、中身は骨じゃ」
俺には細部までは見えないが、海賊船長は白骨死体だという。糧って、海賊たちは人質を死んだ船長に生贄として捧げるつもりか。
「おいティグ、海賊は人質に手を出さないっていてったよな?」
「それは頭がまともな場合だ。あんなおかしな連中なら話は変わってくるだろ」
「まあ道理じゃな。ティグとルイ、周りの敵を頼む。ターキフ?」
「おう」
俺はミルリルを抱えて祭壇の前まで飛んだ。目線で瞬時に役割分担を決め、2丁のサブマシンガンが掃射を開始する。
「頭を上げるな!」
転がっている人質に警告して、立っている海賊たちを撃ち抜いてゆく。一瞬で崩れ落ちた男たちの手から、おかしな蛮刀が転がった。それぞれ刀身には奇妙な紋様が刻まれ、柄に嵌まった魔石が淡い紅色の光を放っている。
「これは、魔道具? 何かの儀式でも、するつもりだったのか?」
「わからんのう。わらわは魔法に詳しくはないし、このような邪法めいたものなど門外漢じゃ」
「むむぅー! うむぅー!」
人質のひとりが、必死に何かを訴えている。猿轡を外してやると、咳き込みながら俺たちを見た。
「あ、あんたたちは、領主の兵か!?」
「いや、通りすがりの冒険者じゃ。行きがかり上ではあるが、助けてやろう。他にも囚われた者はおるのか?」
「わからん!」
「わからん、とは何じゃ。おぬしらと一緒に運ばれた者たちが、どうなったか見ておらんのか」
商人らしい男は、ジタバタしながら悔しげに首を振る。見ると、並んでいる他の人質たちも同じような表情で呻いていた。
「違う。船の乗員乗客は全員がこの島に運ばれた。知っている限り、殺されたものはいないはずだが……」
入り口側から、金属音が聞こえて来た。怒号と悲鳴と激しい衝突音。ティグとルイが戦闘を開始しているのだ。ふたりが迎撃するたび一撃で弾かれ潰され吹き飛ばされ、クルクルと舞い飛んでは転がって動かなくなる。まさに鎧袖一触。ミルリルとの出会いを役者を変えて再現しているかのような、一方的な殲滅と虐殺だった。血飛沫も肉片も脳漿も飛び散らないが、脳筋ペアが手足を振るたびに次々と襲い掛かってくる敵は薙ぎ払われて無力化される。
そのくせ、一向に減る気配がない。
ケイソンさんから聞いた海賊の人数は4~50とかだったはずなんだけどな。なんか多いな。民間人ぽいのも混じってる気がするな。嫌な予感がしてきて商人の男を振り返る。
「わからん、って……」
俺の視線を受けて、男はヘニョリと情けない顔で頷いた。
「そうだ。誰が味方かわからん」




