17:楽園のかけら
なんだかんだで、なし崩し的に懐柔成功。とりあえず判断保留という形で受け入れられた俺はマイクロバスを渓谷に向けて走らせていた。
渓谷入口まで、目算で1.5kmくらいか。渓谷の上まで行くとしたら、それプラス数キロ。そんな距離をわざわざ歩くのはまっぴらだし、自分たちだけ車で行くのもどうかと思うので、獣人戦士御一行様にも乗ってもらった。
最初のうちは警戒したり怖がったりしていたが、馬がいないだけの馬車みたいなものだ、という(わかったようなわからんような)ミルリルの説明で、なぜか納得したらしく急に大人しくなった。
「それで、貸しというのは、なんの話じゃ」
運転席の隣にある最前列のシートには、そのミルリルさん。いまもムスッとしてはいるものの、口元は何となく綻んでいるのを隠そうとしているように、見えなくもない。
うむ、女心はわからん。
「あー、ごめん、思い付きでいっただけで、なにも考えてない」
「あ!?」
「そう怒るなよ。あのときは、ミルリルと引き離されないために、そうするしかないと思ったんだよ。一緒にいられるんなら、なんでもよかったっていうかさ」
「……そうか。ならば、よいのじゃ。もしや“けんじゅう”のことかと思ったが、あれはわらわにくれたのだしの」
そうだっけ? まあ、いいけど。急に機嫌が良くなったみたいだし。
「当然、タマも、手に入れてくれるのじゃな?」
「あー、そうね。ちょっと待ってて。彼らの隠れ家に着いたら、交渉してみるから」
「交渉? 魔法で出すのではないのか?」
「出すのは魔法かもしれないけど、買うんだよ。それがなかなか業突く張りの商人でな」
「異形の極限魔法かと思えば、案外と世知辛いのう……」
はい。俺も、そう思います。
1kmほど進んだところで停車させられた。獣人たちが降りて声を掛けると、まばらな灌木の陰から長弓を持ったエルフたちが出てくる。メッシュのフードみたいな草色の上衣に枝や草を刺したと見事なカモフラージュで、たぶん動きを止めると目の前にいても見分けがつかない。
俺とミルリルについて紹介と議論があり、あれこれといい合っているうちに業を煮やしたミルリルがマイクロバスを発車させようとしたところで不承不承、という感じではあるが受け入れてもらえることになった。
これ、彼らの本拠地でも同じことする羽目になるんだろうな。
エルフは新しいものに興味がないらしく、マイクロバスに乗っても車内を見渡しもせず、むっつりした顔でシートに座っているだけだった。男女ともにすごい美形揃いなんだけど、そんな顔してたら勿体ないと思うんだよね。
渓谷に入ると、幅10mほどの狭い道を200m近く走ることになる。直径5mはある巨大な落石で、道は半ば埋もれていた。
「上から攻撃してこないだろうな」
「大丈夫だよ、あたしたちがこれに乗ってることは伝えてある」
いつの間にそんな連絡をしたのか知らんけど、虎娘の言葉を聞いて、俺は運転に集中することにした。車幅ギリギリのところを何度かすり抜け、悪路でガタガタ軋む車体に不安を覚えながら、渓谷を抜けると左手は落差のある崖、右手は南方向に戻る形で大きく弧を描きながら渓谷の上に向かうゆるいスロープになっていた。傾斜はさほどでもなく、道幅もあって路面もフラットなので車でも行けなくはない。
そのまま走らせると、数分で見晴らしのいい高台に出た。
もうすぐ日が昇ろうとしているのか薄明りのなかで、崩れた城壁に囲まれた都市の廃墟が目の前に現れた。
「ようこそ、ケースマイアンへ。ここが亜人の楽園。……その夢の残骸じゃ」
ありがとうございます。次回は明日1400更新予定です。




