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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
5:魔王の冬休み

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168:意図せぬ襲撃

 道中の疲れが出ていたのだろう。俺もミルリルも“吶喊(バトルクライ)”の面々も、グッスリ眠り込んで目覚めると昼近かった。


「おはようございます」

「ああ、おはようさん」


 カルモンママのトリンさんが、嫁ルフィアさんと孫ノーラちゃん相手に料理の下拵えをしているところだった。


「おはようございますターキフさん」

「おじちゃん、おはよう!」


 ノーラちゃんは朝から元気である。前にも見た大き目エプロンを着けて、手にはシャモジみたいなのを持っている。お手伝いしてるのか、偉いな。

 “わたしはちゃんとできるお姉さん”って感じの表情なのに、鼻には小麦粉がついてるのが可愛い。


「カルモンさんとケイソンさんは?」

「街に行きました。船を買うんだって」

「もう、ですか? 行動が早いですね」


「そりゃそうだ。ラファンの男は頑固でお人好し、ラファンの女は芯が強くて穏やか。昔から、そういわれてるんだけどねえ……」

「それは、カルモンさんご夫婦を見てるとわかりますが、他にも何か?」


「ラファンの人間は、男も女も、譲れない夢をひとつだけ持つのさ」


「ええと……ケイソンさんの夢は、船を持つこと?」

「さあね。夢は語ると叶わない、って伝えられてるから、女房子供にも簡単には話さないのさ。でも、丸わかりだよ。昨日の夜から、ずーっとソワソワしちゃってんだもの」


 夢か。俺の夢って、何だったっけな。

 前の世界での夢なんて忘れた。持ってなかったのかもしれない。そして、いまは……


 ミルリルを幸せにすること。ミルリルと幸せになること。それ以外のことなんて、どうでもいい些事でしかない。


「ありがとね、ターキフさん」

「ありがとうございます」


「は?」


 いきなりトリンさんとルフィアさんから手を握られ、涙ぐんだ顔で頭を下げられて焦る。ノーラちゃんまで腰にヒシッとしがみついてくるし。

 なに、どうした?


「ターキフさんのおかげで、家族みんなで幸せに暮らせるようになりました」

「わたしらも、ルフィアんとこの両親もだよ。ありがとね、ターキフさん」

「ありがとおじちゃん。お父さんも、お母さんも、すっごく喜んでたの」


 俺はノーラちゃんの頭をグリグリと撫でる。自分のことよりまず両親か。

 ええ子や。お菓子をあげよう。

 俺はキャンディーやらチョコレートやらをノーラちゃんのエプロンのポケットに詰め込むと、ルフィアさんたちに向き直る。


「ああ、誤解されているようですが、カルモンさんがようやく正当に評価されただけですよ。いままでの苦労が実ったというか、貸してたカネが返ってきたようなものです」

「それでも、きっかけを作ってくれたのはターキフさんですから」


 そうなのかな。いままでは考えなしに周囲を巻き込んでばかりだったし、カルモンに関しても、助けたのは“成り行き”でしかないので、あまり感謝されると妙な罪悪感がある。


「みなさんの感謝はありがたく頂戴します。しかし、見ていてください。カルモンさんが本気になったときの、実力を」

「……え?」


 うむ、ノーラちゃんもルフィアさんも、カルモンが実力者という実感はイマイチ持ってないようだ。見てた限り、それなりの手練れ(ベテラン)だと思うんだけどね……。

 これは本人に責任を押し付けよう。英雄に祭り上げて義務ごと丸投げだ。


◇ ◇


 昼食の用意が済む頃になると、寝坊助どもがモソモソと起き出してきた。まずは女性陣。男はまだグズグズと寝床で転げている。


「おおターキフ、早いな……」

「良い匂いがして目が覚めました……」

「おはようなのじゃ」


「お前ら、もう昼だぞ。男どもはどうした?」

「まだ酒が残っているようじゃの。朝方まで飲んでいたようでな」


 だらしないな。俺も他人のことはいえんが、カルモン父子を見習え。


「おぉーい!」

「いま帰ったぞ!」


 噂をすればカルモンとケイソンさんのご帰還だ。外からしきりにトリンさんルフィアさんを呼んでいる。ノーラちゃんの歓声が聞こえた。


「おっきいねえ!」

「そうだろ、あれがお父さんとお爺ちゃんの船だ」


「船? もう買ってきたのか?」


 俺たちも“吶喊(バトルクライ)”の連中も外に出て海まで向かう。家から数百mほど、坂を降りた先にある桟橋のところに、真新しい船が係留されていた。

 帆桁がふたつの、俺から見るとヨットと漁船を足したような印象の船だ。30(フート)、約9mって思ってたよりデカい。


「これで舞台は整ったのう。あとは海賊が出てくれれば役者が揃うのじゃ」

「ミルさん、さすがに気が早過ぎないですか」


 船を見てはしゃいだティグやルイが、嬉しそうにカルモンを小突く。


「なかなか良い船じゃねえか。乗ってみた感じはどうだ?」

「悪くない。いや、素晴らしい船だ、とは思う」

「当たり前だ。うちの船だぞ?」


 うん、ケイソンさんの論拠はよくわからんけど、気に入っているらしいことはすごく伝わってくる。

 ルフィアさんやノーラちゃん、ご両親の(と、ついでにカルモンの)幸せに貢献できたみたいで俺も嬉しい。嬉しいが……


 カルモン、お前なんでそんな渋い顔してんの?


「なあカルモン、なんかあったのか?」

「……あ、おう。まあ、ちょっとな」


 口籠るカルモンを怪訝そうに見るティグとルイ。煮え切らない息子に代わって、ケイソンさんが俺たちにいった。


「また海賊が出たそうだ。領主所有の貨客船を奪って、身代金を要求している」

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