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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
5:魔王の冬休み

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164:呪いの行方

「アイヴァン隊長、ローゼスから早馬だ」


 副長のセムベックが持ってきた公用郵箋を見て、俺は即座に帰りたくなった。俺が衛兵隊を任されているサルズの町から“ケースマイアンの魔王”を見送ってまだ3日と経っていない。

 たしか、奴らが馬橇でサルズを出てから丸2日とちょっと。領府ラファンに向かうと聞いたが、ローゼスはその中間地点にある宿場町だ。

 ターキフかミルが(もしくはその両方が)ローゼスで騒ぎを起こしたとしたら、サルズに伝わるのに2日くらい掛かる。

 ちょうど、いまくらいだ。


「おい、勘弁してくれよな……」


 俺は一緒に町を出た連中の顔を思い浮かべる。

 サルズでは腕利きの冒険者パーティだった“吶喊(バトルクライ)”の連中と、パーティはクズ揃いだが個人として評価は高かったベテランのカルモン。奴らは心配ない、はずだ。案外あれで目端が利く。腕っ節も強いが、その分そこそこ(こら)えも利く。


 かといって、“魔王”たちを押さえるほどの実力はないのだ。そりゃそうだ。そんなものは、誰にもない。


 実際、冒険者ギルドの乱闘ではミルひとりにボッコボコにやられたとも聞いている。“吶喊(バトルクライ)”と揉めてたパーティ、“英霊(ブレイブ)”のキールたちが吹いて回ってた与太話だ。本当かどうかはわからんが、話半分で聞いたところで只者でないのは確実だった。


 元皇国軍の魔導師メーイッグ率いる“薄暮(ドーン)”も、女ドワーフのコフィナが立て籠もった“土竜(モール)”の鉱山砦も、盗賊ギルドと組んで大規模犯罪を起こそうとしたペイブロワとベイナンも、そして盗賊ギルドの息が掛かった胡散臭い連中も。


 ターキフたちに絡んだ連中は、みんな消えた。死体も装備も金も物資も目撃情報も何ひとつ残さず、綺麗さっぱりと。最初からそこにいなかったみたいにだ。

 何の痕跡も残さず消えるなんてことは、普通ならあり得ない。殺されたにしろ攫われたにしろ追放されたにしろ、消えた後を辿ればそれなりの痕跡や情報は残るものなのだ。


「そりゃ“魔王”に喧嘩売ったら、そうなるか……」


 俺や“吶喊(バトルクライ)”の連中だって、一歩間違えればそのなかに含まれていたかも知れないのだ。生き残れただけでも、僥倖といえる。

 おかしな顔になっていたのだろう、勘の良いセムベックが俺を見据える。


「もしかして、なんか知ってるのか?」


「何にも知らねえし、知ってても何にもしねえよ。俺は忙しいんだ、適当に処理しとけ」


 ローゼスからの郵箋を投げるとセムベックはあからさまに嫌な顔をした。

 そんな顔したいのは俺の方だよ。どうすんだ、こっからの後始末。


 ターキフと最後に話したあの日から、赤毛のキール率いる冒険者パーティ“英霊(ブレイブ)”の馬鹿どもも町から姿を消した。証拠不十分で釈放せざるを得なかった盗賊ギルドの専属追跡者(ストーカー)、ヘルギンもだ。


 どこでどうなったかは知らんが、二度と現れないであろうことは確実だ。町のゴミどもは消えて厄介ごとのタネは一掃されたが、それは別の問題に変わっただけだ。

 より大きく、得体の知れない問題に。


 公用郵箋を開いていたセムベックが苦み走った顔でこちらを見る。


「ローゼスからの救難要請だ」

「へっ、馬鹿いうな。あそこの隊長は守銭奴エドガーだぞ。俺に助けを求めるくらいなら町ごと巻き込んで死ぬだろうさ」

「エドガー隊長は行方不明だ。いま衛兵は、そこのタフルだけらしいぞ」


 誰だそれ。俺の視線に気付いて、セムベックが顎をしゃくる。詰所の入り口に立っている伝令の若造がいた。


「お前がタフル……ってことは、いまローゼスの町は衛兵不在か? 何の用か知らんが、町の防衛はどうなってる」


「引退した元衛兵の方々が、臨時で引き継いでくれています。そちらの要請書類は、引退した先代隊長オーテスさんが書いてくれました」

「“岩壁”オーテスか。ガキの頃、何度かドヤされたな」


 そんな老人たちが町を守ってるのは不安ではあるが、ローゼスの衛兵隊も隊長がクズのエドガーに変わるまでは、まともだったのだ。

 ……まあ、それなりに、だが。


「何があった。事故か事件か魔獣群の暴走(スタンピード)か、それとも盗賊の襲撃でもあったか?」


 最後に俺が鼻で笑うと、新兵タフルは目を泳がせた。ローゼスの衛兵隊は盗賊ギルドとの癒着が噂されている。町中にギルドの隠れ家があるとかないとか。

 どうでもいい話だけどな。


「わかりません。ローゼスの中心部にある教会が吹き飛び、無数の死体が町に散らばっています。行方不明者(・・・・・)は、百人以上かと」


「あ?」


 百を超えるって、それは町の人間の半分近いんじゃねえのか。それが全部吹き飛んだって……事故か。


 そんなわけ(・・・・・)ねえよな(・・・・)


「捜索が必要か」

「いいえ」


 要は、額面通りの“行方不明事件”じゃないわけだ。人数分の死体はあるけど、身元を確認できるような状態じゃないってだけでな。


 この辺の状況判断は、この無能な青二才じゃなく先代衛兵隊長(そして現衛兵隊長代行)オーテスの入れ知恵だろう。


「死体は残った人間で片付けろ。お前はラファンに報告に行け。いくら新人だって、そのくらいの判断はできるだろうに。なんでわざわざサルズに来たんだ?」


「それが……」


 ローゼスからラファンまでは約50(ミレ)だが、サルズまでは70(ミレ)近くはある。どう考えても、まず行くならラファンだろうに。

 新兵タフルは口ごもって、意を決したように俺を見る。


 ……ああ、聞きたくねえな。


 俺はなぜか心の底から、そう思った。

 ターキフ、お前いったい何をやらかしたんだ。


「オーテスさんによれば……生き残りは、ぼくらも含めて(・・・・・・・)、呪われているようだと」

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