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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
5:魔王の冬休み

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161/422

161:燃え上がる町

 女子供を盾にして、集まって来る武装した住民たち。

 そこまでは、わからんでもない。ブラックホークが墜ちたソマリアでも、そういうことはあったようだし。王国とケースマイアンの戦闘でも、王国軍が亜人を盾にする“戦列奴隷”なんていうクソみたいな真似をしようとした。

 わからんのは……


「そうまでして、そいつらは何をしようとしてるんだ」

「無論、わらわたちを殺したいのであろう?」


「それは、そうかもしれんけどな。盾にしている住人たちの武装は」

「農具と棒、それに料理用らしき刃物じゃな」


「おかしくないか? 最初に突入してきたのは完全武装の衛兵だぞ。それから間もなく送り込まれて来た連中が“日用品を持っただけの素人”なんて、そんなやつらが俺たちに勝てるわけねえだろ」


「それはそうじゃ。となれば、勝つ必要がない(・・・・・・・)のではないかのう?」

「……ん?」


 時間稼ぎってことか? もしくは、俺たちの目を逸らす? 足手纏いを作って、別の目的を果たす?


 何にせよ、主目的のための陽動。生きようが死のうが構わんから囮の役割を果たせ、というのがこの市民連中を送り込んで来た奴らの意図なのだろう。


「わからんな。攻撃してくるまでは撃つなよミル、何人か攫って尋問してみる」


「待て、ターキフ」


 異変を察したのだろう、“吶喊(バトルクライ)”の前衛ティグとルイが降りて来た。


「カルモンは」

「マケインが大楯で守っている。エイノとコロンもいるから問題ない。俺たちは前衛として前に出る。状況を教えてくれ」


「盗賊ギルドが市民をけしかけてる。目的は不明だが、何か企んでいるようだ。ローゼスのなかでどんだけ手駒を持っているか知らんけど、きっと総動員して襲ってくるぞ」


 ルイは市民を利用する手法に嫌悪感を表し、ティグは奇妙な手段に困惑した顔になる。


「妙だな。土竜(モール)のアジト壊滅やら犯罪計画阻止やらって被害を与えたことの報復なら、そこまでやるのは執拗過ぎる。もしかして、カルモンが何か大事なものでも持っているとでも思ってるんじゃないのか?」


「ターキフ、土竜(モール)のアジトで奪ったなかに、なんぞ重要そうなものはなかったかのう?」

「わからん。全部ゴッチャに突っ込んだっきり調べる時間も人手もないままだからな」


「……おい、いまも全部を持ち歩いてるってことか。どんだけ便利な収納魔法だよ」


 ルイが呆れて首を振るが、便利は便利でも万能じゃない。インデックス機能もソート機能もない。少なくとも俺は使えない。つまり、欲しい物は出せるが、それが何かわからなければ出しようもないのだ。


「あやつら、動き出しよったぞ」

「ミル、ティグたちもだ。市民は……出来るだけ、殺すな。敵対してるのか命じられて仕方なくなのか、まだ判断がつかん」


「「「了解」」」


「面倒なことを頼んで済まないと思ってる。ただし、身を守るのが最優先だ。こちらを殺そうとする奴には、容赦するな」


 脳筋3人は、同じ顔で笑う。


「面白い冗談じゃのう」

「ああ、あんな奴らに」

「あたしたちが殺されるかよ」


 さいですか。


「ひとり攫って尋問する。ここの守りは頼むぞ」

「お前こそ気を付けろよターキフ」

「そうじゃな。もっとも不安なのがおぬしじゃ。呆れた能力の割に、優し過ぎるのでな」

「まあ、そうだな。脇が甘過ぎる。詰めも甘過ぎる。性格もか。要するに甘過ぎる」


 ルイのコメントに、揃って頷く3人。なんだこいつら、脳筋リンクで以心伝心か。


「了解」


 俺は転移で飛んで最前列にいた男の前に立つ。移動の指示を出していた中年男性で、商人なのか集団のなかでは比較的身形が良い。


「なッ」


 いきなり現れた俺に驚く市民集団を見返し、手にしたイサカのショットガンを発砲、農夫らしき屈強そうな男が振り上げた鋤の柄を粉砕した。


「襲って来た衛兵どもは、みんな死んだぞ。お前たちも、敵対するならば殺す」

「そ、そんな話を信じるとでも……」


 ぼそり。


 クレイモアの鉄球を最前列で浴びた衛兵の無残な死体を目の前に晒す。いま気付いたが、ボディチェックでミルリルの身体を撫で回していた男だ。名前はもう忘れた。


「「ひゃあぁッ」」


「よく考えろ。その上で、まだ死にたければいつでも来い」


 身構える暇も与えず最初に狙っていた男の胸倉を掴んで城壁上まで飛ぶ。

 雪の降り積もった城壁上の通路に人影はない。宿に突入する襲撃部隊の援護をするには距離がありすぎたのだろう。


「げふッ!」


 俺は男を放り出して、ショットガンからトンファークリップ付きのマグライトに持ち替える。打撃武器は得意ではないが、いま殺傷力の低い武器はこれしかない。


「質問がある」

「誰が」


 ゴスッと鈍い音がしてアルミ削り出しの頑丈なシャフトが男の肩に叩き込まれる。いまので鎖骨が折れたのだろう、男の顔が見るみる青褪め額に脂汗が浮かぶ。


「続けるか?」

「わ、わかった! 答える!」


「お前らが俺たちを襲いに来た理由と目的。それを命じた者たちの名前と居場所だ」


「……お、お前らを殺せば、ギルドからカネが出る。首ひとつに、金貨100枚だ」


「わかりやすいな。しかし、殺せると思ってるのか? 最初に突入したのは甲冑付きの衛兵が20名だ。あいつらに仕留められたら、お前らは用済み。だが仕留められなかったとしたら、お前らに敵う相手じゃないってことだろうが」


「敵は、罪のない人間には甘いと、聞いた。油断させれば、殺す隙はある」

「罪のない人間には、そうかもな。お前らには、違う」


「我々は、無辜の民だぞ!?」


「本物の無辜の民は、そんなこと自己申告したりしねえよ。この町には盗賊ギルドのアジトがあるんだったな。場所はどこだ」


「そ、それは知ら……」


 今度は左の鎖骨を折った。

 男は息を呑んで悲鳴を押し殺す。というよりも、声を上げるにはあまりに痛みが強すぎたのだろう。骨が折れたときの痛みは単純に“痛い”というよりも“横になりたい”に近い、気が遠くなるようなものだ。

 俺もガキの頃に経験したが、いまその記憶を共有する気はない。


「あ、きき、教会だ!」

「嘘だな」

「本当だ! 司祭が、ギルドマスターだ!」


 マグライトを振り上げる俺に頭を抱えてうずくまり、男は必死に訴える。涙と鼻水を垂れ流し脂汗が滴り落ちるほどになっていた。


「だとしたら、最低だな。それで、お前らは」

「……ぁう、あ?」

「ローゼスの住民で、どのくらいの人間が盗賊ギルドと繋がっているんだ」


 男の目が泳ぐ。恐怖と絶望に満ちた視線を受けて、俺はひどく嫌な予感がしていた。


◇ ◇


 男を城壁に置き去りにしたまま、俺は宿の前まで転移で戻る。

 ティグとルイ、ミルリルは変わらず通りの奥に陣取った市民集団を見据えたままだった。曲がりなりにも指示を出していた商人を欠いて、完全な烏合の衆となった彼らは動けなかったようだ。襲ってこないのはいいが、逃げていかないのは問題でもある。


「おいミル、拙いことになったぞ」

「なんじゃ、いまさら。盗賊ギルドがどれほどいようと、殺して壊して奪って逃げるだけじゃ。何の問題もないわ」


 平然というミルリルに苦笑を浮かべつつ、ルイやティグも同意するように頷く。


「尋問は済んだのか、ターキフ。どうだった?」

「全員だ」


「「「は?」」」


「この町の全員が、盗賊ギルドと繋がってんだよ。ローゼスの町は、経済も運営も司法も盗賊ギルドを中心に回ってるんだ。そしていまは老若男女問わず、全員が俺たちの首を狙ってる」


 首ひとつに金貨百枚ともなれば、そら襲うわな。全員殺せば千枚だ。たぶん、この町で育った人間からしたら、一生遊んで暮らせるカネだろう。


「首? あたしたちが生きてても死んでても、ってことか」

「そう聞いた。俺たちの首ひとつに金貨百枚、そして契約書を取り返した者には5百枚だそうだ」

「命懸けの割りには、ずいぶんと安いのう。それより、その契約書というのはなんじゃ?」


 収納を探ってそれらしいものを取り出す。内容さえわかればある程度のピックアップもできる。とはいえ……


「多いのう」

「いや、ターキフ。こんなかの、どれだよ。40枚はあるぞ」

「俺にわかるわけねえだろ。さっきの男は“契約書”としか聞いてねえし、このなかのどれかだ」


 不正か犯罪の証拠でも記されているのだろう。いまの俺たちには知ったこっちゃないけどな。


「教会がギルドの本拠地で、司祭がギルドマスター。んで、そいつはいま呪いの発動をしようとしてるとかいってたぞ」


「聖職者が犯罪集団の親玉で、極刑ものの禁忌を扱おうとしてるってか?」

「ずいぶんと、盛りだくさんじゃのう」


 ああ、そうね。俺もそう思う。


「ここじゃ共和国の法律も関係ないか。ターキフのいった通り、ローゼスは盗賊ギルドに牛耳られてるらしいな」


 俺は襲ってくる勇気もなく撤退する度胸もなく、阿呆面下げてモジモジしてるDIY武装集団を怒鳴りつける。


「おい、そこの馬鹿ども! さっさと逃げろ、ギルドマスターの呪いが発動するぞ!」


 具体的に何がどうなるのか俺にはわからんが、武装市民たちは自分たちにはどうにもならない事態が発生するという理解はできたのだろう。

 それぞれ人質の女子供を放り出して散り散りバラバラに逃げ出して行った。

 最初っからそうしろっつうの。アホが。


 このまま朝を迎えられるとは思えない。呪いとやらの発動を黙って待ってるのも癪なので、俺とミルリルがお迎え(・・・)に行くことにした。


「ここを頼めるか。ちょっと盗賊ギルドを教会ごと吹き飛ばしてくる」

「すぐ戻るのじゃ」


「……ああ、うん」

「わかった」


 なんか達観した顔で手を振るルイたちを置き去りにして、ミルリルをお姫様抱っこした俺は転移で近くの建物の屋根に飛んだ。


「ミル、教会の位置はわかるか」

「向こうじゃな。半(ミレ)先に尖塔らしきものが見える」


 ミルリルの指した方角に転移。2階建て民家の屋根から、さらに転移して教会の尖塔、ちょうど鐘の横あたりに取り付いた。


「ターキフ」


 鐘からは裏庭に向けて紐がぶら下がっていて、それを鳴らそうと駆けてくる男の姿があった。警報装置の代わりか、非常呼集の合図か。なんにせよ面倒なことにしかならないだろう。MAC10で射殺する。


「“吹き飛ばす”というたが、“あいいーでー”を持ってきておるのか?」

「いや。残りはほとんどなかったし、それはケースマイアンに置いてきた。今度は新しいやつだ」


 粘土状の塊を見せると、ミルリルは怪訝そうに見て匂いを嗅ぐ。プニプニした物体に触れた彼女は、すぐに答えを導き出す。


「妙な甘ったるい匂いのする爆薬。これは、“しーほー”とかいうやつかのう?」

「リンコから聞いたのか。これはCー4じゃなくセムテックスだけど、同じような可塑性(プラスティック)爆薬だ。この信管で起爆する。その前に……」


 手頃な物がなかったので収納を探ってゴミのような錆びたナイフや折れ釘、ボロボロの金具を手当たり次第に差し込み、ついでに空薬莢を埋め込んで丸めた。それを、全部で3つ。


「なるほど。それが飛び散って、敵を死傷させるのじゃな?」

「正解だ。さあ、行こうか」


 教会正面に降りて、入り口のドアを蹴り開ける。

 教会内部には明かりが焚かれ、礼拝堂らしい広い空間が見渡せた。完全武装の男たちが30人ほど、殺気立った顔でこちらを振り返る。

 その奥の祭壇に、血走った目をした白い僧服の老人。おそらく、あいつが司祭。そして盗賊ギルドの、ギルドマスターなのだろう。


「やあ、はじめまして」


「なんだ貴様! これは何の真似だ!」

「何の真似もクソもなかろう。おのれらが始めたことではないか。ならば始末を付けるのもおのれらじゃ」


「生きて帰れると思うな、野良犬が」

「どいつも等しく知能が足らんせいか、どのゴミも最期の言葉は代わり映えせんのう?」

「な……ッ」


 ぼそり。


 司祭の隣に、目を見開いたまま事切れた血塗れの衛兵隊長が現れる。凍りかけた死体がゆらりと動いて、司祭に寄りかかるように倒れ込む。その手からセムテックスが零れ落ちるものの、誰も気に留めてはいない。


「おッ、あ」


 ぼそり。

 ぼそりぼそり。

 ぼそりぼそりぼそり。


 白い防寒衣を血に染めた襲撃者たちの死体が。粗末な服に身を包み驚愕の表情で果てた弓持ちや剣持ちの死体が。うずくまった姿勢で射殺された魔導師たちの死体が。巻き添えで死んだ馬の死体が。次々と空中に現れては崩折れる。

 そのなかには殘りふたつのセムテックスも混じっていたが、すぐに折り重なる死体の下敷きになって見えなくなった。


「お、おいサイマールが」

「オルフェン……? 生きているって、いってたじゃねえか」

「ネイサンもいたぞ。司祭、話が違うぞ!」


「何をどう聞いていたか知らぬが、襲撃者は全て殺したぞ? わらわたちは、手向かう者に容赦する気はない。いままでも、これからもじゃ」


 剣を構えて背後から突っ込んできた男を、ミルリルは溜息混じりに射殺する。目玉を撃ち抜かれて仰向けに崩れ落ちる死体を、数十の目が注視していた。


「ほれ、このようにのう?」


「貴様ら! ただで済むと思うな。呪いは、既に発動した。貴様らの死体を呑み込むまで、もう何者にも止められは……」

「死体なら、くれてやるよ。いくらでもな」


 ぼそり。ぼそり。

 ぼそりぼそりぼそりぼそりぼそりぼそりぼそりぼそりぼそりぼそりぼそりぼそりぼそりぼそりぼそりぼそりぼそりぼそりぼそりぼそりぼそりぼそり……


 礼拝堂が死体で埋まって行く。応戦しようとしていた男たちは身動きできず完全なパニック状態でどうしたらいいかもわかっていない。怯えた顔で周囲を見渡し、逃げ腰で思考停止しているようだ。


「静まれ! これは錯乱を招くための、くだらん幻術に過ぎん!」


 わずかながらでも冷静さを保っていたのは司祭だけだ。おそらく、その差は部下や手先の死を何とも思っていないことによるのだろう。


「やれやれ。最期まで、おめでたいのう」

「まったくだ。それじゃあ、味わってくれ。俺の幻術(・・)の、仕上げを」


 ミルリルとふたりで、教会前から数百m先の城壁上まで転移する。教会は一瞬で遠ざかり、開いたドアから漏れる光が遥か彼方に見えた。

 信管の起爆スイッチを押すが、反応はない。遠隔操作の電波が届く範囲を超えていたのかと思ったところで、尖塔が垂直に飛び上がった。礼拝堂は粉微塵に飛び散り、遅れて轟音が俺たちの耳に届く。歪んだ音で鳴り響く鉦の()が暗闇の彼方に遠ざかっていった。

 敵対する盗賊ギルドだけを静かに仕留めて町を去る計画は、もう完全に破綻している。


「やり過ぎたか」

「なに、いつものことじゃ」


 ミルリルさんは俺の腕のなかで、満足げに笑った。

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