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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
5:魔王の冬休み

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138:土竜の仮面

「襲われたのは、この町で最大の商会ペイブロワと、それに次ぐ大手商会のベイナン。襲ったのは土竜(モール)義賊団だ」

「ほう、義賊か。共和国には、そんなものがおるのじゃな」

「いるわけないだろ。自分(てめぇ)らで勝手に名乗ってるだけだ。窃盗恐喝誘拐強盗暴行殺人、やってないのは強姦くらいじゃねえのか」


 ルイの言葉に頷き、周囲の者たちが失笑する。なんか変な空気。なにこれ。


土竜(モール)義賊団の頭領(ボス)は、ドワーフの女性なんです」

「!?」

(さら)ってきた女性に手を出す者は、腹心の部下でも殺すんだとか」

「まあ、結局はその女も売り払うんだから、善悪の問題じゃねえけどな」


 言葉の真意を探ろうとして最初の発言者であるギルドの受付嬢ハルさんに目をやるが、困った顔で首を振っているだけ。特に悪意もなさそうだった。

 思えば、さっき受付でのやり取りでもミルリルに含むところや隔意は感じられなかった。

 むしろ、固まった俺を見て怪訝そうな表情になっている。ルイもティグもハーフエルフの魔導師エイノさんも、当のミルリルさんもだ。


 あれ? ショック受けてるの、俺だけ?


「ヨシュ……ターキフよ。わらわは、ときどき不思議なんじゃ。おぬしは、基本的には冷静で公正な判断をすると思うのじゃが、どうして時々不可解なほどにおめでたい(・・・・・)発想になるのじゃ?」

「え? 俺?」

「犯罪者くらい人間にも獣人にもエルフにもおるんじゃ。それは当然、ドワーフにだっておるわ」

「……あ、ああ。そうね。そりゃ、まあそうなんだろうけど。まだ見たことなかったから驚いただけで、うん」

「あら、そういうことですか。ターキフさんが何を驚いているのか不思議だったんですが、やっとわかりました」


 受付嬢のハルさんにまで笑われてしまった。

 俺の考え過ぎか。共和国に入ってから一度も種族差別意識を感じたことはないのだ。というよりも、いままでの経験から俺が逆差別思想にまでなっているのかもしれない。

 悪意を持っているのは人間だけだと。

 当然、そんなわけはないのだが。


「さっきの話じゃがのう、襲われた隊商の者たちは殺されたのか?」

「いや、せいぜい最後まで(・・・・)戦った(・・・)護衛だけだ。やつら金にならない殺しはしないからな」


 ティグが背後の冒険者たちに目をやって、鼻で笑う。彼らは積荷も護衛対象も仲間もみんな捨てて逃げてきたから生き残ったのだ。今後どうなるのかは未知数だが。


「もうすぐ身代金要求が来るはずだ。その後は、奪った商材の買取要求。最後に指名手配解除の保証を領主署名入りでアジトまで運んで来いっていう“招待状”が届く」

「へえ、共和国では、そんな要求も飲むんですね」

「飲むわけねえだろ。馬鹿にしてんだよ。捕まえられるもんなら捕まえてみろってな」


 ハーフエルフの魔導師エイノさんが、ティグの肩を叩いて宥める。ルイも憤懣やる方ない、という表情だが誰も動こうとはしない。

 相変わらずもろバレな俺の表情で察したのだろう、ハルさんが解説してくれた。


土竜(モール)義賊団のアジトは東城門から出て10(ミレ)ほどの鉱山跡なんですけど、細い坑道が入り組んでいて重装備の衛兵や冒険者が入れないんです」

土竜義賊団(やつら)頭領(ボス)以外も、ほとんどがドワーフだ。狭い穴倉での戦闘はお手のものなんだよ。こっちは剣も戦斧も振れねえし、弓は論外、手槍も引っ掛かる。かといって向こうは自分たちで鍛え上げた甲冑まで着込んでやがるから短剣じゃ仕留められんしな。悔しいがお手上げだ」

「魔法か火で(いぶ)り出すのは?」

「前に試したが、無駄だな。坑道や通風孔の開け閉め、連結はあいつらの思うがままだ。水もどっかから抜けるようだしな」

「被害総額は金貨で数千枚といわれています」

「それは難儀じゃのう。わらわたちも冒険者となったからには手を貸してやりたいが」

「なあに、無理することたねえよ。腕利きの嬢ちゃんたちには他で活躍してもらうさ。あいつらは穴倉から出てきたところを叩くしかねえんだ。なにせ相手は鍛冶王カジネイルの娘だからな、向こうの巣穴でまともにやり合えるわけ……がふッ!?」


「いま、なんというた」


 低く押し殺した声に振り返ると、ティグの巨体が吊り上げられているのが見えた。


「ぐ、ぐぐぐふぇッ!?」

「ちょ、ちょっとミルどうしたの!?」

「ミルさん!?」


 ルイとエイノさん、ハルさんが必死に宥めようとしているが目の据わったミルリルさんの剛腕はビクともしない。


「よせミル、落ち着け」


 俺とモフも加勢してミルリルの手を必死に引き剥がす。目を白黒させてはいるが、ティグはなんとか無事だったようだ。


「あ、ああ……すまぬ、ティグ。この、通りじゃ」


 ぼんやりした表情で頭を下げるミルリル。尋常じゃない様子の彼女を見て、全員が只事ではないと察したようだ。


「いや、ゲホッ、俺はいいんだけどよ。どうしたんだミル、いきなり」


 カジネイル。

 ケースマイアンで聞いた、ミルリルの父親だ。鍛治王の娘が鉱山跡にアジトを作った盗賊団の頭領(ボス)。その醜聞はミルリルを傷付け、妹ミスネルを傷付け、彼女たちの愛した父親の誇りを傷付けた。


「ギルドから依頼は出ているのであろうな。その土竜(モール)義賊団とやらのアジト討伐じゃ」


「あ、いえ。ですが……」

「出ていないのであれば、それでも構わん。どのみち、同じことじゃ」


 憤怒に髪を逆立てたミルリルの形相に、周囲の誰もが背筋を凍らせる。静かに言葉を吐き出した唇が、笑みに似た形に歪められた。


「わらわは、その女を殺す」

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