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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
4:敵と、敵の敵

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119/422

119:聖都の光

 2日目は少しペースを落とし、休憩を多く取ったことで移動距離は250kmほどだった。

 念のため街道を離れて王都を西に大きく迂回し、そのまま街道の西側ルートに戻る。

 整備された東側ルートの方が走りやすいものの、そちらは皇都に向かう街道だ。皇国軍の干渉が予想されるいま、避けた方が無難だろう。


 ケースマイアンまで300kmを切った辺りで、陽が傾き始めた。まだ王都から100kmほどしか離れていない。王から名指しでケンカ売られている状況であれば、野営するか多少の無理をしても進むか迷う。


「オーウェさん、街道沿いに敵は」


“確認できません。現在、陛下たちが居られる位置から北に40(ミレ)まで、難民らしき者たちが見られるだけです。


「王都には、何か変化はありましたか?」


“上空から見る限り、特には……ただ、以前より灯りが増えているように見えました”


「妙じゃのう?」


 ミルリルがこちらを見る。人が減っているはずの王都に灯りが増えているというのは俺も不可解に思うけれども、それで何か問題でもあるのだろうか。


「ふつう、集落に灯りが増えるのは“食うに困らんようになった”ことを示すものじゃ。いまの王都でそれは、おかしかろう?」


「オーウェさん、光源は炎ですか」


“外縁部や城壁にあったのは松明(たいまつ)篝火(かがりび)、ですが城や王都中心部の光は魔力光が混じっているように見えました”


「わらわが居った頃の王都で、魔力による灯火はほとんどなかったはずじゃ。上空からわかるほど多くの魔道具を持ち込んでおるとしたら、皇国の後ろ盾を証明しておるようなものじゃの」


 いったい何がどうなっているのかわからんが、いずれにせよそんな面倒臭いところにわざわざ首を突っ込む気はない。百もの避難民を連れているのだから、なおさらだ。


「ありがとうございます、オーウェさん。陽が暮れますんで、こちらに戻ってください」


“了解しました”


 俺は、騎乗ゴーレム部隊を排除した後にリンコが予想した皇国の内情を思い出す。

 “外征を主張してきた将軍派が発言力を失い、内政拡充を掲げる宰相派が台頭する”、だったか。


 その予想は当たったのかもしれない。


 いま王国で実権を掌握しているのは、どう考えても自国の内政拡充を図るような政治家タイプではない。将軍派かどうかは不明だが、外征を主張する皇国の武闘派、反動派だ。

 彼らは国内での権力闘争を諦め、サリアント王を傀儡にしようとしている、あるいはもうそれを達成しているようだ。


「皇国の目的はなんだ? 王国の傀儡化? 資金も人も物資も費やして苦労する割に、実入りが少ない気もするが……正直やるなら勝手にやってくれと思うんだけどな」


「うむ、問題はその後じゃな」


 愚王を操り王国から利益を抜くにせよ、新たな国体を立てるにせよ、皇国本国の宰相派との全面戦争を行うにせよ、だ。


「ケースマイアンは立地が悪過ぎるのう。皇都と王都の間で周辺国すべてを打ち破った軍事力があれば、いずれ放ってはおくまい」


「そうなるよね……ケースマイアンを暗黒の森にでも遷都するか? それとも、王都か皇都かその両方かを遷都させちゃう?」


 天国か地獄にでもさ。


「魔王の決断に、王妃は従うのみじゃ」


「え」


「これは卑怯な物言いとは思うがのう、わらわはヨシュア、おぬしの選択が見たいのじゃ。その帰結は問わぬ。是非も問わぬし、皆の幸せも必ずしも求めてはおらん。わらわは、おぬしの意思を、その行く末を知りたいのじゃ」


 自分でも見えていない、というか目を背けていた将来像を求められてしまった。

 そろそろ、決断しなければいけないのだろうな。このまま軍事的脅威を排除し続けていけば、いずれ周辺国は破綻してケースマイアンは最大最強の勢力になる。

 かつて力を持ち、奪われた者たちが、それを座視しているはずはないのだ。


◇ ◇


 野営地を確保して立哨を立て、その夜は警戒を厳にして夜明けを待つ。


 避難民たちも疲れは溜まっているようだけど、明日にはケースマイアンに到着すると聞いているせいか表情は明るい。

 食事は、ストックした最後のスープと平焼きパン。そして、とっておきのワイバーン唐揚げだ。予想を遥かに超える大好評で受け入れられ、調理済みの食材は底をついた。後は非常食や携行糧食が中心になるけれども、明日の明るいうちには到着できそうなので大丈夫だろう。


「のう、ヨシュア。もう200(ミレ)であればケースマイアンに伝令を出して、”はんびー”と“トラジマ号”で迎えに来てもらうのはどうじゃ?」


「それも考えたんだけどさ。嫌な予感がするんだよ。出来るだけ向こうから戦力を引き抜きたくない」


「予感か。それがなかなか侮れんものなのじゃ。嫌なものほど当たりよる」


 うん。信じてくれたのは嬉しいけど、確信的な発言がフラグみたいで怖いな。


 そんなふうに笑い話にしていた俺は、明け方近くにミルリルさんから叩き起こされ、自分の甘さを痛感することになる。


 敵が、動いた。


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