115:食後の宴
とりあえずの問題はどうにか解決しそうなので、避難民たちを集めて昼食の準備を始める。
竃を用意できない事態を考えて、大鍋いっぱいに作ってもらっておいたシチューと、いつもの平焼きパンだ。それにグリル済みの巨大塊肉を切り分けて配る。
「なんだろう、この肉。牛肉と仔羊肉を合わせたみたいな味。ものすごく美味い……」
「それはケースマイアンで討伐した陸走竜じゃな」
「え!?」
やっぱり、皆そういうリアクションになるのね。喜んでもらえるんなら良いんだけどさ。
「それじゃ、こっちの鶏肉と豚肉の中間みたいのは」
「有翼竜じゃ」
「「「!?」」」
「いや、そう驚かんでも良いぞ。そんなもんは、わらわたちも初めて食うたのじゃからな」
「……どうしたんですか、これ」
「先の戦闘でケースマイアンに攻め込んできた竜騎兵じゃ。エルフの戦士が山ほど仕留めたからのう、せっかくじゃから食わんといかんじゃろうと思うてな」
「「「美味しい……」」」
「シチューはケースマイアンの女性たちが作ってくれたんだよ。野菜や香草や山鳥の肉は近くの森で取れたものだ。美味いだろ?」
だろ、つうても俺は狩猟採集生活には、まったく貢献してないのだが。
「うん、美味しい。すっごく、美味しい……」
「侯爵領は海が近いし湖もあるから魚料理が多いんです。それも美味しいんですけど、ケースマイアンの料理は、とっても美味しいです」
リオノラさんが解説を入れながらパクパクと美味しそうにグリル肉を頬張る。見た目は人間とはいえ獣人なので肉の方が好きなのかもしれない。
「魚か。せっかく海まで行ったのに、食べる暇なかったな」
「ヨシュアは魚が好きか。なに、また訪ねればよかろう。今度は平和になった頃に遊びに行けば良いのじゃ」
「ケースマイアンの近くに海はないんだっけ」
「暗黒の森を越えた先には港町があると聞くが、魔獣の住処を300哩も越えて行くのは難儀じゃのう」
北にも海はあるのか。森を抜ける方法が見つかれば、いつか行ってみたいところだな。
「美味しかった……」
他の避難民たちと違って侯爵領では迫害を受けていたわけでもなく食うに困っていたわけではないようだが、それでもケースマイアンの料理は好評のようだ。
トラックに積んでおいた1.5リッターのミネラルウォーターや菓子類には誰も手を付けていなかったようなので、ペットボトルや菓子の包装の開け方を教えがてらそれぞれに配る。
話してみると、開け方がわからなかったのではなく、緊張でそれどころではなかったらしい。
子供たちはクピクピと美味そうに水を飲み、菓子類にキャッキャと歓声を上げた。
周囲の警戒を頼んでいたルヴィアさんがミルリルと交代して戻ってきた。俺もオーウェさんと交代するため丘の稜線上に立つ彼女のところに向かう。
「オーウェさん、代わりましょう。食事を摂ってください」
「ありがとうございます、魔王陛下。その前に、少し気になることがあるのでご報告を」
オーウェさんが担当していたのは進行方向にある小高い丘の上。そこから先には、起伏に富んだ丘陵地帯が広がっている。
ベリーショートのお姉さんは運転の疲れも見せず前方の右手、1kmほど先にある少し高くなった崖のような場所を指す。
「敵影は見えないのですが、あの崖の上にあるのが人工の構造物のように思えるのです。少し上空偵察を行ってくるべきかと」
「人工物だとすると、予想されるのは?」
「監視用の物見台、もしくは長弓による襲撃用の砦です」
いま有翼族のふたりに怪我でもされたら移動が出来なくなる。彼女たちには、俺たちが偵察してくる間に周囲の警戒を頼むことにしよう。
「……もしかして、両陛下が向かわれるのですか?」
「うむ、ほんの腹ごなしじゃ。それに、我が魔王軍に敵対する者がいるのであれば、挨拶をせねばなるまい?」
のじゃロリ先生の嬉しそうな声に振り返ると、もうワクワク顔でやる気満々だった。
ちょっと、あなたは後方を警戒してくれてたんじゃなかったんかいな。
「ルヴィアさんとオーウェさんは、食事を摂ってください。その後でこの場の警戒をお願いします。俺たちは、ちょっと見てきますから」




