113:覚悟
「は?」
魔に墜ちた召喚者を、成敗する?
墜ちてねえし! こんな大量殺戮者になったのは誰のせいだと思ってんだよ!?
そもそも魔物を暴走させて王国民を危険に晒しといて聖なる力もクソもあるかい、矛盾してんのにも程があんだろ。
ああもう、ふざけんな。魔物の群れとか知らんし。絶対突破してやる。聖都やら王都やら知らんけど、ぜってぇ寄らねえ。近付きもしねえよ。
ウラルの燃料満タンにして、道を塞ぐものは何だろうと迷わず轢き殺せってドライバーのお姉さんズに厳命しちゃる。
……っと待った。ディーゼル燃料、800km(トラック2台分)も走れるだけのストックないぞ。
サイモンとこでジェリ缶……容量と給油回数を考えるとキリがないな。ドラム缶と電動ポンプか、いやケースマイアンに戻れば戦車もあるし、もっと大規模な給油設備が必要になりそうだ。
とりあえず、いまは移動中の給油方法と車列を守り包囲を突破するための火器だ。
ああ、くそッ! なんで俺が阿呆どもの八つ当たりに付き合わされなきゃいけねえんだよ、もう……!
「落ち着かんか、ヨシュア。そんな顔しておると、本当に魔王のようじゃぞ?」
こんな小市民な魔王がいてたまるかい。いま考えてるのは、仲間をケースマイアンに送り届ける間の燃料確保だぞ?
ウラル軍用トラックと民生用ウラルのトレーラーは収納から出しておいたので、有翼族のお姉さんズの誘導で避難民の搭乗が進められている。
1号車(軍用トラック)のドライバーはルヴィアさんで、護衛を兼ねた通信担当としてエルフの長老役ルーミエさんに助手席に座ってもらう。
トレーラータイプの2号車にはドライバーのオーウェさんと、助手席に獣人ハーフのリオノラさん。自前の弓を持ったルーミエさんと違い、リオノラさんは文官で武器は半ば儀礼用でしかない短剣だけだ。
俺の視線の意味を察したのだろう、オーウェさんが座席の背後に置かれたアサルトライフルと予備弾倉を手で示した。
「M4がありますからご心配なく」
「そうですね。いざとなったらお願いします」
燃料は両車とも現在ほぼ満タン。燃料計が1/4を切ったら給油のタイミングを図ることにしよう。
いま“市場”を開くと侯爵への説明が面倒なので、給油がてら最初の休憩地点で行うことにしよう。
「ミルリル殿と接しているときのヨシュア殿は、途端に子供のような顔になるのだな」
ルートと段取りを確認していた俺とミルリルを見て、エルケル侯爵が苦笑する。
「当たり前じゃ。わらわは魔王ヨシュアの妃にして戦友にして護衛、そして妻にして母だからのう」
ミルリルさん、むふんと鼻膨らませてますけど、いつからお母さんになったんですか。
うん、でもいいかもな。母親になったミルリルも、見てみたいな。母乳がちょっと心配なくらいで……いいお母さんになると思う。
「母ッヒュンダイッ!?」
「……お? なんか変な音したけど、ってミルリル大丈夫か!? 顔が蛍光ピンクになってるぞ!?」
「お、おニュひが、いきなりヘンなこというからニャ!」
ニャって。そうか声に出てましたか。侯爵まで顔背けて肩プルプルしとるし。
まあ、いいや。なんか気が楽になった。自分の優先順位が決まってさえいれば、もう恐れるものなど、何もない。
「それじゃ侯爵、お世話になりました。俺たちはケースマイアンに戻ります。縁があったら、また会いましょう」
「いいのか? この期に及んで魔王の力を疑うわけではないが、まだ街道の途中は魔物の群れがうようよしているし敵の制圧下にあるのだが」
「俺は……俺たちは、大丈夫ですよ。ミルリルと仲間たちがいれば、敵なんて何であろうと……」
俺は笑う。魔王のように。
「皆殺しにするだけですから」




