11:ドワーフの一撃
「ミルリル、魔法は使えるか?」
「初級の防御魔法と、汎用の生活魔法くらいじゃな。あんなバカげた攻撃魔法を防ぐほどの技術はないし、身体強化以外の攻撃手段もないのじゃ」
「参ったな。俺も魔法に対抗する手段はない」
「ドワーフの身上は度胸と腕力と技術力じゃ。隠れてコソコソするのは性に合わん。攻撃されるより前に殺せば良かろう」
「しッ、誰か来る」
先ほどの魔法着弾位置に人影が見える。黒フードの男。たぶん魔導師なのだろう。死体の確認をしているのか、外したとわかるとすぐに周囲の警戒に入る。探知魔法とかあるのだとしたら、見つかるのは時間の問題だ。
「サーチ」
かすかに魔導師の声が聞こえてきた。もう詰みだな。ここは手段を選んでなどいられない。俺は収納からAKMを出して、隠れるようミルリルに身振りで示す。
「それは、なんなのじゃ?」
心配した通り、ドワーフ娘は好奇心に負けて俺の側までついてきてしまう。声を潜めてはいるが、えらく興奮して状況が見えていない。
「さっきの銃の大きい奴だ。魔導師相手に通用するかはわからんから、隠れててくれないか?」
「嫌じゃ。わらわはヨシュアとおる」
鼻息荒く告げられたが、たぶん……というか絶対これ、俺を気遣ってたりしての発言じゃない。説得している時間はないし、聞いても受け入れないだろう。俺は諦めて収納から拳銃を取り出した。セイフティを外して装弾を再確認し、銃口を魔導師のいる方向に向けた状態でミルリルにグリップを持つように促す。
「これを持ってろ。相手に向けて、ここを引くと即死の矢が発射される。撃てるのは1発だけだ。相手の目が見える距離になるまでは撃つな。撃つ直前まで、トリガーガードのなかに指を入れるな。あと、絶対に俺に向けるなよ?」
「わかったのじゃ」
大事にするのじゃ、とか言ってるけど貸しただけだからな?
「2匹、北東の森」
誰に向けての言葉か知らないが、魔導師はこちらを発見したらしく遮蔽物を縫ってこちらへの移動を開始する。俺たちの姿を視認はしていないようだが、夕闇が濃くなってゆく森のなかで探知魔法が使えず夜目も利かないこちらが不利だ。
AKMのアイアンサイト越しに魔導師の姿を確認する。距離は15mといったところか。あまり狙って撃つような銃ではないし、そもそも手に入れてからまともに照準調整もしていない。できれば警戒される前に仕留めたいが……
「よし、目が見える、距離じゃな?」
「あ、バカ!!」
よし、じゃねえよ!
のじゃロリは、どう勘違いしたか拡大解釈したか知らないが、低い姿勢のまま森から飛び出す。短い手足と低身長を生かした短距離ダッシュで遮蔽物を使い、あっという間に魔導師に迫った。
そうなると誤射の可能性が高く、もう俺は撃てない。放っておくわけにもいかず、後を追って駆け出す。むしろこちらの役目は陽動、囮だ。ミルリルの逆側で目立つ小銃を振り回し、嫌でも目に付くように立ったまま狙いをつける。
「くそッ、舐めたマネを……ッ」
「貴様がな」
もうミルリルは魔導師のすぐ横に立っていた。振り返った男が見開く目をまっすぐに見据えて、のじゃロリは笑う。
「見えた」
鼻に着弾した45口径弾は身長差から頭頂部に抜け、頭蓋骨と脳漿を宙に撒き散らす。崩れ落ちる男を振り返りもせず、ミルリルは手振りで森の方向を指す。
「来るぞ、わらわの見たところ、魔導師1と重装騎兵が4じゃ♪」
ピンチは終わらず増援到着。ってアンタ、なんでそんなに嬉しそうなのよ。




