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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
4:敵と、敵の敵

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109/422

109:爆ぜる怒り

 バスを停止させた俺は、ミルリルを連れて降車。森の小高い場所まで移動して、敵が待ち伏せていると思われる場所を確認する。


「オーウェさん、敵の数はわかりますか」


“ここから視認できる範囲では、重装騎兵が6、軽騎兵が2、重装歩兵が10。軽装歩兵が20です。戦闘態勢で街道の両側に隠れていますが、指揮官は見当たりません”


「……ふむ。倒木の陰に隠れているのがおるな。あれが指揮官であろう。あやつら、どこぞで見た覚えがあるのう」


 どうでもいいが、有翼族もミルリルも視力すげえな。俺には800m先の伏兵なんて全然なんにも見えん。

 とりあえず敵情視察は(ミルリルが)出来たのでバスに戻って指示を出す。


「オーウェさんは運転席についたまま、ルヴィアさんとここで後続を待ってください。俺たちへの支援は不要です。自分たちとバスの防衛を最優先、次に可能な限り後続輜重部隊の防衛を」


「「了解しました」」


 人間相手ならM4アサルトライフルの5.56ミリ弾でも問題ないだろうが、念のためRPKとRPGも車内に残しておく。


「リオノラさん、このふたりはケースマイアンでも有数の精鋭で、彼女たちに任せれば何の問題もない。もし戦闘になったら椅子の陰に伏せて絶対に動かないこと。特に、そこの武器には絶対に触らないように」


「は、はい」


「まあ、心配ないのじゃ。たかが40やそこらの兵、ここまで辿り着くことはなかろう」


 ミルリルさんは、いつものことながら余裕である。

 前衛に立つ俺たちに、ルヴィアさんたちも慣れているのか信用しているのか特に不安そうな顔を見せない。


「魔王陛下、妃陛下、ご武運を」


「うむ、その言葉はありがたく受け取っておくが、敵が124までなら、運など不要じゃ」


「……ん? なんか増えてないか? 前はたしか117だったような」


 ミルリルはUZIを胸元に抱えて、自分の右肩を示す。M1911コピー(スター)が入ったショルダーホルスターの反対側、右脇に予備弾倉が追加されていた。


「ここに“すぺあまがじん”を収めるのじゃな。恥ずかしながら、いままで知らんかったわ」


 それで7発分増えて124人ですか。


 恥ずかしポイントがいまひとつ理解できんが、相変わらず安定のワンショットワンキル宣言。つうか最近UZI以外を使ってるとこ見たことないんだけど。


「110人以上を相手にすることがないからのう」


「普通ないわ。ていうか毎度のことながら俺の心を読んで返答して来るのやめてくれませんかね」


「以心伝心じゃ」


 たしかに気持ちは通じてると思うけどさ。


「ヨシュア、街道の先、左に岩がある緩い下り坂の手前じゃ。あやつら、坂を下り切ったところに待ち構えておるのでな。わらわは、いつでも良いぞ?」


「了解」


 俺はミルリルを抱えて街道の指定位置に転移する。

 相手の待ち構えている真ん前に出て、ミルリルは道の左、俺は右の森に向けて銃を構えた。


「ブサイクな隠れ方じゃのう。わらわたちに、なんぞ用か?」


 いきなり出現した俺たちの姿に驚き息を呑む気配と、身動(みじろ)ぎする葉擦れの音がした。

 あいにく俺の目にはまだ敵の姿が見えない。(あぶ)り出すしかないか。


「5数えるまでに出て来なければ、殺す! ……1!」


 数え始めてすぐ、奥の茂みから(いなな)きを上げて馬が飛び出してきた。街道の左右から3頭ずつ、重装騎兵を乗せてこちらに突進してくる。

 手槍を突き出して来る兵は、ケースマイアンの戦場では見た覚えのない茶色の外套。どこの軍なのかはわからない。


「出てきたのは褒めてやるがのう」


 俺は自分のいる右側の騎兵に対してAKMで連射を叩き込み、馬を潰す。興奮状態の軍馬を射殺するのに、全自動射撃(フルオート)で20発以上を消費してしまった。

 俺は弾倉を交換しながら短距離転移で近付き、転がって動けなくなっている重装騎兵に銃を突きつけた。


「指揮官は誰だ」


 返答はない。森に潜んでいるであろう残敵にも動きはない。


 ミルリルの方に目をやると、あちらは馬は無事なまま騎兵だけが転がって事切れていた。いつものように目玉に1発ずつ。ちらりと俺を見て、問題ないというように頷く。

 視線にいくぶん責めるような色があるのは“馬に咎はなかろう”というところなんだろうけど、そんなん至近距離で突っ込んで来る重装騎兵の、兵士だけ無力化なんてできるわけないっつうの。


「指揮官は、誰だ」


 俺は周囲に潜む気配に向けて声を掛け、転がっている重装騎兵の太腿を撃ち抜く。軟鉄を手作業で叩き伸ばしたような代物が7.62ミリ弾を止められるはずもなく。騎兵は血飛沫と悲鳴を撒き散らしながら転げ回る。


「5つ数える時間は過ぎた。交渉は終わりだ。恨むなら腰抜けの指揮官を恨め」


 ヨロヨロと立ち上がろうとしていた騎兵の兜を撃ち抜く。逃げようとしたもうひとりを背中から撃つ。


「何をしておる、奴らを殺せ!」


 その声が聞こえた位置を記憶に留める。

 立ち上がって矢を放とうとした弓兵を射殺し、剣を抜いて駆け出して来た歩兵を盾ごと射抜いて殺す。


 その間にも俺の左側からは一定間隔で確実に冷静にUZIの射撃音が響き続けている。放たれた弾丸は兵の目玉を撃ち抜いているのだろう。森から出て来られた兵は、ひとりもいない。


「ヨシュア、終わったぞ。指揮官はそちらの奥にある倒木の陰じゃ」


 待って待って、こっちまだあと5〜6人が隠れながら回り込もうとしてるみたいなんだけど。


「ふむ。加勢するのじゃ」


 いってるそばからUZIが放たれ、俺には全く見えていなかった茂みの奥で兵士が倒れる。

 何この潜在能力(ポテンシャル)の差。やっぱ俺、魔王どころか戦闘能力はふつーに商人レベルだわ。


「おい、そこの老いぼれ。出てこんと殺す。抵抗しても殺す」


 木陰で震える指揮官に向けて、ミルリルが珍しく剥き出しの怒気を放つ。ボソッと俺にしか聞こえない声で、彼女が吐き捨てるのが聞こえた。


「……何もせんでも殺すがの。クソ忌々しい盗人めが」


「もしかして、知り合いか?」


「もしかせんでも知り合いじゃ。王都でわらわたちを殺そうとした阿呆がおったじゃろう。あれをけしかけたのが、そこでコソコソと隠れておるトーレイス公爵じゃ」


 ……え〜っと。王都を脱出するときに殺され掛けたのは覚えているが、貴族の話はイマイチ記憶にない。


 ミルリルから機械弓を奪ったという貴族か?


「……ん? でもそれ、緑の外套を着た……辺境伯領軍じゃなかったか?」


「それは機械弓の売り先で、子飼いの小者じゃな。わらわの知識と技術を独占しようとして、断ったら殺しに掛かって来たのは、そこのトーレイス公爵で間違いないぞ?」


 話がよくわからん。そんな名前を聞いた記憶はない。さらにいえば興味もない。さっさと殺して済ませてしまいたいが、当人が出てくる様子もない。


「その公爵、王都暮らしならおおかた王族派だろう? こんなときに、こんなところで何をしてるんだ」


「わらわが知るわけなかろうが。どうせ国王にくっついて逃げ落ちて来たとかじゃろう。宮廷貴族で領地は持っておらん。王国経済で利鞘を稼いでいたらしいが、それもおぬしが潰したであろう?」


「俺たちが(・・・)、ね。そこ大事よ?」


「とにかく、もう何もかも喪った哀れな老害じゃ。ケースマイアンの魔王に恨みを晴らす機会でも伺っておったのではないかのう? ここで果てるのが望みであれば、おぬしが叶えてやってはどうじゃ?」


「おのれ! 黙って聞いておれば好き勝手なことを抜かしよって!」


 森のなかから、銀甲冑姿の老人が飛び出して来た。片手に剣を持ち、片手には――筋力がなくて支え切れなかったのだろう――大きな盾を引き摺るように構えている。

 のじゃロリさんってば、煽りに煽った感じだったので、たぶん色々と因縁めいた感情があったようだ。


「薄汚いドワーフの小娘が! 人類の敵、魔王の下僕に成り下がったとは。亜人には魔族の血が混じっているというのは本当だったようだな。いま、この手で成敗してくれるわ!」


 いや、そんなん無理に決まってんだろ。あんた40近い戦闘職を一瞬で皆殺しにされたの見てなかったんかい。

 見ていても受け入れられないってだけなのかもしれないけどさ。


「のう、公爵」


 ミルリルは振り返りもせず、UZIを革帯で肩に掛けた。殺す気が無くなったように見えるが、とんでもない。やる気満々ですよ、この人。


「貴様は、自分の功績を奪われ抗議したわらわに、こういったのう。“トーレイス家に逆らうならば、王都で生きていけなくなるぞ”と」


 問答無用とばかりに剣を振り上げて動き出した公爵に、ミルリルはホルスターからM1911コピー(スター)拳銃を抜いて、撃った。


 膝を防護するはずの金属板は呆気なくひしゃげて、老人の身体が傾く。45口径の拳銃弾は半月板ごと鉄板を貫き砕いたのだろう。転がった公爵は甲冑の自重で身動きさえ出来ないまま痙攣し悲鳴を上げる。


「あ、あああ、あぁーッ!」


「貴様の、あの判断にだけは心から感謝しておる。あのまま王都におったら、今頃わらわは腐っておった。身も、心も、誇りも、志も、夢もじゃ」


「ぁあ、あ……」


「だからのう、公爵。わらわから機械弓を奪ったことは許そう。わらわを殺そうとしたことも水に流そう。数々の侮辱も冷遇も、いまでは些細なことじゃ。貴様の卑劣な判断が、いまのわらわを成したのじゃ。掛け替えのない多くの素晴らしきものを手に入れるきっかけを与えたのは、皮肉にも貴様の悪意だったのじゃからのう?」


 ミルリルさんの台詞は、公爵の耳には全く届いていない。聞かせようという気もないのだろう。必死に身を起こそうともがく老人に、ドワーフ娘は笑って肘を撃ち抜いた。


「あ、ああ、ああああああぁ……!」


 剣で支えられ立ち上がろうとしていた身体は顔面から崩れ落ちて転がる。


 仰向けに天を仰ぎ息も絶え絶えな公爵の鼻先に、ミルリルは拳銃を突きつける。いっそ愛情を感じさせるような微笑みで、老人の目を見つめて、いった。


「魔王陛下テケヒュヨシュアより貴様に格別の死を賜る。謹んで受けるが良い」


 ……え? そこで俺!?

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