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shout at the devil 〜悪魔に叫べ〜  作者: 春野まつば
第1章
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リリス⑥

 そしてリリスはその小さく白い指先にぷっくりと溜まった血を静かに一滴だけ床に散らばっていた雑誌の一冊に落とした。


「…なんだよ? ただ雑誌を血で汚しただけじゃねーか…まぁ、古い雑誌だし別に血の一滴つけられたところで特になんにも思いはしねーけどよ…」


 と、京がぶつくさ言ってるうちに血の雫は水に落とした絵の具よりも早くその雑誌を赤黒く変色させてしまった。

 不気味、邪悪、忌々しい。すべての言葉が当てはまるような雑誌だった物。

 表紙には可愛らしいグラビアアイドルの写真が印刷されていたはずが、今は見る影もなく、それを眺めているだけでも背中にゾクリと悪寒を感じた。


「これが妾の能力じゃ」


 細かな説明もなく、リリスは短く言い終えた。


「能力もなにも…説明してもらわないとわからんわ…」


「見てわかるじゃろう。妾はこの書物を妾の血と魔力によって別のものに産み直したんじゃ」


 そう言って小馬鹿にするように笑う。


「つってもよ…」


「やめておけ!!!」


 おもむろに雑誌に手を伸ばした瞬間、リリスは声を荒げて京の手を制止させた。


「今、この書物は妾の力によって人々を狂わせ、恐怖させる禁忌の書に変えた。契約して少しは魔力を得たとは言えーー」


 リリスはまっすぐ京の目を見据える。


「廃人にはなりたくはなかろう」


 それは大声で叫ぶわけでもなく、甘く可愛らしい声にも関わらず、妙にドスの効いた迫力のある声だった。

 思わず圧倒され京は音を立てて息を飲んだ。


「そんなあぶねーもんを作るなよ…」


「作ったのではない。産んだのじゃ。それに悪魔が産み出したものになにを期待しておる」


 不敵に笑いながらリリスはその禁忌の書を横目で見ると


「まぁ、人間界での妾の魔力は知れておる。すぐに元の姿に戻るじゃろう」


そうポツリと漏らした。


「人間界だと魔力に制限がかかるのか?」


「うむ、大体魔界での100分の1ぐらいじゃな…まぁ、妾の場合姿まで制限されるとは思いもしなかったが…」


 リリスは不満そうに口を尖らせる。


「それは他の悪魔もか?」


「そうなるな。妾の場合、元の魔力量は多いがいかんせん力が弱い。他の奴らはそういった身体能力面に制約が発生しとるじゃろうが、妾はそれを肉体の幼児化で代用されたのだろうな」


 リリスが100分の1ということは他の悪魔が10分の1や5分の1というわけにはならないだろう。

 いくら悪魔といえどそこまで制約があるのならば魔力を持った人間でも存外、太刀打ちできるのかもしれない。

 そう京は静かに顎に手を置いて考える。


「『100分の1まで力が制限されてるなら俺らでも悪魔に勝てるんじゃないか』そう言いたげな顔をしてるのぅ」


「いや、実際そうだろう? いくら悪魔といえど100分の1まで本来の力が制限されちゃあな。加えてこっちは契約して魔力を得て能力まで使える状態だろ? これは『悪魔』と戦うってより『悪魔の力を持った代理者』と戦うて言った方がしっくりくる気がするな」


「まぁ、代理者同士の戦いが主になるというのは否定はしない…が、あんまり悪魔の力を舐めていると痛い目をみるということは覚えておくがいい。言ったじゃろう、これは代理者同士の戦いではなく、悪魔と代理者のタッグ戦なんじゃと」


 釘を刺すようにリリスはキッパリと言い切った。


「だからこそ、お前にはしっかりこの能力を理解し、使いこなしてもらわなくてはならぬ」


「じゃあ、最初から教えろよ」


「物事には順序があるじゃろーて! まずは悪魔たるもの人間をビビらせてからじゃ!」


 満面の笑みでカッカッカと笑うリリスに京はどうしようもなくムカついたが、ぐっと奥歯を噛み締めてリリスが次に発するであろう能力の説明を待つ。


「いいか、さっきも言ったが妾の能力は『産む』じゃ。じゃが…まぁ…作ると認識しても…う〜む…いや、まぁ、ちょっと違うが…いや、でも…いやいや、やっぱり違うのぅ…だが…いや逆に…う〜〜〜〜まぁいいじーー」


「ーーどっちでもいいから早く話せ!」


 なんとも煮え切らぬリリスにたまらず京が声を荒げると少しだけ顔をむすっとさせながらしぶしぶ説明を始めた。


「まぁ、一度見せたからどんなものかは少しは理解できただろう。妾の能力は自らの血を

使う。この場合、血と血に内在する魔力かの。今、お前には妾と契約したことによって微量ながら魔力がその血に流れておる」


 魔力が流れている身体。

 正直、現段階でそれを実感できるものはないが、なんとなく京は自分の身体をゆっくりと眺めた。


「それを先ほど見せたように産み直したい物、まぁ人間で例えるならそれが父親とでも言っておくかの」


「となると、自分の血と魔力は母親か…」


「そうじゃな」


 小さくリリスは頷く。


「血を落とし、その2つを混ぜることによってそれらから新たに魔力とその物を混ぜ合わせた『子』が産まれるわけじゃ」


「まぁ、なんとなく理解はできた」


「しかし、『産む』にも色々と制約がある。なんでもかんでも好き放題に作り出せるのならばそれは創造。神の所業じゃ」


「つってもよ、神と悪魔は紙一重の存在…って聞いたことあるぜ? 実際、悪魔だって元は神の使いだったって話だろ?」


 お前だって元々は神に創り出された最初の人間の一人だろ?

 その言葉だけはギリギリで声に出さず、飲み込んだ。

 みるみるうちに顔を曇らせるリリスに気づいたからだ。

 別に傷心の女の子を慰めるように気を使ったわけではなく、どこか不思議とリリスに恐ろしいものを感じたからだ。

 見た目は可愛らしい少女の姿なのに危うい。

 愛らしい爆弾を抱えているそんな気分だ。

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