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shout at the devil 〜悪魔に叫べ〜  作者: 春野まつば
第1章
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リリス④


「それはイエスを裏切ったユダと同じ名を持つことに他ならぬ」


「……それだけか?」


「うむ!」


 湯田京。

 確かにユダとは呼ばれるがイスカリオテのユダとはまったく関連性がないだろ、と京は言葉に出さず心の中で突っ込んでおく。


「次にメリットは大いにあるぞ! この代理戦争で勝った悪魔には王座を、人間には悪魔の力を持ってして叶えられるあらゆる願いを実現させてやることが決まっておる」


「なるほどな…それでもデメリットが大きすぎる気もするな。まずその代理戦争に参加している悪魔の総数。十や二十ではないことは確かだろ?」


 リリスはバツの悪そうに頷いた。


「それに悪魔との契約。誰もタダでは悪魔と契約できるなんて思わない。それなりの代償がいるはずだ」


 それに対してはリリスは小さく首を振った。


「お前が言っている契約は人間側に利益をもたらす場合の契約じゃ。その契約に関してはそれ相応の覚悟と準備があって成立するもの。例えば、富と名声、知識などを悪魔に授かる場合じゃな」


「今回の場合は違うと?」


「うむ。今回の契約はあくまで代理戦争間での契約でそれも悪魔側が協力を要請する契約じゃ。確かにタダではないとはいえ…」


 リリスは平らな胸の間からガラスでできたような透明のカードを取り出した。

 ガラスのカードの中央には1と大きく書いてある。


「妾の私物とお前の私物を交換するだけのことじゃ」


「そのカードは?」


「ディアボロスカード。言わば悪魔の代理者としての証明。そして代理戦争に参加しているという証。中に数字が書いてあろう? これは現在のカードの枚数。つまり、代理戦争とはこのカードの奪い合いというわけじゃ。契約が成立すればこれを渡す」


 つまりただの暴力による奪取というだけじゃなく盗みや譲渡も集める方法というわけか…。


「契約の途中解除は可能か?」


「できる。お互いの交換していたものを返すだけじゃ。まぁ、人間側は代理戦争に関する記憶の消去。悪魔側は集めたカードの枚数がリセットされるからこちら側としてはあんまりしたくないのぅ」


「聞きたいことが山ほどある。何個か質問していいか?」


「質問の多いやつじゃ…これでやっぱり契約しないとか言おうものなら呪い殺してやるぞ」


「そうだな…まずは…悪魔は人間を…いや契約者を殺すことはできるのか。その逆はどうか、が聞きたい」


「契約者を殺すか…できるとも言えるし、できなくもなぃ…」


 くぃ〜〜。

 尻すぼみに声がちいさくなったかと思うとリリスのお腹が可愛らしく鳴った。


「ダメじゃ腹が減っては戦も話もできん…」


 そう言ってちゃぶ台に突っ伏したままリリスは再びお腹を鳴らした。

 そしてようやくちゃぶ台に置かれていたタッパーの存在に気付き、京の顔をちらちらとエサをねだる子猫のような顔で見上げる。


「……はぁ…それ食わせてやるから…」


 ちゃぶ台からタッパーを取って電子レンジにかけながら京は話を続ける。


「それでできるともできなくもないってのはどういうことなんだ?」


「…………妾は腹を満たすまで一言も喋らんぞ……」


 おでこを机につけてリリスはぼそぼそと答える。

 若干の苛立ちも覚えたが、悪魔も腹が減るってのはなかなか興味深くもありおかしくもあった。


「ほら、食いながらでいいから話せ」


 温め終わったカレーときんぴらごぼうを机に置き、おそらく箸はつかえないだろうとスプーンとフォークも並べてやるとリリスは飢えた野犬のようにカレーを貪り始めた。


「ほぉ〜!! なんじゃこれうまっ! 筆舌に尽くしがたきうまさ! こっちの茶色い…木の棒みたいなものも悪くない!」


「おい!」


 リリスは頬をハムスターのようにパンパンに膨らませながら鬱陶しそうに京を見ると、しばらくモグモグと口を動かしてゴクリと喉を鳴らした。


「いいか? なかなかややこしい話じゃが、お前の質問にはどちらともイエスと答えれる…が、一部ノーとも答えられる」


 スプーンを突きつけながらリリスは偉そうに話し始める。


「まず悪魔は契約者を殺せるのか…殺せるには殺せるが、自分の契約者には手を出すことや危害を加えることもできない。例えば、お前と妾が契約をした際にはこの美味い飯をお前が奪い、妾が死ぬほどお前を憎んだとしてもなんの手出しもできないというわけじゃ」


「てことは…他の契約者。自分と契約した人間以外は殺せるってことか…ますます代理戦争ってのが危険で関わりたくないって気持ちが増すな…」


「け、契約はしてもらうからな!!」


 まずいことを答えてしまったとリリスはあからさまに狼狽えて見せた。


「じゃあ、人間が悪魔を殺せるっていうのも自分と契約した悪魔は殺せないってことか?」


 リリスはそこで下を向いたまま少し黙る。

 まずいことを答えてしまわないように隠してるわけではないのは顔を見ればわかる。

 明らかに動揺している。


「その沈黙はそうではないってことだな…つまりは契約者と悪魔の関係性は悪魔は自分の契約者に手は出せずとも契約者の人間側は悪魔をやりたい放題できるってわけか」


「な、なんで! 悪魔! おかしい!!」


「…ちょっと何言ってるかわかんねーわお前」


「不公平じゃろ! 悪魔側は人間を丁重に扱っておるのになぜ人間は悪魔を殺せる! おかしい! 悪魔界おかしい!!」


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