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shout at the devil 〜悪魔に叫べ〜  作者: 春野まつば
第1章
21/25

アホのリリスはスマホを知らない

 白い湯けむりが立ち昇るのを恨めしそうに眺めるリリス。

 いったいいつになったら自分はこの湯船を出ることができるのか…。

 以前としてさながらティディベアのように抱きかかえられたままリリスは眉間にしわを寄せた。


「ふんふ〜んふ〜♪」


 もう何度聴いたことか、同じ鼻歌を何度も歌い、上機嫌に目を瞑るマリアはそんなリリスの不機嫌に気付くこともなく。

 その歌がリピートされる間、何度となく心の中で京に対して助けを祈ったことか。


「……熱い」


 僅かに開けられた窓から外を眺めてリリスはぽつりと心情を吐露した。






「本当に上手くいくんだろうな」


 夜闇に紛れて蠢く影が二つ。

 長身の影、インキュバスは確かめるようにもう一方の影京に尋ねると、


「おう、大丈夫。これで『おかず』もバッチリよ」


 そんなドンと胸でも叩きそうな返事が返ってくる。

 京の手には急いで自分の家に取りに帰った古いスマホと糸。

 それをがっちりとカメラ部分にかからないように結び、その糸の先を長く伸ばした。


「いいか、インキュバス。肉眼での女の裸はその時になるまでとっておくべきだ。だからこそ、今回はこれを使う」


「確かに、童貞たるもの覗きで人生初の裸体を見ましたではプライドに傷がつくな」


 うんうん、頷くインキュバス。

 京は糸の先のスマホで無料のビデオ通話アプリを開く。

 ポケットWi-Fiは持参。

 そして、画面キャプチャー機能を使い通話を録画。

 これで完璧だ。

 リアルタイムで映像を確認でき、尚且つ動画の保存も可能。


「んじゃ、行くぞ。インキュバス」


「よし」


 京はぎゅっとスマホを握りしめ、形見のようにそれをインキュバスに託す。

 インキュバスはふわりと舞い上がり、風呂場の小窓に音を立てないようそ〜っと立てかけると風のような速さで京の元に戻ってきた。

 距離にしては五メートルほど、さほど距離はないが、バレた時の大事をとって二人は植木の影に隠れて女子たちの風呂場を拝見する予定だ。


「どうだ! 映ったか?」


「まだ湯気でわからん」


 食い入るように通話をつなげたスマホ画面を覗きこむ二人。

 音声は切ってあるのでこちらの声は聞こえないはず。

 のはずが…。


「な、なぁ…インキュバス…」


「おうふっ!」


 鼻血を噴き出しそうな感じに上半身を仰け反らせるインキュバスに京は冷たい汗を伝せながら呼びかける。


「めっちゃ見てる…」


 ぽつりと京は漏らす。

 それもそのはず、画面越しに京はばっちりリリスと目が合っていた。

 目を瞑り、上機嫌に鼻歌を歌う幼馴染の姿など目に入らない。

 その局部を隠すように抱きかかえられたリリスよって、そしてそのリリスと画面越しとはいえ目が合い、完全に盗撮がバレているという事実。

 だが…


「アホみてーな顔してんな…」


 画面に映るリリスはスマホの存在に気付いているにも関わらず、ぽけ〜っと口を開き間の抜けた顔で言葉を発しようともしない。


「リリス様をアホとか言うな!」


「あんまでけー声出すとバレるだろ…!」


「す、すまない。しかし…こ、これは刺激が強すぎるな…」


「お前…こんな子供の身体にも興奮すんの…?」


 半分呆れたように京は言い、苦笑をうかべた。

 京にとって正直、リリスの身体などどうでもいい。

 そういった性癖は持ち合わせていない。

 肝心なのはマリアの身体がそのリリスによって身体隠れてしまっていることだ。

 恨めしそうに京は下唇を噛んだ。


「まぁ、なんにせよ…たぶんリリスは盗撮に関して気付いているが気付いていない」


「……何を言ってるんだ…?」


 さも不思議そうに京を見つめるインキュバス。


「おそらく…あいつはスマホがどんなものか知らない…」


「馬鹿な! 現代人にとってスマホは常識だろう!」


「悪魔のお前が現代人の常識語るんじゃねーよ…。てか、なんでそんなに詳しいんだよ…」


「ボクが人間界に降り立ったのは三日前。嫌でも街中を飛び回っていれば情報は耳にも目にも入ってくるさ」


 当然かの如く、呆れた様子で語るインキュバス。


「リリスにそんな常識や情報は耳に入ってない。いや、あいつはアホだから入れようともしてないはず」


「あまりリリス様を侮辱するな! ちょっと世間に興味がないだけだ!」


「んじゃあ、あいつの喋り方はなんだ! ちょっと世間に興味がないとか以前にいつの時代の姫様だっつー感じだぞ!」


「幼女が『妾』とか『〜じゃ』とか言うのめっちゃ可愛いし、元の姿は元の姿で気品が出る。何が悪い?」


「…とにかく、リリスがスマホの存在を口に出すのも時間の問題だ。ギリギリまで映像を録画して怪しい動きがあれば、すぐさまスマホを引っ張り抜く…これでいこう」


「バレる危険性がある以上、これで終わった方が身のためではないか。幸い、素晴らしい映像が撮れたわけだし…」


「おめーにとってはな…」


 今はまだリリスの裸しか映っていない。

 これが元の姿によるものだったのならばそれはそれは極上の『おかず』になるかもしれない。が、あの性格を知ってしまった以上、どうにも幼女の姿が浮かんでしまいたぶん萎えてしまう気がしてならない。

 リリスの平たい胸や色気もクソもない未発達の身体より、今は幼馴染の慎ましやかな胸とは言えどそれが見たい。

 何かの拍子でポロリもといモロリがあることを祈って京は神妙な面持ちでスマホ画面を見つめた。




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