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shout at the devil 〜悪魔に叫べ〜  作者: 春野まつば
第1章
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インキュバス⑨


「お楽しみの時間つっても正直、一万発もお前を殴る時間はないだろうな」


 弱き人間に殴られたところでさしてダメージがあるはずもない。

 気付かぬ内に動きを封じられたということには多少狼狽えたが、相手が人間となればそう焦ることではない。

 インキュバスは不遜に京を真正面から睨みつけてみせた。


「殴る時間がない…なるほど…」


 それに京は言った。

 殴る時間がない、と。

 目の前の人間がどれだけリリスから授かった能力について理解しているかはわからないが、確かに人間の魔力ではそう長くは持たないはず。

 設置があの逃げるように資材などをばら撒いた時とすれば、定着に約1分。隠れてた時間が5分ほど、そしてこの状況に至るまで4分弱ぐらいか…。

 ならば、あの人間の能力が最長で20分だったとしても10分間奴の攻撃に耐えればいいだけ。

 可能か?


 いとも容易い。


 しかし、カードを取られることだけは死守しなくてはならない。

 カードを取られた悪魔がどうなるのかは不明だが、もしカードを失った時点でその悪魔が消滅、または死の可能性がある以上、それだけは避けなくてはならない。

 インキュバスはその短い時間であらゆる思考を巡らせた。

 それは下級悪魔に生まれた弱者故の考え。

 力で及ばない自分が他の悪魔たちに潰されることなく生きていくためのすべでもあった。


「5分じゃ」


 インキュバスの思考を断ち切るようにリリスは京にそう告げた。

 本来のリリスとは違った可愛らしい声に聞き惚れたのも半分あるが、それだけではない。

 たかが5分。

 5分耐えきれば勝機は見える。

 簡単すぎる。


「思ったより短いな…まぁ、俺こいつにはすっげー腹たってんだよ。だから時間が許す限りブン殴ろうと思う」


「ふむ…言いたいことは山ほどあるが、好きにせい。ーーと、その前に」


 リリスが小汚い軍手を京に向かって放り投げる。

 資材に紛れ混んでいたのだろう。


「悪魔の魔力耐性を限りなく無にする妾特製の手袋じゃ。それを使えばお前の腕力がそのままそやつのダメージとなるじゃろう」


 ただの汚れた軍手かと思ったが、そうではないようだ。

 京が手にはめた軍手は赤黒く変色し、どこか危険な雰囲気をかもし出している。


「おい、こういうのは早く出してくれよ。これさえあればかなり楽に戦えたじゃねーか」


「たわけ。妾でさえ、それを作るのにどれだけの魔力を使うと思っておる」


 元々、真っ白な肌をしていたリリスだったが、心なしか先ほどよりも顔が青白い気もしなくはない。


「今の妾ではその効果はもって3分。存分に殴れ」


 元の姿であればいとも容易い行為なのだろう、リリスは忌々しげに顔を歪めた。


「んじゃ、さっそく」


「リ、リリス様! それはあんまりにもぁああっ!!」


 抗議を述べようとしたインキュバスの左頬にメキメキメキと音を立てて京の拳がめり込んだ。


「き、きさまぅぁたっ!!」


 続けて再び左頬。

 それもそのはず、京がリリスから渡された軍手は片手分だけ。

 右手にそれをはめた京が同じ頬を殴るのは当然だった。


「悪魔にとっちゃよ、人間のパンチなんて屁でもないだろうがよ!」


 ガツンと頬骨に当たる音がする。


「水滴だって同じところに落ち続ければ岩に穴をあけるんだぜ?」


 言いながらまた一発。


「ほ、ほわぁ…」


 執拗に左頬ばかりを狙われ、そちら側だけをパンパンに腫れさせたインキュバスは力ない目で京は見上げる。

 同じとこを狙われ続ける、というのもあるが、リリスの軍手によって京の腕力による物理ダメージがそのまま通ってしまうため魔力なしにすればインキュバスは単なる華奢な成人男性と同じ。


「ほ、ほぅ…ひゃえて…」


 口は切れ、鼻血は吹き出し色男が見る影もなく膨れ上がった顔で京に懇願するが聞く耳持たず。

 幾度となく京の拳がインキュバスの左頬を襲った。




「終いじゃ」


 接着剤で固められ、不安定な態勢のままピクリとも動かないインキュバス。

 ぜぇぜぇと肩で息をする京。

 軍手の効果が消えたのを見て、リリスは二人に告げた。


「おい、俺がなんでこんなにキレてるかわかるか?」


 問いかけにインキュバスはピクリとも動かない。




「お前がマリアの『処女』奪ったからだよ!!」




 心からの叫びである。

 依然としてマリアは虚ろな目のままぼーっと立っている。

 その代わりリリスが顔を引きつらせてピクピクと肩を揺らした。




「キ、キモいのぅ〜お前…」




 これもまたリリスの心からの声だった。

 好きな女の子がレイプ魔に襲われた、京にとってそれだけはどうしても許せなかった。


「い、いや、あのな…」


 威風堂々と胸を張る京にリリスは言いづらそうに口をもごもごと動かした。

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