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shout at the devil 〜悪魔に叫べ〜  作者: 春野まつば
第1章
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序章

 どう見たって完璧な大人だ。

 湯田京ゆだきょうは古びた書店のガラス戸に映るスーツ姿の自分を見て確信した。

 わざわざ補助バックに死んだ父親のスーツをせしめてきた甲斐があった。

 ここに来る途中で薬局に寄って適当に香水もふってきた。おまけに髪は後ろへ流してオールバックである。これもまた薬局で試供用の整髪剤で固めた。

 これはどう見たって若手サラリーマンにしか見えないだろ…。

 京はにんまりと笑みを浮かべた。

 目の前に佇むのは田舎のどこにでもあるような寂れた書店。経営するのはヨボヨボのおばあちゃんで、そしてなにより大事なのがちょっと見た目が老けてれば中学生だってエッチな本が買えてしまうそんな思春期の男の子たちの味方の店。

 右手に千円札を握りしめて京は大きく息を吸ってゆっくり吐いた。

 今まで幾度となくコンビニで年齢確認をくらいたたらを踏んでいたが、そんな時に道行く中学生が話しているのを盗み聞いたこの本屋の存在。

 今日こそはエロ本をこの手に…!


「いざ、にゅうてーーうっひゃ!!」


「あんた…何してんの…? てかくっさぁ! なにその臭い!!」


「おま、おまおまえ! 急に肩を叩くんじゃないよ! ビックリしちゃうだろ!」


 振り返ると鼻をつまんで手を仰ぐ栗色の髪の少女。

 よく知る顔だ…いや知りすぎた顔。

 幼馴染と説明すれば話が早い、そんな京の隣の家に住む久利須麻里亜くりすまりあは怪訝そうに京を上から下へ見た後に


「色々突っ込みたいんだけどさ…一言で言うわ。キモチワルイ」


「気持ち悪いってなんだよ! どこからどう見たって若手のやり手サラリーマンだろ!」


「はぁ? やり手サラリーマン?」


 マリアは馬鹿にするように鼻で笑った。


「どう見たっていきった高校生のコスプレにしか見えないんだけど?」


「嘘だろ…」


 京は頭を抱えてその場に座り込んだ。

 完璧かと思ってたのに…。

 今日こそはお家でじっくり吟味して選んだマイフェイバリットエロ本を楽しもうと思ったのに…。

 京の頬を一筋の涙が伝った。

 それを見てマリアははぁ〜〜〜と眉をしかめて重く息を吐いた。


「あんたもう高二でしょーが…いいかげんくだらないことやめなさいって…」


「くだらなくないだろ!」


 食い気味に京が反論するとマリアは痛そうに頭を抱えた。


「最近はなぁ…ネットでなんでも見れちまうんだよ…。だけどそれって味気ないと思わないか…? 現物あってのエロだと思わないか?」


「思わない」


 きっぱりとマリアは吐き捨てる。


「大体ね、あんたさぁ河原でボロボロになったエロ本拾ってくるのやめなさいって…。片付ける身にもなりなさいよ…」


「待て。なんかよくエロ本が机に綺麗揃えて置かれてるなぁとは思ってたけどお前がやってたの…? 母親か!」


「あんたが片付けないからでしょーが」


 マリアは訳あってよく京の家に夕飯のおすそ分けを届けにくる。

 マリアが来ようが風呂に入ってたり、テレビを見ていたりと特に気にしたこともなかったが、まさかエロ本の整理までされていたとは初耳だった。


「あとね、意気込んでエロ本買いに来たみたいだけど」


 言葉をそこで切って、マリアは書店のレジカウンターに視線を移した。


「おばあちゃんケガで入院したから今は息子さんが店やってるわよ」


 聞いて慌てて書店内を覗き込んでみると、そこに座っていたのは剃り込みの入ったボウズ頭にサングラスをかけたガタイの良いおじさまが鎮座していた。


「え? うそ?! あれ!? あんなの絶対、尻の穴に焼けた鉄の棒ぶっ刺してもう二度とウンコできないねぇ〜とかいうやつじゃん!」


 狼狽える京を無視してそういうわけだから、とマリアはテニスラケットの入ったカバンを背負い直し、背中を向けて歩き、少し歩いたところでむすっとした顔で振り返った。


「ほら、帰るよ。エロ男」


「あ、あぁ…」


 前を歩いているマリアに追いつこうと京は早足で駆け出した瞬間、


「おまえ」


艶のある声で誰かに呼び止められた。

 声のした方に振り向くと長い黒髪の綺麗な女性が立っていた。

 どこか挑発的な目はルビーのように赤く、肌は雪のように白い。そして、なによりもグラマラスなナイスバディは露出度の高い赤いドレスでさらに魅力を際立てている。

 今まで見たことがないほどの美人。純粋にそう思った。

 思わず、京は生唾を飲み込み喉を鳴らした。


「落としたぞ」


 長く細い指先に持った京のであろう生徒手帳をピラピラとふる美女。


「あ、あぁ、あの…ありがとう…ございます…」


 緊張しながらも京はお礼を言いつつ、自分の生徒手帳に手を伸ばすが、それを拒否するように美女はひょいと生徒手帳を引っ込めてパラパラとページをめくり始める。


「ゆだ…きょう…ふふふ…ユダか…」


 自分の名前にどこか面白いところがあっただろうか。

 美女は京の名前を読んで薄い唇の口角を微かに上げた。


「では、またの」


 そして微かな笑みを浮かべたまま生徒手帳を京に向かって放り投げると美女はその場を去っていく。

 薄いドレスの生地越しに見えるぷりんとした尻。

 その後ろ姿をぼぉ〜と見遣りながら京はぼそりと呟いた。


「…たまんねぇーな…」



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