第7話師弟関係
あの後騒ぎに気づいたジュークがマスタールームから出てきて騒ぎが収まった。
そしてウィヌとサナとユナはマスタールームに入るようジュークに言われた。
ユナは別の町からノームの町に派遣された冒険者だった。ヴァンパイアが西の森に現れた事でトーム王国の王都にあるギルド本部が決定したようだ。
「で、どこで無くしたんだ?」
「知らない!」
「知らないってギルドカードは大事なものだろう?」
「ギルドに報告すれば作ってもらえるから問題ない!」
「悪用されたらどうするんだ!」
「ッ! それは考えた事なかった」
「それにギルドカードは貴重な素材からできているんだ。大事にしなさい!」
「そんな事は知らない!」
ジュークとユナがいがみ合っている。
因みに、ユナとジュークの関係は師弟関係である。ユナは貴族の生まれで冒険者に憧れていた。そこで両親が雇った家庭教師がジュークだったわけだ。
「そんなんだから本部で上手くやっていけずにとばされるんだ」
「ふん、ジュークに言われたくないね」
ユナは元々ギルド本部の人間だったようだ。サナが不思議そうにユナに質問した。
「ギルド本部って各地方の優秀な冒険者が配属されるのよね?」
「そうよ、崇めなさい!」
そう、王都のギルド本部は色々な地方から選りすぐられたエリートしかいないギルドなのである。つまり、王都には誰でも冒険者登録できる冒険者ギルド王都支部とギルド本部の2つのギルドが存在している。
ギルド本部に配属されていたという事実は大変名誉な事なのだ。
――崇めなさいって俺はどうかと思うけどな。
そんな所だからこそ疑問が生じてくる。そしてウィヌとサナの考えている事をジュークは察したようだ。
「こいつは戦闘能力だけでギルド本部に配属されたんだ。戦闘以外の能力は酷いものだが、戦闘能力はピカイチと言っていい」
肩を落としながらジュークが息を吐く。
――やっぱり残念な人だったんだね。
ジュークの言葉を聞いたユナはサナを不機嫌そうな顔で見つめた。
「疑ってたのね?」
「ご、ごめんなさい」
サナは苦笑いしながら頭を下げる。
頭を下げているサナにユナは目をそらして言った。
「べ、別にあやまらなくてもいいのよ。ただ私はちょっと世間知らずでドシというか⋯⋯。だから自分で言うのもなんだけどちょっと残念な所があるの。私はこの町でしばらく活動するし、同年代の冒険者として仲良くして行きたいと思っているの。よろしくね」
――今の言葉で俺のユナに対する好感度が少し上がった。
サナもポカンと口を開けたままユナを見ていた。
「今までのやりとりであまりいい印象は受けなかっただろう。だが、案外周りの人間に優しく接するいい奴なんだ。仲良くしてやってくれ!」
「案外は余計よ!」
「そうかー? まあ、そういう事にしといてやるか」
「ムキィー、言い方腹立つ!」
頰を膨らませているユナの頭をジュークがワシャワシャと撫でる。親を失っているウィヌとサナは思わずいいなと思ってしまった。
数秒後、ジュークがその視線に気づき、真面目な顔に戻して、ユナの頭から手を離した。
そうしてジュークが腕を組む。
「ところで最近冒険者の死亡率が増えているのを知ってるか?」
「へっ? そうなんですか?」
ウィヌが素っ頓狂な声を出した。
「ああ。だから対策として"冒険者の心得"という若手冒険者を対象にした訓練を1週間行う予定なんだが⋯⋯ここにいる全員参加してくれないか?」
――ッ!1週間か⋯⋯。
「費用の方はどうなるんですか?」
「それは全額ギルドが受け持つ。本部からも補助金が送られて来るそうだ。しかも食料は魔物を捕まえればなんとかなるからな。お前達は何も心配しなくていい」
「いつあるんですか?場所はどこですか?」
「2週間後だ。場所はギルドだ。」
「分かりました。僕は参加します」
ウィヌは費用の心配がなくなった時に参加する意思が固まったようで即答した。
サナも少し無言になって、ジュークの方を見て頭を縦に振った。
「私も参加します」
その様子を見てジュークは頷いた。
「それじゃ、ここにいる全員参加だな」
「えっ、私はまだ参加するとは言ってないわよ」
ユナが不思議そうな顔をジュークに向けた。
「お前は強制参加だ」
「なんでよ!」
「ギルドカードをな無くすような奴に拒否権はないぞ」
「ううっ」
ユナが涙目だ。もう10回は無くしてるってウィヌには聞こえたような気がしたが、空耳だろう。
「話は以上だ。引き止めて悪かったな」
ジュークが俺たちにマスタールームを出るように促した。
ウィヌは一体どんな訓練なんだろうとワクワクしていた。
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