第4話剣聖クレア=フォン=リーズベルト
ウィヌは即座に距離をとった。ウィヌの装備の武器は上等な鋼鉄の片手剣だが、防具は最低限のものしかない。あの大木をなぎ倒した1撃を見て、食らったらやられるとウィヌは直感した。
「はっはっは、貧弱な装備だ」
攻撃して来たヴァンパイヤも笑っている。
ウィヌの装備が軽装なのは、基本ステータスの高さと風属性と雷属性の適性を持つ故である。
要するに、戦闘では攻撃をほぼ食らわないため、防御に費やすよりも速度と攻撃力を高めた装備なのだ。
ヴァンパイヤはウィヌが仕掛けないと見ると攻撃体勢に入る。
「食らえ!」
ボコッ!
ヴァンパイヤは消えたと錯覚させる程の動きを見せ、次の瞬間には拳打が放たれていた。
ウィヌは咄嗟に剣を身体との間に滑りこませて自分の身体を守ったが、ヴァンパイヤの拳圧で30メートル程ふっとばされた。
ザッザッザッ!
ヴァンパイヤは追い込むようにゆっくりこちらに近づいて来ている。
そして、ウィヌは死の恐怖とやられた興奮で、全身からは鳥肌が立ち、顔がニヤケ始める。
ヴァンパイヤは怪訝な顔をする。
「何故そんなに嬉しそうなのだ、人間!」
「何故嬉しそう⋯⋯だと?」
「ああ。何故恐怖しない、人間!」
ヴァンパイヤは必死になって怒鳴り散らしてくる。彼にとって恐怖の感情が何よりも楽しみで優先される事であったため、ウィヌの態度が不愉快に感じたのだ。
それに対してウィヌははっきりと言った。
「そんなの決まっているだろう、俺がドMだからだ! やられたら興奮するに決まってんだろ。さあ、はやく、もっと来い!」
「⋯⋯⋯⋯」
ヴァンパイヤは思考を一旦放棄したようだ。
しかし、興奮し始めたウィヌは止まらない。そして、ステータスが上昇しはじめる。
「よし、電光石火と神速のインパルス発動」
神速のインパルスは神経伝達の電気信号をコントロールして、反射速度を上昇させる雷属性魔法である。ウィヌは片手剣を使う近接戦闘をとくいとしている為、身体能力を強化する魔法を多く習得しているのだ。
そのまま雷を纏ったウィヌがヴァンパイヤに対して突貫していく。
ガキンッと大きな衝突音が響く。
ウィヌの渾身の上段からの一撃はヴァンパイヤの持つ剣で軽く防がれていた。
「!?」
「身体強化してもこの程度とは哀れだな」
そのままヴァンパイヤは剣を横に薙いだ。その顔はもう自分の勝利を確信している顔だった。
そして、ウィヌは吹っ飛ばされる。今度は40メートル程吹っ飛ばされて身体も傷だらけのようだ。
しかし、どこか嬉しそうなウィヌであった。
「ヒール」
ウィヌは新たな魔法を発動する。水属性魔法ヒールである。水属性魔法は回復に優れた魔法属性で、ヒールは少しの魔力で軽い傷を治す魔法だ。
「ふんっ、ヒールなど小癪な。すぐに仕留めてくれるわ」
「仕留めるだと。まだまだこれからだ。もっと全力で来い! さあさあさあ! ウヒヒヒヒッ!」
ヴァンパイヤの顔が引きつる。
ボルテージが上がっているウィヌは最早ただの変態だった。
「うっ、取り敢えず早く終わらせてこの場を去るとしよう。ドMがうつる」
「ウヒヒヒヒッ! 一緒にドMになろう!」
「断る!」
グサッ!
この直後、ウィヌの身体から急に力が抜け、視界は真っ暗になった。
「やっと仕留めたか」
そう言ったのはヴァンパイヤだ。全力を出したヴァンパイヤの動きは大抵の人間の目には映らない。
ウィヌの腹には剣が突き刺さっていた。
確実に心臓に突き刺すつもりだったが少し狙いが外れてしまった。まだまだ精進しなければと思うヴァンパイヤだった。
「まあ、それよりも食うか」
ヴァンパイヤは頰を緩める。ヴァンパイヤは人間の血を食す事で強くなる。獰猛な犬歯をウィヌに突きつけようとした。
だが突如動きを止める。
「そこにいる貴様、誰だ!」
「あらら、ばれちゃったか」
倒された木の裏から人間の女が出てきた。
女は銀髪でヒスイ色の瞳を持っており、体格は小柄。小学生に間違われそうな幼い容姿であるが、殺気がなく行動が読めない。手には漆黒の剣が握られており、怪しい光を生み出している。
女はゆっくりとヴァンパイヤの方に歩く。足音が全く立たず、気配もほとんど感じられらない。まるで空気のようだ。
「よく気付きましたね。流石です」
「嘘つけ、ワザと気づかせたのだろう」
「なんの事ですか?」
ワザとらしく銀髪の女は首をかしげる。
そうワザと気づかせたのだ。ウィヌが食べられないように。
「ったく、なんでこんな所で鉢合わせるかね、剣聖クレア=フォン=リーズベルト」
そう、彼女はこの世界トップクラスの冒険者で世界最強候補の1人。剣聖クレア=フォン=リーズベルトだった。
こんにちは、トニーひろしです。
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