第3話血を欲する者
俺は西の森に来ていた。木々が生い茂っていて陽の光が遮られているところも多い。ジメジメしていて嫌な感じがする場所だ。
サナにはウィヌ指名の特別依頼だったと説明して帰ってもらっているようだ。彼女をこんな危険な依頼に付き合わせる訳にはいかないとウィヌは考えていた。
「ここらへんは魔物も多いから気をつけないとな」
ウィヌはそう呟いた。
しかし、森に入ってから1体も魔物に出会わないウィヌであった。もしかしたら本当に魔族がいて、そいつがレベル上げのために倒してしまったのかもしれない。
人間、魔族、魔物に共通している事と言ったらステータスが存在している事くらいだ。
「厄介な事にならなければいいが⋯⋯」
思わずそんな言葉がウィヌの口から出て来た。
因みに魔族は魔物の上位生命体と言われている。
魔族も魔物も食事を必要としないが、人間を食べて強くなると言われている。そこは同じであるが、違う点もある。
1つ目は魔族は魔物と違い高い知性を持つ所である。魔族と人間は同じくらいの知性である。
2つ目は魔族は魔物に比べ、圧倒的に戦闘力が高い所である。魔族の平均ステータスは人間の約100倍で1項目2万が普通である。
「むぅ⋯⋯」
ある程度森の奥まで来たが、ウィヌは1度も魔物と出会っていない。
これは普通では考えられない事態だ。やはり、何かが魔物を消したと考えるのが妥当かとウィヌは思った。
「恐らくこの感じは本当に魔族が居そうだな。⋯⋯よし、やるか」
ウィヌは風属性魔法の索敵について考えていた。この魔法は自身を中心にして風を出し、敵を索敵する魔法だ。森は障害物が多いため風による感知を行いにくいが⋯⋯それでもやるしかない。
「索敵!」
ウィヌは魔法名を口に出して風を出す。風は俺から四方八方に広がった。そして、気を抜かずに待つ事数分、前方2キロほどに人型反応があった。
「人型反応か。ますます魔族の可能性大だな」
ウィヌが一人ごちる。
そう考えると、嫌な汗が頬を伝い出した。もう後戻りはできないのだ。
ウィヌはそのまま索敵を続けながら移動していると、前方の目標が急に近づいてきた。まさか、索敵がバレたのかとウィヌの全身が凍りつく。
「いや、これを逆に利用させてもらおう」
そもそも、魔族の有無を確かめるなら来てもらった方が早い。目標がかなり近づいて来たら風の索敵を中止し、そこにおびき寄せればいいとウィヌは考えたのだ。
ものすごいスピードで目標が迫ってくる。今だ。
「電光石火!」
ウィヌは発動している索敵をやめて、雷属性魔法の電光石火を使用した。この魔法は体に雷を纏う事によって移動スピードを大幅に上げる魔法である。その代償として体にかなりの負荷が生じる。
ウィヌは電光石火を使って急いで大木の裏に隠れる。そして、今まで俺がいた場所を注意深く見た。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴン!
木々を倒しながら一直線に来たそいつは一瞬、血色のない優男に見えたが、よく見ると違う。
獰猛な犬歯を持ち、赤い瞳を持つ不老不死のバケモノ。圧倒的な存在感を持ったその姿は見た者を恐怖の底に陥れる。
そう、種族はヴァンパイヤ。生粋の魔族だったのだ!
そして、ウィヌは間違えなく奴が魔法を感知して来たと確信していた。
「このまま立ち去ってくれると堂々と町に帰れるんだけどな」
流石に今逃げる訳にはいかない。それはウィヌがもし見つかってしまった場合、必ず追いつかれてしまうからだ。
たとえ電光石火を使ったとしても町まで持たないし、使っている状態でも恐らくヴァンパイヤの方が速い。
ウィヌはゴクッと思いっきり生唾を飲む。
結局、息を潜めてじっくりヴァンパイヤが立ち去るまで待つ事にした。
ヴァンパイヤは辺りをキョロキョロ見て、無表情のままこう言った。
「おかしいな。この辺りから魔法の感じがしたのだが⋯⋯」
今までヴァンパイヤは魔法反応を誤認した事は一度もなかった。というか大体、魔族は戦闘力が高すぎて魔法反応を誤認するなんてことはまずないのだ。
つまり何者かが潜んでいるとヴァンパイヤは考えていた。そこでヴァンパイヤも魔法を使う事にした。
「索敵!」
そう、風属性魔法索敵。先程ウィヌが使っていた魔法である。
このヴァンパイヤも風属性魔法に適性があったようだ。
「ふふっ、さあ姿を現せ!」
案の定、3秒もしないうちに場所が割れてしまった。
「そこにいたか!」
ヴァンパイヤが目にも止まらぬ速さでウィヌのいる場所に迫る。
そのまま腕力だけでウィヌの隠れていた大木をへし折ったのだった。
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