第1話変態スキルを持つ者
焦げ臭い匂いだとウィヌは思った。あたりは瓦礫と炎に包まれている。ウィヌの前を通り抜ける風はムワッとしていて嫌な感じがした。
ウィヌの前にはクマのような大男が立っていた。大男が持つ片手剣には血がべっとりとこびりついている。
少し前まで賑やかだった村は破壊され尽くしていて、立っている人間はウィヌと大男だけだ。
「少年、悲しい時は胸を張れ。悔しい時は上を向け。強く生きるのだぞ」
大男はそう言って姿を消した。
それはウィヌが13歳の時の出来事だった。
チュン、チュン。
そんな雀の鳴き声が外から聞こえた。カーテンを閉めていても明るい。どうやら外は晴れているようだ。
ここはノーム町というある程度規模が大きい町だ。魔族の領地である魔界と接しているため冒険者や軍人が多く、別名戦いの町と言われている。
しかし、またあの夢かと感じるウィヌだった。あれからもう3年も立っているのにまだ夢に出てくる悪夢だ。
「けど、忘れられないよな」
そう、悪夢だと言って忘れることは許されない。魔族には必ず復讐しなければと考えているウィヌだった。
彼はベットから起き上がると、朝食をとって洗面台に向かう。黒目黒髪の冴えない顔はいつも通りだ。そして、いつものように準備をして向かうのだった。
彼の仕事場、冒険者ギルドに。
冒険者ギルドとは町や村の依頼を受けて生活する冒険者が集まる場所で、どの町や村にも必ず1つは存在する。
冒険者達はギルドにある依頼をこなす代わりにその依頼分のお金を受け取って生活している。
冒険者になるには13歳以上である事が条件である。そして冒険者になれば、自分のステータスを見ることが出来る。だから、冒険者として活動しない一般人も冒険者登録は一応している。
ギルドのドアを開けると、そこには1人の美少女がいた。青い髪を肩まで伸ばし、目の色も青い。体はスレンダーであるが、出るとこはしっかり出ている。顔は可愛いというより美人でギルドのむさ苦しい空間と見事にマッチしていない。ギルドに咲く一輪の花だ。
彼女はウィヌの幼馴染のサナだ。
彼女はウィヌを見つけると、声を震わせて途端に尖った口調で話しかけてくる。
「おはよう、ウィヌ」
「おはよう、サナ」
「今日はどういうつもりかしら」
「?」
どうやらウィヌの方は忘れているようだ。昨日、オーク討伐クエストを受けようと約束した事を。
「あっ⋯⋯!」
バキィッ!
どうやら怒ったサナが足でギルドの床を踏み抜いてしまったようだ。床が脆くなっているだけだったが、今のウィヌには恐怖で冷静な考えが出来ていない。
受付嬢達も冒険者達も成り行きを見守っている。誰もサナに近づけない。
サナが呆れたように息を吐く。そして、さも当然のようにこう言った。
「仕方ないわね、今日は私のストレス発散に付き合いなさい」
「えっ⋯⋯マジですか?」
「何よ、嫌なの?」
冷たい視線がウィヌに鋭く突き刺さる。そしてウィヌの背筋がピンと伸びた。
「いや、流石にこの場ではやりにくいと申しますか⋯⋯」
「はあっ?」
「いえ、喜んで引き受けさせていただきます」
ザワザワ、ザワザワ。
周りがどよめき出す。受付嬢達も冒険者達もこれから何が始まるか分かったようだ。目をそらす者やと逆に目を向ける者に毎回別れる。
目を向けてくる者は汚物を見るような目でウィヌを見てくる。彼は少し、顔が赤くなってきた。
「なら最初は⋯⋯お尻叩きからよ」
その一言でウィヌの理性が吹っ飛んだ。
「よっしゃ! 来い!」
それからの事は彼はよく覚えていないそうだ。ただ酷い事をされて喜んでいたことは覚えているようだ。これがドMの冒険者ウィヌである。
「ステータスは上がったの?」
そして、俺をいじめてスッキリしているサナが近づいてくる。気のせいかさっきよりも肌が綺麗に感じる。
「ステータスオープン!」
ウィヌも気になったのかステータスを開く。因みに、普通はステータスは体を鍛えたり、レベルが上がらない限り上昇はしない。そう、特殊なスキルを持っていない限りは。
名前 ウィヌ
種族 人間
レベル21
ステータス
体力 1552
攻撃 1150
防御 1114
速度 1202
魔力 1012
魔法適性
雷、風、水
スキル
ドM
ドMになって攻撃されると快感を得てしまう。精神攻撃にも適用される。攻撃されればされるほどステータスの基本値が上昇し、Mになっていく。新たなスキルや魔法適性も現れる事もある。
因みに、魔法適性は火、水、風、土、雷、氷、闇、光の8属性でどの属性魔法に適性があるかを示したものである。つまりウィヌは雷と風と水の属性魔法を使えるのである。それ以外の魔法はスキルに表示される。スキルはその人間の持つ特殊能力のようなものである。スキルを持つ人間は滅多にいないそうだ。
ウィヌのステータスはレベル21にしてはものすごく高い。それはひとえに彼の持つスキル"ドM"の力である。またレベル21はベテラン冒険者達が到達するような高いレベルであるが、努力家なウィヌはもう到達している。
ウィヌとサナはこの町の同世代の冒険者の中では敵なしと言われている。
「やったぞ、今回は速度が7も上がっている。他のステータスも少しずつだが、成長している」
「やったね」
「しかし、複雑な気分だ。俺は好きでこんな事はやっていない」
「はいはい、いつもいつも喜んでるくせに」
「何か言った?」
「何も言ってないよ」
そう言ってサナは笑う。
周りの人間はやれやれという様子で彼らを見ていた。これがこの町の若手最強の冒険者ウィヌかと。
しかし、まだ誰も知らなかった。これからウィヌが勇者となり、世界を救う事を。
これは変わり者達が魔王を討伐する物語。
こんにちはトニーひろしです。
新連載始まりました。
今回はハイファンタジー作品ではあまり見かけない能力の主人公がいいなと思って、仕上げました。
是非これからも読んでください。