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勇者になるのは程遠き  作者: 蒼薔拓哉
第一章 王国騎士
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第一章 3 『怪しげな男達』

782年8月14日

ロエルとカインの頭はこんがらがっていた。


「い、今なんつった?」


確認の為かカインがロエルに聞き返してくる。

周りの若者もどよめく。

レリスは今なんて言ったのか。

それは簡単なことだ。


「王国の為に死ねって言ったな」


それを聞いた瞬間カインは頭を抱えて意味不明なことを言っている。

現実逃避だ。


「おかしいだろぉぉー!」


「あんまりだぁー!」


などと周りの人が大声で叫んでいる。


「黙れ!なんなら今帰るか?地獄の世界にだけどな」


レリスは剣を引き抜くポーズをとる。

それに怯えてさっきまで騒がしかった若者は静かになった。


「いいか?お前らは剣術の天才か?天才じゃないよな?難しい作戦を完璧にこなせるか?無理だよなぁ?

それでお前達に出来ることはなんだ。

一つしかないだろ!死んで王国のために貢献することだ!!」


ロエルは今のレリスの言葉にイラッときた。ロエルは拳を強く握り、レリスの方へ歩き始めた。


「お、おいロエルやめろ!帰ってこい!」


カインが必死に声を掛けてくる。

だが、ロエルは止まらない。


「おい、てめぇ。さっきから舐めたことばっかり言ってるじゃないか!」


ロエルはレリスに近づく。


「んん?お前誰だよ?」


「俺はロエル・ヴァンガードだ。ここに招集された単なる村人だ。」


レイスは今のを聞き笑い出す。


「村人風情がなんのようだ。この私に反抗するのか?」


「だから·····そういう舐めた口を開くんじゃねぇよ!!」


ロエルは怒りのあまり大声を出してしまう。


「あぁん?てめぇー私に殺されたいのか?」


レリスは剣を抜くポーズではなく本当に剣を抜く。


「私のこの剣でお前を切り刻んでやる。この私に反抗したことを後悔させてやるよ」


ロエルは持っている剣を構える。


「どうかな。お前もこの俺の剣で切り刻んでやるよ」


レリスはニヤっと笑った。


「私以上に強いと思わないのだが····まあいい。勝負だ」


ロエルとレリスは剣を構えたまま動かない。

風が吹く。いい風だ。この暑い日を忘れさせてくれるような風。

こんな事を考えて少し油断している時だった。

レリスの姿は目の前からいなくなっていた。


「この私が相手なのに油断し過ぎだよ」


冷酷な声が響いた。

やばい。死ぬ。動いたら死ぬ。

レリスの剣が直ぐそこだ。

かなりやばい状況だ。



だが、ロエルは諦めない。

死んではならないのだ。

この状況を打開するための策を必死に考える。


『考えろ、俺!何かないか、何か!』


レリスの剣が動く。

早い。ロエルも反応し何とか逃げる。


「う······あ。」


ロエルは腹部を強く打った。

それでも立ち上がる。

負けたくない。負けてたまるか。


体がよろけた。

レリスの剣が動く。

────やばい。死ぬ。


「お前、想像以上にカスだったな」


ロエルが力無く倒れた。



─────────────────────


場面は先程、若者達を見送ったエルン村である。

話しているのはミラとアルラだ。


「行ってしまいましたね」


ミラの表情はとても悲しそうだ。


「ええ、そうね。大丈夫よ、ミラちゃんあの子ならきっと元気な姿で帰ってくるはずよ。だから大丈夫よ」


ミラを勇気ずけるアルラ。


「そうですよね!きっとロエルなら(戦争なんてへっちゃらだったしー)とか言って帰ってきますよね」


ミラがロエル声を真似をして話す。

そうだ、ロエルならきっとそんな事を言って帰ってくるに違いない。

いや、そうであってほしい。

これは願望だ。


「ロエル········」


急に心配になってきた。

ロエルが今どうなっているのか気になってきた。


「ミラちゃん!大丈夫だって、ロエルはきっと帰ってきます。私の子よ?だから大丈夫」


この言葉を聞きミラは泣き崩れる。

それをアルラが受け止め、ミラはアルラの腕の中で泣く。


「うん、うん、大丈夫!大丈夫よ」


ミラはしばらく泣いた。




───────────────────────


シャワーの音が聞こえる。

このシャワーは空気中にある無の結晶(

魔法を使う為に必要なもの)を水の結晶に変え、水を作る。それを火の結晶を火に変えた物で、温めるというものである。


シャワーを浴びるのはミラだ。

その体は非常に美しく綺麗だ。


生暖かい水はミラの体に当たり落ちていく。


「ふぅ·····」


髪の毛を肩に掛けてお風呂から出る。


「あーいいシャワーだった」


鼠色の乾いた布で体をふくいてタンスの上に置いてある服をとり着る。


廊下に出たら暑い空気がムンムンと広がっていた。


「暑い······」


「なんで私の家はこんなに暑いの·····ロエルの家いいなぁー」


ロエル家は魔法で暑い空気が涼しい空気に変わるのだ。

マジックアイテムでも冷気を出す物があるが庶民には高すぎて買えない。


「おねぇちゃーん、シャワー終わったぁー?」


無邪気な妹が廊下を走ってミラの腕の中に飛び込んでくる。


「うふふ···あはは···」


妹の体をくすぐる。

「やめてー」と言っているがとても笑顔で喜んでいる。

妹───メラ・ルージュは10歳の幼女だ。

ミラと遊ぶのが大好きで今も上目遣いでミラを眺めている。


「おねぇちゃん、げんきだしてぇー?」


妹にも元気ずけられるレベルだ。

ミラの今の顔はどんなものだっただろうか。


「うん、大丈夫だよ、メラ。私は元気よ」


妹に心配かけさせないためにミラは強がる。

今は午後7時だ。

まだ、戦争は始まっていないと思うが、ロエルは今何をしているだろうか?

流石に死んでないよね?と心の中で思う。

まだ、戦争は始まってないから大丈夫と自分の心に言い聞かせる。


「よかったぁー、おねぇちゃんげんきでー」


ロエルがエルン村を出たのが、午前12時頃だ。

それから7時間程経過した。

もうマルセインにはついているだろう。

馬で最高速度で飛ばせば1~2時間程でつく。


マルセインには1回だけ行ったことがある。

その時、に買ったのが暖かいお湯が出せるマジックアイテムだ。

結構高かったのを覚えている。


メラを抱き上げリビングに向かう。

そこにはソファーに座るミラの母と父がいた。


「あら、ミラ、シャワー終わったのね」


ミラの母───ナーニャ・ルージュが話しかけてくる。

銀色の髪の毛はミラと同じだ。


「あなた、次入ってきて」


ミラの父───オッセル・ルージュがナーニャの顔を見る。


「俺、ナーニャと一緒に入りたいなぁー」


いい歳して甘えるオッセルを見てナーニャが呆れた顔をする。


「あの部屋は狭いの。だから1人1人入らないといけないし、それにメラがまだ入っていないから1人で入れるわけには行かないでしょ?」


正論を言われ下を向くオッセル。


「3人で!3人で入ろう!それがいい」


「だからあなた·····部屋が狭いから入れないでしょ。」


「メラは小さいから大丈夫だよ!」


オッセルのしつこさにまたも呆れるナーニャ。


「わかりました。直ぐに準備して」


「はい!直ぐに準備中しますッ!」


急いで着替えを持ち浴室に行くオッセル、それを追うようにナーニャとメラが着いていく。


「お父さんたら子供っぽいなぁー」


これはルージュ家では日常茶飯事だ。


「ふぅ········あーーー疲れたー」


今日はいつも以上に疲れた気がする。


「ロエル大丈夫かなぁ·······」


何回も心配してしまう。


「あ!アルラさんに貸してもらった本を読もうかな!」


その本は無の結晶を属性のついた結晶を変えるためのやり方が書かれており、ミラは無の結晶を水の結晶に変えたい。


自分の属性というものがある。

ミラは水属性なので、無の結晶を水の結晶に変えれば治癒魔法が使えるのだ。


勿論、魔法を唱えるにもコツや覚えることが沢山あるのだが·····


ミラは水の結晶のことが書いてあるページを探す。


「えーと、なになに、無の結晶を水の結晶に変えるためには、まず集中力を高めます。そして水を意識するのです。そして、その意識した水を外に出すのです。」


ミラは書いてあることを朗読した。

書いてあることは簡単だかこれが難しいのだ。


「うーーん、これどうやってやるんだろう?」


「1回やってみるか」


ミラは集中力を高めて水を意識する。

そして、その意識した水を外に出す!


「あーやっぱり何も起こらない」


やはり出来ない。

これが何度やっても出来ないのだ。


「とりあえずもう一度読み直そう。うん、それがいい」


ミラは本を黙読する。


「あ!初心者は正座してやるのがいいって書いてある!」


絨毯の上に正座で座りもう一度、無の結晶を水の結晶に変えようとしてみる。


集中力を高めつつ水を思い浮かべる。

集中、集中、集中、集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中


そして、意識した水を一気に外に出す!


「は!あ、これは何?あ!も、もしかして成功した?え、本当に!嬉しい!」


自分で生成した結晶は自分にだけ見えると本に書いてある。

まさしくこれが水の結晶だろう。


「やったーーー!お父さんとお母さんに報告しに行こう!」


無邪気に喜ぶミラ、そして走って浴室に向かう。


ノックもしないで扉を開ける。


「え、」


中を見るとオッセルとナーニャの口が重なり合っていた。


「あ」


3人が同じ言葉を言う。


「何も見てません!私は何も!」


そう言いミラは扉を閉める。


「い、今見てはいけないものを見てしまった?」


「いや、忘れよう!忘れて気楽に生きよう!」


そうだ、忘れればいいのだ。父と母がリビングに来ても知らん顔すればいいのだ。


「瞑想しよう」


再び絨毯の上に正座で座り瞑想する。

そして目を閉じる。


集中力を高め、水を意識し、それを外に出す。


「うぉぉぉぉお!はーーー!!」


よし!水の結晶が見える!成功だ。


「何もしてるの?ミラ」


そこに立っていたのは先程浴室でキスをしていたオッセルとナーニャだった。


「え、あ、あのこれはその結晶を作り出す練習をしてその別に気が狂ったとかじゃないです!」


必死に説明するがナーニャは「へぇー」などと言っているが信じている様子とは思えない。


『最悪だぁー!見られたくない一面を見られてしまった。』


しかも大きな声を出しているところをだ。


「わ、私勉強してくる!」


本を持ち自分の部屋に逃げるミラ、それを目で追う両親。


「ミラ少し元気になったのね」


「ああ、そうだな」


「私はあそこまで元気のないミラは初めて見ましたよ。」


「それほどミラにとってロエル君は大切な人だってわけだな」


仲良く話すオッセルとナーニャ、それとメラはもうベットの中だ。


「そうね、ロエル君、死なないといいね」


寂しいそうに話すナーニャ、右手を顎に添え考えるポーズを作るオッセル。


「········?どうしたの?あなた」


「いや、ごめん、ちょっと気がかりなことがあってな、王国と帝国との戦争は年々激しくなっているだろ?だから大丈夫かなーって思ってな」


オッセルは考え込み難しい顔をしている。


「そうね·······うん!だけど、きっと大丈夫よ!」


根拠は無いが大丈夫と言い張るナーニャ、オッセルもそれに同意し頷く。


「そうだな」


ナーニャが大きなあくびをする。


「あーじゃあ今日は寝るか!」


オッセルとナーニャは立ち上がり寝室に向かう。

その時、玄関の方から音が聞こえた。


「コン、コン」


ノックの音が聞こえる。


「ん?こんな夜遅くに誰だ?」


ナーニャに質問するオッセル。


「誰でしょう?私出ましょうか?」


首を30度程傾けたナーニャが問いかけてくる。


「いいや、俺が出よう」


歩き出すオッセル、ナーニャはそれを見つめる。

ここから玄関までは7m程だ。

刻刻と距離は縮まって行く。

途中で、床から(ミシィ)と聞こえるがオッセルは止まらない。



残り6m。

オッセルはゆっくりと歩いている。



残り5m。

オッセルは息を飲む。



残り4m。

もう一度ノックが部屋の中に響く。



残り3m。

ナーニャからの心配そうな視線が届く。



残り2m。

オッセルは後ろを振り向きたいと心の隅で思うが、振り向かない。



残り1m。

扉は目の前だ。



そして、扉の取っ手を握り回す。











そこには、怪しげな黒いフードを被った男性が複数人立っていた。






















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