第一章 20 『怒り』
「さーてと。あの関係者らしき2人を捕まえるとするか」
フィリップがそう言うと関係者にバレないように静かに近寄って行く。ゆっくりとゆっくりとバレずに。
もし、気づかれた場合は捕獲できる可能性が低くなるだろう。
「ふぅ──」
辺りに緊張という文字が、頭の中をよぎる。重要な宝を破壊したのだ。目的は絶対に成功させなければならないだろう。逆に失敗した時は─────考えたくないものだ。
「逃げてくれるなよ?ん?あの2人何やら様子が変だ。喧嘩しているのか?」
関係者らしき人物は言い合いをしているようだ。子犬と子犬の吠え合いの様なその状況からフィリップらは緊張という文字が頭から掻き消えていた。
1人は青色の髪の色をした長身の男性。もう1人は赤色の髪の色をした男性だ。
そう───ロエルとカインだ。関係者ではなく仲間が釣れてしまった。
「だから!行くべきじゃないって言っただろ!これはやばいやつだって!」
どうやら爆破の音が、聞こえた方に行くか行かないかで、喧嘩していたようだ。無理な戦闘をしたくないロエルは、勿論爆破の根源に行かないと言った。しかし、逆に戦闘がしたいカインは、なんとしてでも行くと言い始めた。
行くメリットがあまりないこの場所に来た理由は────カインの駄々こねが原因だ。
「いいや!俺ぇの勘が言ってんだ!間違いねぇ!」
カインは頑固だ。一度思ったり、考えたりすると自分の意見が通るまで駄々をこねる。誰もが愚行と思うことでも自分が一番正しいと思い意見を通そうとする。
「はぁー?俺の方が正しいだろ!バカ!」
「バカっていうなバカ!」
しょうもない喧嘩している両者を見てフィリップは呆れた顔をしている。喧嘩に夢中になっている二人はフィリップが近づいていることに気づかなかった。
「俺からすると、2人とも馬鹿だね」
ロエルとカインは不意をつかれた顔をした。それもそうだ。爆破の根源の場所にフィリップがいるとは思はないだろう。ロエルはここにいるのは、敵だと思っていたからだ。だとしたら────何か策があるのだろうか。
「君たち。まず喧嘩は辞めてくれないか。君たちがうるさくすると敵に勘づかれてしまう」
やはりこれは何かの作戦中なのだろう。しかし、この爆破はフィリップの指示でやったのだろうか。暗くてパッと見、冴えない神殿のような感じがするが、よく見ると凄く繊細で素晴らしい彫刻だ。歴史のある建物だ。
「すみません、軽率な行為でした」
ロエルが誤って反省しているようだが、カインはロエルが誤っている理由がわからないようだった。
そんなカインは放ってほいて、フィリップは作戦の内容をロエルに話し始めた。カインも聞いているが、理解しているかどうかは不明だ。
「つまり、ここで敵を待てばいいってことですか?」
黄金に満ちた煌びやかな髪を縦に揺らし頷いた。その髪はとても美しく、暗く暗黒な世界でも、一点の光として、ここに君臨しているようだ。まるで天から降りてきた神のように。その姿はただただ美しい。
「なあ、ロエル。この岩陰に隠れた方がいいぜ?」
大きな岩陰に隠れているシペラスが、自分の横に空いているスペースを指さして、話しかけてきた。
シペラスの優しさであろう。わざわざ奥に詰めて、ロエルのスペースをなるべく多く確保しようとしている。
「あ、ありがとな。んじゃ、お邪魔させていただきます」
地面がゴツゴツしているのは爆破の影響だ。大小色々な石も転がっている。ただまん丸とした石はない。
隣に座ったもののシペラスと話すことがなかったロエルは少し気まづかった。話題を必死に探している。
「敵、来るといいな」
必死に考えてこれだ。敵に気づかれないためにも喋らない方がいいのだが、無言では気まづすぎる。
シペラスは鬼人となった時のクロノスのあの軽蔑した目を忘れてはいないだろう。物凄くショックだったはずだ。そのせいか口数も減ってしまった。
が、ここで会話を膨らませなければいつ膨らますのか。ロエルは胸をぽんぽんと叩く。
そして、息を吐く。
「リンゴとバナナどっちが好き?」
「ロエル、どうした急に?」
「世間話でもしようかなーって」
「今することではないだろう?今は作戦実行中だ」
「ごめん…」
少し心が折れた。シペラスが冷たい。
「シペラス冷たいな」
「冷たい?俺が?なぜ?」
なぜと言われても……。冷たいものは冷たいのだ。
「いや、冷たいぜ、シペラス」
「今は関係ないだろ」
この言葉に少しだけシペラスの怒りを感じた。あきらかに鬼の姿になったことを気にしている。
「関係ある。大いにだ。今俺達は集団行動を───」
この言葉を言っている途中にシペラスは罵声をあげた。
「関係ないって言ってんだろ!」
迷惑をかけないように静かな声で喋っていたロエルだが、このシペラスの罵声でフィリップらもロエル達が、喋っていることに気がついたようでこちらを見ている。
「シペラス君…?」
フィリップはあきらかに様子がおかしいシペラスを今度は見ていた。
皮膚が赤い。頭に角。そして───
「俺は鬼人だ。俺に関わると皆不幸になる」
「シペラス…」
「だから、関わらないでくれよ」
「……」
「俺は喋らずここにいるだけでいいんだよ」
「お願いだ。喋りかけないでくれ」
「ごめん…」
ここまでシペラスが思い詰めていたなんて想像もできなかったロエルは、自分に苛立ちを感じる。
しかし、さらに気まづい状況を作ってしまった。場を良くしようとした途端これだ。
「怒ってるか?」
「……」
「怒ってるのか?」
「何度も言わせるな。喋らないでくれ」
誰が見てもわかる。怒っている。
「気に触るようなことを言ったのならごめん」
「ロエルは別に気に触るようなことは言ってねぇーよ」
マルセインの宿にいた時のシペラスとは人が違うようだ。まるで別人。
「そうか!なら良かった…」
嘘かもしれないが、気に触るようなことは言っていないと知って安堵した。
『ロエルー。本当にもう喋りかけない方がいいよー?』
ん?誰だ?誰かにアドバイスされているような気がする。まさか、幻聴カイン発動か。
『幻聴カインだなんて酷いなー。僕はロエルの心の中で喋っているんだよ』
ロコは心の中でも喋れるみたいだ。このような魔法があるとは聞いたことがある。
『魔法か?実際に体験したのは初めてだ』
『うん。そうだよ。珍しい魔法だよ』
『そうなのか』
『うん。あ、話戻すけど彼、シペラス君だっけ?本当に喋って欲しくなさそうだからやめてね』
『喋っても効果ない?仲が良くなったりとか』
シペラスとは仲良くしたい。だから友情を作りたい。
『今は、やめといたほうがいいよ』
『そうなのか…』
『うん、このまま行くとロエルが殺されちゃうから』
『ああ、そういうことね。……え?』
つまりこのままいけばシペラスは本当に怒り、怒りのあまりロエルを殺してしまうということか。
『僕もご飯の供給者がいなくなるのは嫌だからね』
『わかりました…静かにします』
『よろしい!じゃあ、しばらく寝るねー』
ロコは物の中に入れるようで、その中に魔法の家を作れるようだ。今は御守りでもある綺麗な石の中にロコが入っている。
落としたとしても中にはなんの衝撃もないようだ。しかし、石が割れたり粉々になったりすると影響はあるようで、しないようにと言われたのを覚えている。
「俺、どうしたらいいんだろう」
シペラスに聞こえないように小さな声で呟いた。




