第一章 16 『無数の赭』
「コダマ平野にこんな所が………」
ロエルはコダマ平野に来たのは初めてだが、こんなアンデットが発生する場所に隠し地下通路があるなんて想像もしていなかった。道は狭く、大人が1人ギリギリに通れるぐらいである。
「こわっ」
しばらく狭い階段を降りていくと何だか広いスペースに出た地下にこんな所誰が作ったのか。まだ薔薇は見つからない。
「フィリップさん。ここに文字が書いてありますよ?」
ロエルが壁に文字を見つけたみたいだ。何やらそこには文字が書かれている見たいだが、王国の文字とは違うみたいで、読めない。
「ロエル、私に任せろ。《ワード・マジック》」
《ワード・マジック》───『碧属性魔法』クロノスが魔法をかけると読めなかった文字がみるみる読めるようになっていく。ただこの魔法は短時間で文字だけにしか使えない。
「読めるな!この地に現れし、5人の御方。御方は秘宝と呼ばれし、この地の宝を守っている。御方を、ん、んん?読めなくなったぞ!クロノス!」
《ワード・マジック》はレベルの低い魔法なので、発動時間が短いのだ。この文全てを読み終えるには沢山の時間を要するだろう。
「これは……五聖天のことを書いたのか?」
クロノスがそう言うとさらに《ワード・マジック》をかけて文字を読み始めた。数回同じ魔法をかけ、クロノスは大きく頷いた。
「間違いない。五聖天だ」
五聖天とはロエルが読んだ冒頭の文の通り秘宝を守る神々のことである。生きものが、この世界に誕生する前にこの世界に君臨し、秘宝を守り続けた。
「五聖天か……ならばここは…?」
だとするとここは帝国が最近作り出したものではないだろう。この古文から相当昔に作られたことが推測できるのだ。
「フィリップさん、ここは何なんですか?」
「ここは昔国があっただよ。ただ、戦争でね滅んじゃったんだ。まあ、気にすることないさ」
フィリップはそう言うと前に進むよう指示した。大広間の奥に行くと扉があり、その扉を開けようとしたその時だった。
「シンニュウシャハッケン。タダチニセンメツセヨ。クリカエス、シンニュウシャハッケン。タダチニセンメツセヨ」
ロボットのような喋り方の声が大広間中に響いた。敵に見つかったことは間違いない。
「これはやばいね。さて、みな別行動になったとしても慌てずに生き延びるんだよ?」
そうフィリップが言った直後、目の前に鎧を着た人型の騎士が立っていた。1人ではなく多数だ。何なら目が赤く光っていて不気味だ。
「逃げろ!」
鎧達はロエル達が逃げると同時に動き出しロエル達を追い始めた。鎧を着ているせいかあまり早くない。
「はぁはぁはぁはぁ……」
地下は迷路みたいになっており、油断すると大広間への戻り方を忘れてしまいそうだ。
「まだついてくるか」
曲がり角を何回か曲がったが、ついてくるようだ。しかし、バラバラに逃げたせいか数はかなり減っている。
「やっとまいたか」
曲がり角を沢山の曲がった成果が出たみたいだ。鎧達もあまりこの地下に詳しくないようだ。
「俺1人か?うわっ!カインいるじゃないか!」
暗くてカインがついてきていると分からなかったロエルはカインを幽霊扱いにした。カインも逃げるのに必死だったのか、かなり疲労している。
「ロエル……はぁはぁ……ここはどこだ?」
ロエルは走るのに夢中になっていたせいで、大広間へ帰る道を忘れてしまった。だとするとフィリップ達と合流するのは一苦労だろう。
「これは…まずいな」
ロエルもカインに言われてからようやく状況が掴めたようで自分が迷子になったことを理解したようだ。
「ロエルまずフィリップさんと会うことを優先するか?」
経験の浅いロエル達が勝手に行動するより経験値の高いフィリップに頼った方が得策だろう。だが────あの鎧達にでくわしたら厄介だろう。
「いや、下手に動いてあの鎧達にでくわすより俺達で行動した方がいいだろう」
蜘蛛の巣があり、薄汚れたこの空間では視界が悪く敵を早く見つけることが出来ない。
「鎧以外にも敵がいる可能性があるからな。カイン気をつけるぞ」
カインも分かっているだろう。先程から周りを注意深く警戒している。このモードのカインは集中力が高い。
「ロエル、さっきから鎧が擦れる音がするぜ。俺ぇ達は行き止まりにいるいじょう戦うしかないな」
ロエルはここに逃げた時失敗した、そう思った。だが、運が良く鎧兵はロエル達を追って、ここまで来なかった。
「くっそ…取り敢えずカイン!隠れるぞ!」
天井から落ちたものなのか、大きな岩にロエルとカインは隠れた。2人が丁度隠れられる大きさの岩だ。
「カシャリ、カシャリ、カシャリ」
鎧が擦れる音が響く。まだまだ遠いが、ロエルにも聞こえるほど大きくなっている。確実にロエル達の方に向かってきているのだ。
「見つかるぞ、これ」
鎧兵が馬鹿だったとしても岩の裏ぐらい見るだろう。そうなったら鎧兵に殺されてしまう。
「しょ、勝算はあるのか?ロエル」
ロエルが剣を抜いたことで悟ったのだろう。鎧兵と戦わなければこの状況を打破できないことを。
「勝算か…そんなの相手の数と俺らの頑張り次第だぜ」
そうだ。ここで一番重要になってくるのは敵の数だ。10体も居れば間違いなくロエルとカインは負けるだろう。数的優位と言うものだ。だが、数が少なければ─────可能性はあるかもしれない。
「そうだよな…魔法を使えるクロノスがいないからな。俺ぇ達で頑張らないとな」
鎧が擦れる音はさっきよりも大きくなっている。鎧兵がロエル達の方に近ずいてきている証拠だ。
「確実に俺達の方に来てやがるな。しょうがないな。カイン!戦うぞ!!!」
ロエルは自分とカインに気合を入れる。カインにも迷惑をかけているロエルはまた迷惑をかける訳には行かないのだ。
「ロエル…俺が鎧兵の気を引く。ロエルは後から鎧兵をぶった斬ってくれ!」
この作戦ではカインがどれほど時間を稼げるかが勝負になる。それと相手の数が多かったら即アウトだ。
「ああ、ありがとな」
すぐそこまで鎧兵は来ている。暗くて相手の数が分からないが、それでもやるしかない。生きるためには。
「まだだ、まだだぞ」
「カシャリ、カシャリ」
鎧兵とロエル達の距離は僅か10m。このような緊縛した状況は、ロエルは昔から好きではない。慣れていないからなのか。
「ロエル、後でな」
カインの後ろ姿が雄叫びと共に暗闇に消え去っていった。
帝国の品は品質が良い。