第一章 12 『可憐なる薔薇1』
34班から20班の頑張りの成果か帝国軍は見事とに中央に集められていた。王国軍にとっては全て作戦通りに進んでいる。
「作戦通りですね!隊長!!」
この女の声の主の名前はフェータス・ロール第21班の班員だ。髪はツインテールで身長が150cm程の女性である。
「その通りだな」
この男の名は───ゴータス・アモッレ。21班の隊長であり、今回の作戦の右翼側の最高責任者でもある男だ。
「報酬とかたくさん貰えるといいですね!!私は温泉旅行とか期待しちゃうますよ?!」
ウキウキしながら話すフェータスだが、ゴータスはいたって冷静に対応した。
「夢を見すぎだ。報酬に温泉旅行はない」
確かに温泉旅行と言う報酬は王国にはない。王国の豪華な報酬といえば、金貨だろう。王国では金貨、銀貨、銅貨がある。銅貨1000枚分が銀貨1枚の価値に相当する。銀貨1000枚分が金貨1枚だ。いい働きをすれば、いいものが貰えるということだ。
「そうなんですかッ!!」
驚いた表情を見せるフェータスだが、急に異変を感じたのかさっきまでとは違い真剣な眼差しでゴータスを見ていた。
「─────どうした」
「何か強い気配を……今までの敵とは格別の強さを持つ者です」
フェータスは1km圏内にいる人の強さを計測することが出来るスキルを持っている。
「どのくらいの強さだ?」
フェータスのスキルはLv.1からLv.10まである。Lv.1が表示されたのならば、それは村人かよっぽど弱い兵士だろう。Lv.5が表示されたのならば、そこそこの実力者で戦争の経験者であろう。滅多にいないが、Lv.10が表示されたのならば────それは神の領域に足を踏み入れた者だ。
「れ……じゅ……え……Lv.10ですッ!!!」
フェータスの言葉を聞き目を見開くゴータス。だが、ゴータスにはその人物心当たりがある。その人物は──────
「フェス・ドナーだ。帝国のフェス・ドナーだ!!」
ゴータスが口にした人物それは帝国一の実力者フェス・ドナーだ。剣を豪快に振るうその姿はまさに悪魔そのものだと言われている。
「ここを突破されては困る。ここまで奴が来たら覚悟はしておけよ?」
ゴータスの前の方には他の班の隊長もいるが高確率でここに来る。ゴータスもわざと負ける気はさらさら無いが、フェスに勝てる確率がある人物────ウルズベルトが来るまで時間を稼がなければならない。
「隊長……フェス・ドナーらしき人物はこちらに向かってきています」
ゴータスは最後の希望でフェス・ドナーらしき人物がこちらに向かってこないことを祈っていたが、その願いは儚く崩れ落ちた。あとは本当に時間を稼ぐだけだ。
「フェータス。今のうちに部下に言っておけ………覚悟を決めろと」
ゴータス自身もまだ覚悟を決めきれていない。こんなことが起こるとは思っていなかったのだ。まさかフェス・ドナーらしき人物が正面ではなくサイドに来るとは。
「隊長……私は…まだ…………う……死にたくないです」
フェータスは喋りながら目から涙がこぼれ落ちそうになる。彼女は元村人だ。ゴータスが彼女の才能を見つけ王国騎士に導いた。フェータスは長年の間、両親にあってない。思春期の頃は喧嘩ばかりしていたフェータスだが、親より先に死ぬという親不孝なことはしたくない。
「大丈夫。安心するんだ。お前を死なせはしない」
強引に王国騎士に引き込んだ訳では無いが、部下として預かった身としフェータスを殺されてはならない。最悪の場合ここから逃がすことも念頭に置いている。
「でも隊長!私は最後まで戦いますよ?!間違ってもここから私だけ逃がすなんてこと考えないでくださいね?」
ゴータスはフェータスを逃がすつもりだったが、彼女はその気はないらしい。フェータスの性格から自分の意見を変えることはしないだろう。だとすると──────
「……………だろうな」
ゴータスがふと自分の足元を見る。そこには薔薇が咲いていた。可愛らしい薔薇は見たもの全ての心を癒す力を持っているみたいだ。
「なぜこんな所に薔薇が??」
この可愛らしい薔薇は不可思議に一輪だけぽつんと咲いており、何か様子がおかしい。そう、誰かが故意に埋めたように。
「おかしいです……隊長!その薔薇!!」
フェータスも感じ取ったようでゴータスも同意見だ。誰かの魔法あるいはアイテムだ。可憐なる薔薇の裏には何があるのか。
「みな!ここから離れるのだ。この薔薇は何かおかしい」
ゴータスは班員に注意喚起をし、薔薇から離れるように指示した。この勘が当たっているとしたら──────
「何か来るぞ……」
嫌な予感は的中し、薔薇からは魔法陣が展開されていた。これは魔法を発動しようとしているのだ。今この薔薇から何かが起ころうとしている。
「なんだと……?」
薔薇から魔法は発動され、予想打にしないことが起きるのであった。