第一章 11 『王国VS帝国3』
「アレス隊長!現在第50班から第35班が帝国軍と交戦中であります!34班から20班は予定通り帝国軍の両サイドに周り待機しています。19班から4班もこれから他の班に加勢するとのこと!我々1班もそろそろ予定の時間なので準備をお願いします!」
アレスはご苦労と言うと報告に来た部下は一礼して自分の持ち場に戻った。
「作戦が上手くいっているとしたらそろそろ敵陣が中央に集まり始めるということか」
王国の作戦は帝国軍を50班から35班が正面で止め、34班から20班が両サイドから中央に集めて、19班から4班がその加勢する。3班から1班は中央に集めた敵陣を叩くと言うことだ。
「ヴィーナス。ウルズベルト戦士長に伝令を。今の内容だ」
ヴィーナスは首を縦に振り、了解の意を示すとウルズベルトの方へ向かった。
「さてと、戦況を見ようかな?」
アレスの魔法は探知魔法に特化している。なので、アレスは探知魔法の詠唱時間を必要としない。これは、魔法を極めた者のみに許される究極の技である。
「ミラー・ワールド」
この魔法は『橙属性魔法』である。鏡の様に世界を映し出すことが出来る。ただ、ワールドと言う名前が、入っているが世界を見渡せる訳では無い。コダマ平野より少し小さい範囲が見渡せることが出来る。
デメリットはまだあり、建物の中は見ることが出来ない。あとは詳しく見れば見るほどMPの消費量が増えると言うことぐらいだ。
「うーん、やや王国軍がおしているか?それにしても……まだ帝国は召喚魔法を使ってこないか。あれが来る前に帝国軍中央に集めたいな」
召喚魔法とはその名の通り、モンスターを召喚することが出来る。魔法の階位によって強さも変わってくるが、ドラゴン、天使を初めとする強力なモンスターを出すことが出来る。モンスターは殺されない限り消滅しないと言うのも大きな特徴だ。
「ホワイト・ドラゴンやアモロッソ・エンジェルなどが召喚されたら厄介だ」
ホワイト・ドラゴン────『光属性魔法』以上の階位の魔法じゃないとダメージを与えることが出来ない。打撃技は結構効くものの『光属性魔法』以上を使えないマジックキャスターには天敵と言っても過言ではない。HPも多くタフなので召喚されたら強敵になるだろう。
アモロッソ・エンジェル────アモロッソとはスペイン語で可愛いという意味で直訳すると可愛い天使だ。一見すると「可愛いだけで全然強そうではない」と言う意見が出るだろう。だが、アモロッソ・エンジェルはその美貌から相手を魅了する。
魅了された者は、アモロッソ・エンジェルの命令をなんでも実行する。例えば、好きな子に告白しろと言う命令でも文句も言わず実行する。アモロッソ・エンジェル自体は、魔法は使えないが魅了された者が、強者ほど強敵になる。
「まあ、詠唱に時間がかかるしな。詠唱していたら僕が止めに入るとするか」
魔法の詠唱は防御率が下がる。しかも一定ダメージ以上を与えると詠唱を中止することが出来る。そのためマジックキャスターはあまり前線に行かない。守られつつ攻撃した方が効率が良いからだ。魔法の詠唱中はその事に集中しなければいけないので、守られるしかないのだ。
詠唱させるのはあまり問題では無い。ただ、その護衛の強さが問題だ。弱ければ護衛を倒し、詠唱を止めるだけだが、強ければ足止めされ魔法を発動されてしまう。そうなれば、戦況を変えられてしまうかもしれない。
「僕の剣が通じればいいのだが……フェス・ドナーなどとは会いたくないな。あいつは強い」
フェス・ドナーとは帝国軍の騎士である。帝国で一番強く実力者で、近隣の国でも名を知られている。一人でドワーフの国を滅ぼしたと言う噂もある。
「アレス隊長。ウルズベルト戦士長に報告に致しました。ウルズベルト戦士長から油断するなとの事です」
リレット・ヴィーナスは第1班の副隊長である。他の班の隊長よりも実力は上で次期隊長候補でもある人物だ。アレスから絶大な信頼を得ており、部下からの人望もあつい。
「全く、ウルズベルト戦士長は心配症だなぁ。僕は最初っから油断なんてしてないよ」
アレスは25歳と言う若さで王国騎士兵団第1班の隊長を任されているのだ。実力もあり、リーダーシップが取れないと隊長は務まらない。だが、アレスは天才肌で昔から何でもこなしていた。この通り、隊長と言う大役もこなしている。
そんな彼だからこそウルズベルトに一目置かれ心配されているのだ。どんな実力者も油断すれば、負けることがある。そのようなことを起こさせないための最終確認みたいなものだ。
「ヴィーナス。危険になったらすぐに僕にメッセージを飛ばせ。その時はお前の元にすぐに行くからな」
メッセージとは『闇属性魔法』の魔法だ。距離が離れていても会話することができ、使い勝手がとても良い。相手の声が脳内に直接声が届くので近くにいる人には、声が聞こえない。
「分かりました。アレス隊長も危険になったら私を呼んでくださいね?」
アレスがニコッと笑いヴィーナスの方を向く。二人は目が合うと少し微笑んだ。その光景は他の人から見ると恋人みたいな感じだが、アレスとヴィーナスは付き合ってはいない。
「さあ、アレス隊長。ここは戦場ですよ??もう少ししっかりとして下さい!」
ヴィーナスは少しアレスを馬鹿にした口調で言うとアレスは、反論しようとするが辞めた。反論するとまたこのような会話になるからだ。
「そうだな。そろそろ僕達も予定の時間だからな」
アレスは近くにいる馬に乗ると遠くの方を見る。そこは、王国軍と帝国軍が戦っている場所だ。そこで多くの人が痛い思いをし、死んでいく。家族に別れも言えず死んでいくのだ。そのような仲間の敵討ちをアレスは取らなければならない。いつも戦争では、そのようなことばかりを考えている。
『ロエル君。無事でいてくれよ』
アレスは心の声でロエルの無事を祈った。