~ 山 の トンネル ~
青白い顔の お父さんは …
「此レカラ 家族ヲ連レテ … 天山温泉ヘ向カウ … 天山温泉ニ入ル手前ニ トンネルガ アル … ソコデ … 家族一緒ニ … 事故デ済ム … 事故デ … 1億ナンテ … トテモ … 払エナイ … 払エナ イ … 大橋ガ 憎イ ! アイツガ 憎イッ! … 騙サレタ 俺ガ 馬鹿ナノカ … 払エナイ … モウ …払エネェヨ … 疲 レ タ … 疲 レ タ … 」
青白い顔の お父さんは …
うな垂れながら 卵形の石に向かい
泣いているみたいに そう言っていた …
卵形の石が ボワッ ! と黄色く光り …
黄色い煙が 石からモワモワと昇った …
「うわ っ!う わ ぁ あ ぁ!!」
僕は 怖くなり車まで走った …
「翼 ~ !行くわよ~ って … 翼 どうしたの ? そんな 青い顔して … 」
お母さん は 聞いたけれど …
僕は ブルブルと横に首を振って 車に乗り込んだ …
カーナビが 直って …
車は 天山温泉へ向かった …
山に入り 曲がりくねった道を 車は登って行った…
山を登りきったのか …
眺めの良い パーキングに入り
お父さんは車を止めた …
「良しっ!少し降りて 景色でも見て … 家族で写真を写そう!」
お父さん は ニコニコと笑いながら 僕と お母さんに そう言った …
高い山から 見下ろす …
辺り一面に拡がる 木々達の緑 や 鳥達の鳴き声 …
お父さん は 両腕を 空に向け伸ばし 背伸びをした …
お母さん は ニコニコ笑って
お父さんの背中からはみ出した シャツを ズボンの中に押し込んだ …
僕 は 嬉しかった …
お婆ちゃんの 家に行く前は …
お父さんは 直ぐに お母さんを 怒って …
お母さん は 泣いていたし …
僕 も 悲しかったから …
僕 死ぬのかな …
それでも 僕 …
こんなふうに 家族が笑っているなら …
良 い よ …
お父さん と 僕 …
同 じ だ ね …
お父さんが 車のトランクから 三脚を出してきて
見晴らしの良い 山の景色に背を向けて …
「はいっ! バ タ ー っ!」
お父さんは そう言って カメラの タイマーを押した …
僕 は 笑った …
今が 楽しかったから …
笑顔 で 写真に写りたかったから …
パ ッ シ ャ ッ !!
僕 忘れない !
今日 僕が 楽しかったって事 …
絶対 ! 忘れるもんかっ!!
山の 頂上で写真を撮った後 …
今度は 坂道を下って行った …
少し 走ると 天山温泉の看板と トンネルが見えた …
お父さんの 顔から 笑顔が消えた …
お母さんは 何も知らないようで …
「翼 ! もうすぐよっ♪」
と 嬉しそうに 僕に そう言った …
坂道なのに お父さんは 車のスピードを上げた …
「えっ? あなたっ ! あなたっ! !」
お母さんは 悲鳴みたいに
何度も何度も お父さんを呼んだ …
僕 は …
怖くて …
目をギッチリと瞑った …
突然 車が …
ふわぁ~っと 風に乗るみたいに 浮き上がって …
僕は 慌てて 目を開けた …
黄色い煙が モワモワ と 車を包み込んで空中に浮かび上がり …
ゆっくり と トンネルの先にある 天山温泉の入り口へと 降りた …
「えっ? えぇ ー !!」
僕の 心臓はバクバクしていたけれど …
お父さん も お母さん も …
何もなかったように …
「翼 ? どうした? また小便か?ハハハッ!」
と お父さんは笑い
「翼 もう着いたわよ ♪」
と お母さんは 微笑んだ …