story6
そして高校の入学式当日。私の中学からの進学者はほとんどおらず、従って中学時代の一連の事件を知っている人間もほとんどいない。心機一転、私は本当に新しい世界に踏み出そうとしていた。今度こそ、私は上手く高校生活をやっていこうと思う。なんたって青春の本番なのだから。体育館でパイプ椅子に座りながらPTAや校長の話を聞き、のち、各教室へ移動。担任の自己紹介と指定配布書類を配られるとそれだけでその日は解散となった。隣の席は男子で、近くに変な女子もいない。ほっと息をつく。そうだろう、ここは偏差値の高い高校なのだから。
すると、がやがやし始めた新しい教室を切り裂く、一陣の声が奔った。
「ゆきちゃん!」
周囲の目を蛾のように惹くその麗しい見た目、豊満な胸、すらりと長い脚に引き締まったお腹にくびれた腰。病院生活で戻った艶のある黒髪ロング。そして何より、3年間私を苦しめ続けたその呼び声。私はほとんど意識を失いそうだった。声の主は教室の入り口に立っており、まっすぐと私の席へやってきた。
「やっぱり! ここだったんだね」
「めぐ……み……? どうしてここに……?」
目の前の光景は悪夢か何かだろうか? どうして恵がここにいるのだろうか? 恵はそもそも受験すらしていないはずなのに。興奮で頬を染めた恵は駆け寄って私の手をとった。
「あのね、中学の先生が特別推薦編入を許してくれてね。この高校に面接したの。そして、どうして怪我をしたのかって話をきかれて、恵ちゃんとのエピソードを話したら通ったの!!」
そんなはずはない。というかそもそも、私と恵のエピソードなんてどろどろで最悪なもののはずなのだが。それを面接で話してなぜ合格するのだろうか? 一連の自殺未遂のエピソードは、恵の脳内お花畑を通過して跡形もなく美化されたのか。
恵は私の手を握ったまま、最上級の笑みを浮かべこう言った。
「またよろしくね、ゆきちゃん。ずっと一緒にいようね!」
「ずっと?」
冗談じゃない。私は……また最悪の中学時代を繰り返すのか? こいつのせいで?
「うん! ずっと、ずうううっっと一緒! 私、ゆきちゃんのことが大好きだから!」
恵の顔には、幸福を顔いっぱいで表したような満面の笑みが浮かべられていた。