story3
駿くんを言い訳に、恵から遠ざかることができたのはあまりに大きなアドバンテージだった。学校の中はともかく、放課後、帰り際中店商店街などに恵に付き合わされることが多々あったが、駿くんとの予定を作ってしまえば簡単に恵を避けることができた。まさに、全ての歯車が良い方向へかみ合っていった。この頃の私は、いかに皆の批判を買わずに、恵にも悪い印象を与えずに、なおかつ恵と疎遠になれるかに全力を注いでいた。
くしくも、駿くんとの幸せに浸ることがその解決策だとの結論が導き出された。私達は放課後を二人で町中をデートしたり、休日に遊びに行ったり、一応中3で受験生だったので一緒に図書館で勉強したりした。幸せの絶頂だった。私も、人並みの幸せを享受できるのだ。
しかし、絶頂と言うのはそれ以上がないということで、後は落ちるのみが待っている。
それから、在る時を境に駿くんの付き合いが悪くなっていった。放課後の行動を共にできないことが多くなってきており、私は塾に通い始めたという彼の言葉を信じていた。一方の恵はその頃は放課後まで私に付き合うことが少なくなっており、その成果だけでもよしとすべきだろうと自分を慰めていた。ところがである……
唐突に、かつ一方的に、私は駿くんから別れを告げられた。理由は、他に好きな人ができたから。まさに青天の霹靂だ。その霹靂は、徹底的に私を打ちのめした。というのも、私と別れた直後から駿くんは恵と付き合い始めたからである。明らかに、恵と付き合うために私は振られたのである。この世のどん底とはあの時の気分を以て言うのだろう。明らかに、付き合いが悪くなったあの時から恵との交流ができはじめたのだろう。私は暢気にも恵が放課後誘ってこなくなってラッキーなどとバカなことを考えていた。しかも、きいて見ればあの美人として比類なき恵の方から駿くんに言い寄ったと言うではないか。悲嘆に暮れる以前に、私の腸は煮えくり返った。
「恵、駿くんに告白したの?」
努めて冷静に、冷えすぎて絶対零度の声色を恵に投げつけたのだが、恵はとんと気がつかなかった。もはや発達障害を疑うべきである、このクソ女は。恵はにへらっとした笑顔を浮かべて言った。
「知ってたんだ。私も駿くんが好きになっちゃったんだ。ゆきちゃんが好きな人だから、素敵な人なんだろうなって」
なっちゃったじゃねえよ、カスアマ。本当に慰めにもならないけど、この恵の行動はあまりにもひどかったので、ようやく目を覚ました一部の女子が私を慰め、恵の酷さを詰ってくれるようになった。そしてまた、山見駿の奴も所詮性欲に頭を支配された俗物だったということで、私は慰めにもならない慰めを受け続けた。
恵にも、言ったことがある。
「あのさ恵、それ人の彼氏を寝取ったってことだよね。悪いとは思わないの? ねえ? 私を不幸にしてそんなに楽しい? ねえ?」
すると、恵は眉を八の字に垂らして、今にも泣きそうな顔になるのだ。
「駄目だと思ったけど……ゆきちゃんが好きな人だから私も好きになっちゃうの。だから告白した。私、悪いことしたかな? それに本当にゆきちゃんが好きだったら駿君も断るよね……? だ、だから私もいいかなって……」
「いいわけあるか!!」
恵の最後の言葉は、私の憤怒の叫びでかき消された形になった。恵は本当に申し訳なさそうにしながら
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
と泣き続けた。恵の言うことにも一理の正論が混じってないでもなかった気がするが、それもほかならぬ恵から指摘されることでその正論ももはや私の憎しみの材料にしかならなかった。あれはどこでの話だったろう、多分、放課後にどっかのお店で会話してたんだ。二人対面して。
正面の恵は、私に泣きついた。
「ゆきちゃんがそんなに嫌なら私別れるから! ごめんなさいごめんなさい! 私、ゆきちゃんの為なら何でもするから!!」
「じゃあ、一生関わらないで。前から思ってたんだけど、あんたのことなんか、大っ嫌いだから」