story2
次第に恵の私好きはエスカレートしていき、恵は自慢の長い髪をばっさりと切ってきたことがあった。しかも、後ろで短く無造作にくくったエセポニーテール。これには私も唖然としてしまった。何故なら、それは私のいつもの冴えないヘアスタイルであったから。
朝、真っ先に私の席に来て、実に照れくさそうにこういうのだ。
「えへへ。お揃いの髪型にしちゃった」
背筋に寒気がはしった。
というのも、基本恵は美人なのでどんな髪型でも似合う。しかし、私のエセポニーテールが彼女の魅力を数段下げたことは事実らしかった。一部の男子の顰蹙を買い、私の立場は非常に危ういものとなった。直接は言われることはないが、その日から私は恵にくっつくおまけ。極上のカレーに入れられる市販の福神漬け、上手い焼きそばを台無しにする紅ショウガみたいな、そんなような扱いはますますエスカレートしていった。
「恵には、似合ってないかも?」
それとなくこう指摘したことがあったが、恵は例の罪なき笑顔を浮かべこういうのだ。
「いいの。ゆきちゃんとお揃いってところがポイントだから」
何故、そこまで私に固執するのか。この私、浜村ゆきにそこまでの魅力があるとは到底思えない。
男子の圧倒的人気低下はしかし、私に想いも寄らぬ効果をもたらした。3年の時、クラスメートになったとある男子と私はこんな会話をかわしたことがあった。それは、放課後の掃除の時間だった。教室の掃除当番だった私達班が、残って掃除をしていたとき。
「浜村さ、大変だよな」
そう、言われたことがあった。その男の子、山見駿くんは私に向かってこう続けた。
「柳瀬みたいなヤツと一緒にいると、色々と大変だろう?」
私はびっくりして尋ねた。
「どうして?」
「どうしてって、できのいい兄弟がいると比べられるみたいな感じでさ。ちがうの?」
そのときは否定も肯定もしなかったけど、男子において私の立場を正確に理解してくれる子に私はその時初めて出会った。その時を境に、駿くんとは色々会話するようになったけど、はっきり言って私はこの一言であえなく陥落していたと言っていいだろう。我ながらあまりにもちょろい気がするが、元々このルックス。しかも、恵の登場で男子の視線が全てそっちに流れていっていた中学時代において、恋愛とはあまりにファンタジーなものであったから。
修学旅行のとき、私は駿くんに告白した。外出を禁じられたホテルの外に夜こっそり彼を呼び出して、つまり絶対的に誰もいない状況を作り出して、私は駿くんに想いを告げた。そして、彼はあっさりOKしてくれた。
後日、笑いながら彼はこういった。
「ホテルの外に言った時点で、校則を破ってる。僕が現れた時点で、答えは察せられてるものだと思ってたよ」
我ながら鈍感なものだった。確かに、好きでもない相手の為にひどく叱られるリスクはそうそう冒さないだろう。私は修学旅行の夜、二人っきりで告白するというシチュエーションに酔っていたのだろう。自分のあまりのロマンティズムを振り返り顔が赤くなった。