story1
初めて会ったときから恵のことが嫌いだった。恵と人生で初の邂逅を果たしたのは、私が中学1年生の時だ。見知らぬ人間がいる教室。緊縛した空気。その時私の隣の席に座っていたのが、柳瀬恵だった。恵は明るく楽天家な子で、少し天然も入っている典型的なおっとりキャラだった。良い意味で空気を読まず、誰に対しても明るく接する。一言会話を交わしただけで、私の苦手なタイプだと直感した。
ほどなくして恵は男女ともに人気を博す存在となったが、初めの縁が効いたのか、何故か恵は私と一緒にいることが多かった。だから、中学も2年になったとき私は恵に言ってみたのだ。
「ねえ、恵?」
「うん?」
「恵は、どうして私と一緒にいるの?」
「えっ?」
私は比較的地味なグループに属すると自覚していたし、恵は派手なグループな子からも人気が高い。いや、本来ならそんな子達と一緒に居て然るべきなんだろう。
けれども、恵は何を言われたのか分からないと言わんばかりにきょとんとしていた。
「何でって? 理由がいる?」
「いる」
いつも一緒にいる私達は、セットで扱われることが多くて、時には冷やかされたりもした。そう、まるでカップルだ、と。冗談じゃない。恵は顔が整っていて、スタイルもいい。私は自分を卑下したりはしたくない。けれども、現実的に考えて、私の容姿は数段恵から劣っていたと言わざるを得ない。私は恵みたいにさらさらで長い髪も、中学生にしては主張の強い胸も、引き締まった腰も、高い背も持っていない。そして、蛾を吸い寄せるように強力なフェロモンを放つ綺麗な顔も。
男子の視線は、いっつも恵に注がれ、私はおまけ、もしくは恵に繋がるパイプとしか見なされていなかった。
「うーん……」
顎に手を当てて考える仕草は、私がしたら芝居がかかって臭いものになりそうなのに、恵がすると背景に綺麗な花を添えても全く違和感のない可憐なものになる。やがて、恵はぴんと指を立てた。
「初めて会ったとき、びびっときたね。これは運命だって。ゆきちゃんと一緒にいると楽しくなるぞ! ってね!」
にこっと、男子を一発で罪な恋の落とし穴へ突き落す笑みが向けられる。けれども、私には無邪気な残酷さを秘めた子供のような笑みに見える。悪意なき悪意は質が悪い。けれども、恵を無下にすれば悪者になるのは私だし、そもそもこんな私を慕ってくれている子を邪険にするなんて人としてあるまじき行為だろう。例え多少の実害があっても、私はこの恵の笑顔と一緒に中学を過ごそうと決意していた。この時は。