Ⅱ 神隠しにあった ~丘~
丘を駈け降りる三人の先頭を行く白美は、かさりと音が足下からしたのを聴いた。
丁度、近くに岩があるところだった。
無性に気になった白美は立ち止まって、それを拾う。
手のひらに治まるサイズの、片方に無数の穴が開いた紙で、二つに折られていた。
開いてみると……数行に羅列された文字は……自分のものだった。
群像がこちらへ来る前に渡したもの。
拾った後、一瞬で走り出していた白美は、再び立ち止まりかけた。
意識して足を前に出しながら、紙を眺め回す。
焦げが全体的にあり、所々黒くなっている。
そしてもっとも目立つのが……血。
おそらく群像の……。
そう考えた瞬間。
前に進めなくなった。
壁にぶち当たった。
歯車がはずれた。
思考が死んだ。
弦が切れた。
ああ……ああ…………嗚呼……………………。
深い、悲しみと苦しみと怒りと悔やみが混じりあった、嫌な感覚。
心が痛い。
心が潰れる。
心が朽ちてく。
どうしよう、どうしたらいいか分からない。
逃げる? 何から? 飛竜から? 良いじゃん別に……。
「……何で、生き残らなければならないの?」
呟いた。
そして前に倒れ……
「バカヤロウ」
……なかった。
舞子が、支えていた。
「お前が逃げなきゃとか言ったんだろうが。それに……いや、そんなことより、分かってるだろ」
何が? 答えようとしたが、もう口が動かなかった。
体から力が抜けていた。
「マンガとかゲームとか、もしここがそんな世界ならさ。現実世界においてでもいけると思うけど、生き残ることに、生きることこそに意味があるだろ。もしかしたら……」
舞子は敢えて避けた。
群像のことを話題に出すのを。
確証がないのに、言えるわけがない。
確証があっても、話を拗らせるだけだ。
だから、避けた。
舞子自身も怖かったのだ。
恐ろしかったのだ。
群像が死んだこと、以上に。
――群像を殺したこの世界が。
早く逃げたかった。
でも、群像を探さずに帰ろうとは言えなかった。
もうこれ以上この世界に居れる気が、三人ともしなかった。
白美も。
舞子も。
こおりも。
教師に怒られることなんて関係ない。
ただ、この世界から出たい。
でも、群像を見捨てたくないと言う思いは変わらなかった。
白美も。
舞子も。
こおりも。
なら先生にも協力してもらえれば……。
またこれば良い。
いつの間にか、舞子とこおりは思っていた。
そうすれば群像を探すことだって簡単になるし、飛竜からも逃げられる。
体に力を入れずに、ぶらぶらとしている白美を二人で協力して持ち上げ、今まで走ってきた方向と逆、丘を駈け上る。
大きな岩がある位置まで行って、あるものを探す。
スライド式の扉を、探す。
だが…………見あたらなかった。
いつまで経っても、何一つ。
どこにあるのか、全く分からなかった。
もしかしたら岩が違うのでは、とも思ったが、合っていることだけは分かる。
近くに大きな岩はないし、クレーターのかなり近くにあるし、そしてなにより……直感だ。
こおりですら、これだと、目で訴えた。
誰も声を出す気力がなかった。
声にすればすべてを認めてしまわなければいけないようで。
声を出さないことで認めようとしない。
認めることが、できなかった。
今、彼女たち三人の目の前に在る岩の状態が指すことは一つだけ……。
――現実世界に、帰れない。
すべて夢だったらいいのに。
そう考える白美。
だけど現実はそう、甘くはない。
風が吹き。
――三人に……
なぜか初めに思い描いていたのとは全く逆方向に展開されていく物語……大丈夫かな? 大丈夫じゃないか。
でも、こうでないと書けないのですよ。
道筋をがちがちに固めちゃうと、不自然すぎるようになるので~