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Ⅰ その世界は ~空き教室→異世界~

「遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い」

「ちょ、落ち着いて舞子」

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいいや。落ち着けないでしょうが!」

「舞子、貴女の方が……心配してるんじゃないの?」

「はぁ? 白子、あんた何――ってんの? 舞が群像を心配!? んなことある分けないでしょ!! ……というかもしそうなら困るのはあんたでしょ、白子!」

「へ? ん? いや、別にわたしは困らない、と思うけど……、いや、あ、うん……えっと…………。……というかわたしは白美……」

「ああ!?」

「いえ、何でもありません……」

 しろどもどろに返す白子を見て舞子は荒れた気が済んだ。ため息を吐いて訳を話す。

「……ふぅ…………。舞はムカついてるの。何にってこの状況よ。あいつなかなか帰ってこないじゃない。なのに幾前――30分前の科白がアレだぞ! どの口が『僕や白美以外の人間が行ったところで、帰ってこれないだろ。せめてまともな僕だけで良いから』と言ったのか、確かめたいわ! そもそもあいつはいつも舞らを嘗めやがってる。『どうせ』、だの、『おまえらだと無理』、だの、『せめてまともな僕だけ』、だの、うるせーんだよ! 何が『せめてまとも』だ! ナルシスト! おまえが一番まともじゃねーよ!!」

 ため息の、落ち着いた意味がなかった。

 それから永遠と愚痴と文句と愚痴を繰り返す舞子に対して白美は若干頬をひきつらせつつ……だけどまあ、舞子の言うことに一理あったので、ハナから否定できない。

「…………修羅場…………」

「「――っのぁ!」」

 いきなり会話に割り込んできた第三者に、必要以上に二人はビビる。控えめな喋り方……こおりだ。

「突然話しかけないでよ、びっくりするじゃない!」

「というか修羅場って……?」

 怒りが治まらない、ハタから見ればヒステリックを起こしているように見える舞子が叫びながら答え、そして白美はこおりの言う意味が分からないとでも言うように首を傾げる。

 こおりも伝わるとは思ってなかった。

「…………二つの意味で修羅場……。……まず郡山君が帰ってこないことから察するに…………異世界で、危険な目に遭っているかもしれない…………。……修羅場……」

 ロッカーを指さしていた腕を今度は扉側へ向ける。

「…………そしてもう一つ……。……私たち…………先生が向こうから来る……聞こえる……」

「――へ?」

 こんな風に語るときのこおりは、やけに勘が良く、必ず当たっている。この半年で、それを十分理解していた。

 だけど、先生が来る……といわれても信じられなかった。

 こおりが言うのなら間違いないかもしれないが……

 いや、でも……

 二人は息を潜めて……扉を、もしくは扉の先にある廊下につながる階段を、視る。視て、音を聴く、聴こうとする……聴こえてくるであろう足音を。

 果たしてそれは……


 カカン、ココン、カカン、ココン、カカン、ココン、カカン、ココン。


 来た。

 足音からして二人……まだどの教室で人が騒いでいたのか分からないのだろう、目星をつけて目的地を目指している様子ではなかったが……それでも足のリズムの一定さから若手の教師だと分かる。

 ヤバい、と皆が思った。

 若手の教師で、土曜日に学校にいて、この時間で暇な人と言えば……生活指導と群像の担任――アメフト経験者の二人だ――。

 その二人ならあのリズムもできる。同じチームだった二人は息がぴったり合っていた――などと。

 などとのんきに解説と解釈を行っている場合じゃないと、白美はこおりを振り返る。

「どうする……こおりはどうするのが正しいと思う?」

「…………この二つの修羅場を乗り越える方法は必然的に一つ…………」

「その異世界とやらに空間移動すればいいのだぁ!!」

「――ッゥ!!」

 またもやいきなり外部から話しかけられて……、その発言者が大地だと無意識に受け取って、まだ思考が追いついていなかった舞子が盛大に驚いた……というより引いた。五メートルくらい……。

 と、その過剰な反応を白美が止める。

 そして指を口元に当て、シー! とする。

 不思議な顔をする舞子の口を閉めつつ掠れるような声を耳元で囁いて状況を理解させながら、机の陰へと入った。

 こおりと大地もそれに倣う。

 三十秒程たって……かん、かん、かん……と教室の前の廊下に足音が響く。

 一人だけだ……ということは踊り場で二手に分かれたのだろう。おそらく校舎の北側……白美たちがいる方と、南側に。

 そしてその奥から見ていくつもりなのだろう、鍵を開ける音はない。

 ……好都合だった。

 まだ時間に余裕がある。

「……異世界に……行くしかないか……この状況だと……」

「……うん! ……あ、いや……そうね、楽しそうじゃない」

 なにが? という気分ではなく、白美はこおりを向く。

 目だけで分かったのだろう、掃除用具入れに一番近かったこおりはすぐに移動を開始して、掃除用具入れの中に。

「……大地君は殿(しんがり)を……」

 掠れるような小声で白美は大地に指示を飛ばしつつ急いで掃除用具入れへと向かう。

 白美の指示は、おまえは最後で頑張れ、という意味だったが、言い方が言い方であり、殿などと中二病が反応してしまうような単語を使ったのだから、大地は胸を反らして、了解した、とふつうの大きさで答えた。

 ふつうの大きさで、答えた。

 …………。

 大地は、普段から、

 声が大きかった――

「ん? 今なんか声聞こえなかったか!?」

 いきなり先生の声……生活指導だ――。

 しまった! 大地君に話しかけた私がバカだった。

 とりあえず早く……異世界へ行かなければ――。

 駆ける様な音はしない。

 まだどこかを完全に特定できていないから早歩きなのだろう。

「どうした!?」

 群像の担任の声も、聞こえる。

 こちらは若干走っている? いや、生活指導と合流するためだろう。

 つまりまだ特定されていない。

 極力音を立ててはいけない……。

 三角座りの状態で、足だけを小股で前に出して歩く。どんどんスピードを上げて掃除用具入れへ、すぐにたどり着く。

 その道中、パンツが丸見えだった気もするが……今は考えても無駄だ……それに誰にも見られていない。大地からちょうど死角になるところを通ったし。

 できるだけそっと扉を開け、中に滑り込む。

 そして目を瞑り……異世界へと行く――


 ――目の前に広がった世界は、昨日とは違っていた。

 燃えていたのだ。

 焦げていたのだ。

 砕けていたのだ。

 穿かれていたのだ。

 何者かに――そして。


 あたりに血が無数、飛んでいる。


 激しい戦闘というより……一方的な戦闘が合ったようだ。

 もしかして……と白美は不安になる。

 この血って、もしかして、群君の? だから群君は帰ってこなかった?

 いや、考えるまい。

 考えたら、本当にそうでありそうで……怖い。

 どうして、こんなことに……私のバカ。何で勧めたのよ、なんで教えたのよ、こんなとこ、教えなければこんなことには、バカバカバカバカバカ!

 怖いけど、けど、考えてしまう。

 そして自分を責めたところでなにも変わらないと分かっているが、それでも。

 せめて気を反らそう、とこおりを探す。

 左右を見ても誰もいなく、振り返った。

 野原の丘の、頂点らしき風を装った、上側。

 そこにこおりはいた。

 ヘッドホンを珍しく外している。

 声を掛けようと丘を登る。その途中でこおりが何かを見ているのが、何かに見入っているのが分かった。

 声を掛けるのを諦め、代わりに自分もその光景を拝まんと、こおりに駆け寄る。

 そしてそこから見た、

 こおりが目を奪われていた世界は――


「ふぅ……あぶなかったー……というか中二病大丈夫かな? いやまあ考えないで置こう」

 白美の視界の端に舞子が現れた。

 だが、気にとめなかった。

「ってすげー! 白美が言ってたとおりじゃん――じゃ、じゃなく、こほん。…………あれ、白美は? 白美ー!」

 叫んでいる途中で白美とこおりが並んで虚空を見つめる様子が目に映った。

「なんだーそこにいたのか。舞、かなり焦っちゃったじゃないの~」

 話し方がいろいろと変で、テンションが上がっていることが容易に分かる。

 だけどそんな舞子よりも、こおりと白美の方が、テンションが高かった。

 やがて白美の横に舞子が来て、

 固まっている姿から空気を読んで、

 何も声を掛けずに二人が見つめる先を、

 野原に腰を下ろしながら、振り返って見て、


 ――息を呑んだ。


 三人が見たこの異世界は――



 果てしなく広がる天と地。

 天に無数の雲と、無数の空中島が存在し。

 地に森林や湖、川に野原、そして城壁で囲まれた町があり。


 天を飛竜が守り。

 地に飛べない竜が在る。



「な……に……此処…………」



 そう呟いたのは舞子だけだったが、白美も、こおりも、同意見だった。



 ただひたすらに…………


 すごい。


 そう、感じていた。



 彼女たちの目には。


 ――ゲームのような世界が、広がっていた――




                    Ⅰ章 その世界は 了  Ⅱ章へ続く



やっと異世界へ全員来ました。


あれ……一人足りない? まあいいか。とりあえずここから始まります。


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