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Ⅰ その世界は ~フードコート~



「さて、続き、行きますか!」

 白美ら五人は学校を早々と出て、家路に着く代わりにスーパーのフードコートへと出向いていた。

 もちろん、白美が今日中に話したくて、また、大地が今日中に聞きたいと、力説したからだ。

 そのフードコートよりもファーストフード店の方が学校から、そして五人の家から一番近いのだが(五人のうち二人――群像とこおりは電車通学なので、使用している駅に近いということ)それぞれ選り好みが強く、また、登校に五人全員が自転車を使っていることがあって足を伸ばしやすいから、と言う理由でフードコートに決定している。

 している、というと何度も行ったことがあるような口振りであるが、今日みたいに唐突な集合はあまりないが、それでも何度か集まることがあったのはある。

 白美ら五人は、同じ部活動なのだ。

 つまり部活を行っている。

 部活として認めてもらえている。

 結論、五人はしっかりと部活動の活動内容をこなしている、ということになる。

 そしてその活動内容で部内で要相談になることがあり、その度に来ている。

 部活も結成から半年が経ち、相談しに、フードコートに来るのはだいたい七回目……一ヶ月に一回のペースで相談していることになる。

 話を戻そう。

 とにかく近所の大型スーパーのフードコートにて、六人席を陣取った五人の前にはそれぞれ軽食程度の食料がある。ただ一人だけ、大地だけが例外で、うどん大に野菜のかき揚げやエビ天などを盛っている。そして先ほどからずっとうまそうに啜っている。

 見ている四人は思わず唾を飲み込むが……まあ中二病は黙っているだけなら無害なので、嬉しいことこの上ない……そう表に出さずに思っている。

「えっと……何の話か分かってないんだけど……まずそれから教えてくれる?」

「ああ、そうか、悶えてたもんね、舞子」

 了解、と偉そうに腕を組んで頷く動作で伝える。

「……今から私が話すのは、なんと……」

「なんと?」

「異世界についてで――」


「――ッヱ!!」


 間髪入れずに、舞子は叫んでいた。


 …………。

 ……………………。

 …………………………………………。

 ……………………………………………………………………………………。

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。


 空白だった。

 いや。

 てんてんてん、だった。

 一分くらい、経った。

 それから。


「ぇ、へ、……あ、ははは…………。コ、コホン……。――馬鹿じゃないの?」


 自分の反応が急に恥ずかしく思えたらしく、右側の頬だけをひきつらせながらわざと咳払いし、冷静を取り繕う……真似をした。頬が少し染まっている。

「……ぅ」

 群像は思わず吹き出しそうになった。

 ――ダメだ、今笑ったらダメだ――

 心の中で繰り返す。

 ――ダメだ、今笑ったらダメだ、ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ――

 ――さもなくば殺される……笑ったら、殺される――

 そんな群像の心中を知らず(知っていたら群像はもうこの世の人ではなくなっている)舞子は呟く。

「で、でも――冗談でそういうことを思いつくなんておもしろいわね――良いから話してみなさい、今直ぐに!!」

 ツンデレ……最新ver.と言ったところか。

「「――ブッ」」

 見事に二人分の吹き出す音が被った。

 二人――群像とこおりだ――

「なっ、何がおかしいぃぃいいいい!!」

 ――しまった。

 二人がそう思ったときにはもう遅かった。

 一瞬で迫っていた拳は顎へと加速しながら飛んでいく。

 そのままどんどん上へと角度がつけられていき……

 ――ボキッ――ドガァッ!!

 右手でアッパーを食らった群像は、左手で食らったこおりよりも確実に吹っ飛び、背中を置いていた壁へと激突する。

「ッ――ッテェ! な、に、す……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い!」

 言葉を言いきる前に我慢しきれない痛みが襲ってきて、群像は頭を抱える。

 こおりも壁への激突は小さかったものの、顎への一撃がかなり聞いたようで、痛がる前にノックダウンしている。

 テーブル内が混沌と化していた。

 今現在観客側として存在していた白美だが、少し頭に来たようで、パン! と両手を打とうとした瞬間――

「ふむ……死の鉄拳――否、(じごく)誘う(いざなう)アッパー(てっけん)、といったところか……」

 じゅるんるん! とうどんの汁まで飲み干した大地は呟く。

 呟いた、はずだが。

 ふつうに声が大きかった。

 だから皆、黙った。

 それはねーだろ、と四人とも思った。

「ふっ、我の力の足下にも及ばんわ」

 ――シュッ――

 一閃――走る。

 大地の馬鹿でかい図体が浮いていた。

 宙に、飛んでいた。

「何、だと!?」

 目を見開く大地。

 その瞳に写っていたのは、拳を振り上げた状態の、舞子。

「あ、ごめん、なんか脊椎反射で」

 棒読みで謝る舞子は、容赦がなかった。

 ツンデレの要素すらなかった。

 一つ言えるのは、舞子は大地に対して厳しい、ということだ。

「……はぁ…………」

 白美はため息を吐く。

 はぁ……このメンバーは本当に面白いけど…………話が全く進まないじゃない……。

 周りの客から変な目で見られているのを背中で感じて、もう一度ため息を吐いた。

「……はぁ…………、ちょっともう恥ずかしいから、話そうと思ってたことは、すべてメールに書くよ……」

 三度吐いたため息で、周りの客は興味を失ったらしく、周囲にざわめきが戻った。


「……はぁ…………」



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