エゴイスト
好きだと自覚したのはいつだっただろうか。
野球に明け暮れた俺と、本に埋もれながら過ごすお前。
まったく正反対のお前が好きだと自覚したのは、思い出せないほど昔で。
けれど、俺もお前も同性で困ったものだと頭を抱えた。
必死に同性婚の本を読んだり、法律を調べたり、知れば知るほど世間の目が怖くなった。
その恋に必死に蓋をして、いや逃げ出したんだ俺は。
そんな責任持てないと俺はその気持から逃げ出した。
優しいお前は、受け入れてくれるかは別として、決して嫌悪したりなどしないと知りながら。
学年がかわり、次第に疎遠になるお前にどこか寂しい気持ちを抱きながら、それでもどこかほっとした思いを抱いたのも事実で、当時中の良かった女の子に告白されてからは逃げるようにその恋にのめり込んだ。
久しぶりにあったお前は相変わらずで、図書館の司書になったんだと嬉しそうに笑った。
司書を目指し大学に行きながら、妹の学費のためにバイトに身を費やし、体を壊しかけていたと後から知った。
親がアル中になってお前がその分負担していたなんて知らなかった。
なんで言ってくれなかったんだと、逃げた己を棚に上げて、自己愛のままに悔しさに涙した。
一人よがりで今思えば赤面ものだ。
俺はそれから何度か女を代え、お前を愛しながら一番居心地のいい人と結婚したよ。
けれど、無理だった。離婚した俺をお前は慰めてくれたっけ。
良い人いないのか? と水を向ければ、モテないんだと恥ずかしそうに笑ったお前に改めて、俺はお前がまだ好きなのだと自覚した。
でもやっぱり俺は知らなかった、無理をしたのが原因で子供の作れない体に、お前が恋を諦めていたことに。
優しいお前に、惹かれない女なんていないのに。
独り者同士、酒が好きな俺と、酒の飲めないお前はあの頃のように他愛も無い話を重ね、季節を重ねお互いに死んだらお前の墓は俺が見てやるなんて馬鹿な事もいった。
あれは若くて元気だから言えたのだと今は思う。
寒い冬にお前があっけなく逝ってしまって、あんな約束するんじゃなかったと後悔したけど、最後の約束ぐらいは守りたくて俺はずっとここにいる。
きっと、俺はお前に会いに行ってもこの気持は伝えられないからきっと。
俺はずっとここにいる。