第七話 ゴミと呼ばれた少女(4)
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「お前、花、いいの見つかったのか?」
「それが……自分には、どれがいい花なのか、よくわかんなくて……」
少女は地面に正座して申し訳なさそうに背中を丸める。
「はぁー……」
「!!」
少女の態度に、老翁は眉間を抑えて深くため息。
目の前で繰り出されるそれを自らへの呆れと捉えた少女は、丸めていた背中を伸ばし、唇を裏へ翻す。
「そんなこたぁ、どうでもいいんだよ」
「いやでも……!」
反射的に飛び出た反論に、皺だらけの目元はさらに歪さを増す。彼の威圧に一瞬仰け反るも、少女は奥歯を噛んで続ける。
「でもね、おじいちゃん。自分は、おじいちゃんがいつも持ってくる花ぐらいキレイなのを、どうしても見つけたいの」
「…………」
「おじいちゃん」と慕ってくれる子どもから向けられている真剣な眼差しに、老翁は前髪をかきあげるように頭を抱える。
そして首を左右に振りながら言う。
「なにもかも、ちげぇよ……」
「えっ」
「俺は、花に疎いんだ……。実はなぁ、ここにあるコイツら、俺には全部同じに見えてる。それくらい花に詳しかねぇし、興味もねぇんだよ。だからお前の感じてるそれは、勘違いにすぎねぇ」
「じゃあ、どうやって……」
「……そんなの、適当に決まってるだろ。俺は、適当にここにきて、適当に花むしって、適当に持って帰って、そんで適当に埋めてんだよ。だからお前も、勘で選べばいい」
「勘……」
今日のおじいちゃんは、なんかおかしい。
自分を外に連れ出してくれたし、花選びを任せてくれた。
目を合わせてくれないのはいつものことだけど、いっぱい会話してくれた。今日だけで、一年分くらい会話した気がする。
ただ、ため息が多かった。
最初は、自分の花選びが遅くて呆れちゃったからだと思った。
だけど多分、そうじゃない……と思う。
なぜなら、おじいちゃんは、迷惑ばかりかけてるはずの自分のことを一度も責めるようなことを言ってないから。
それどころか、おじいちゃんは、おじいちゃん自身をずっと責めてるように見える。まるで、自分に嫌われようとしてるみたいに。
「俺は、お前の好きだった花を殺した」
「花は適当に選んでいた」
おじいちゃんは、そう言ってた。
「花を取った」ことを「花を殺した」って言うの、間違ってはいないけど、正しいとも言えない……と思う……。
自分は頭がよくないから、うまく説明できないけど、そう思う……! 根拠はない!
それに、花を適当に選んだっていうのも嘘に決まってる。今度は……根拠はある!
だって、自分がここに来る前に、すでに足跡とか、土に膝ついた跡とか、いっぱいあったから。あれはきっと、おじいちゃんが一生懸命、花を選んでくれてた証拠。
だからこそ、自分もいいやつを選びたい。
そんな思いで少女は再び花畑へ足を踏み入れる。
「じゃあ、おじいちゃん……」
「…………」
花の墓場付近で座ったままの老翁に振り返りながら、少女は言う。
「自分も、勘で選ぶね! ニシシッ」
「……おう」
老翁は、ウキウキを隠し切れない笑顔を見せる少女を横目で確認して、短く返す。
***
「はい、持ってきたよ!」
少女が持ってきたのは、彼女が見たなかで、最も花びらの大きい花。
少女はその大きさを強調するように、座っている老翁の目の前に花びらを広げ、心が躍っているような声できく。
「どう??」
「まあまあだな」
「でしょでしょー! フンッ!」
「なんでそうなる」
少女がせっかく持ってきた花を、チラリとだけ確認して雑に評価した老翁。彼は花を凝視することなく目を背け、それに興味がないような素振りを見せる。
一方、少女は良い評価をされたわけではないが、したり顔をする。
「で……なぜ、それにした?」
老翁の問いに少女は目を輝かせて弾むような声で語る。
「そーれーはーねー……いっっっちばん、目立ってたから!」
「目立ってた?」
「うん! それだけ! どう?? すっごくテキトウでしょ?」
「コイツ……」
少女の自信満々の笑みに、厳格な老翁の顔にも、呆れゆえか、はたまたそれ以外ゆえか、微かな笑みがこぼれる。
「今、もしかして本当に、笑った?」
「アホめ、勘違いすんな、お前のアホさに呆れただけだ」
「そうだったの!? いやぁ、そんなに褒められると、照れるなぁ、エヘヘヘヘ」
「だから、なんでそうなる……ハァア……変なこと言ってないで、花選んだなら、さっさと帰るぞ。ちょっとばかし冷えてきたからな」
「うん!」
老翁は、地面に手をつきながら、ゆっくりと立ち上がる。そして、そのまま村の方向に向かって歩き始める。
少女は名残惜しそうに星の海を見渡す。
「またくるね!」
そう言うと、木々の隙間を通り、目の前の花たちを揺らす、優しくも冷たい風が吹く。
冷風は、少女が両手で持っている新たな花も揺らす。少女は、花が飛ばされてしまわないよう、体で風を遮り、花を包むように持ち変える。
両手を使えないため、自分の髪の乱れをどうすることもできず、吹かれるがまま。
「そうだ……」
風を全身で浴びて、少女は思い出した。
「あのときの花びら……」
それは、老翁に内緒でこっそりと髪の中に隠した、一片の花びら。
少女は場の流れで持ってきてしまったそれを、どうせならここに返してあげようと考えたのだ。
風が止んだことを確認し、右手を自分の髪の中に突っ込む。
「ありゃ?」
髪を手櫛でとかすように動かすが、それらしい感触はない。
どこかで落としてしまったのか、今の風に乗ってどこかへ飛んでしまったのか。
どちらにしても、この暗闇で花びら一つを探し出すことは、特殊能力でもないかぎり、不可能といっていい。
そう考えた少女は花びら探しを諦める。が、その顔には優しい笑みがあった。
「早く来い」
「あっ、今行くー!」
少女は家に歩き始めている老翁の背中に駆け寄る。
このときも、できるだけ花を揺らさないよう、丁寧に運ぶ。変な走り方になってしまい、身体的には余計に疲れるが、花の平穏に比べれば大したことではなかった。
背後の気配で、少女が追いついたことを悟った老翁は歩みを止めないまま伝える。
「大事にしろよ」
「もっちろん!」




