⑧盲目の聖女と魔物
魔物が住む森のため人が入る事はない。
そのため、人が入れるように草や枝を騎士達が切り落としながら中へと進み歩く。
森の中は木々が生い茂り葉で空は覆われて昼間でもどんよりと薄暗い。
ここには新緑の木漏れ日という安らぐ要素はなく、森の中の空気は瘴気により重く感じられ、薄い霧により視界を遮っていた。
所々に隆起した場所があったり倒木があったりと、進む歩みを邪魔していた。
一般の騎士でも大変なのだから聖女などが入る場所ではない。
更に盲目の者が入るなど無理だろうと皆が思っていた。
しかし、美優は倒木を軽く跨いだりと不自由なく進んでいた。
その姿を見ていた騎士達は美優が盲目である事を疑ってしまった。
~ 美優視点 ~
騎士達が出す音の反響により周辺の景色が立体的に把握する事が出来た。
残念ながら色は解らないが、木の葉一枚一枚がハッキリと解る。
騎士達が斬り開いた森に足を踏み入れ進み歩むと森の空気が徐々に変わっていく事が目が見えない美優にも感じ取れた。
これが魔物が生育する場所の空気。
美優は前の世界でも森に入った事はあった。
ただ、その森は人の手により木々が間引きされて道が整備されていた。
その時の印象は空気は美味しく優しい風や匂いで歩くだけで平和を感じる事が出来た。
しかしこの森は違った。
空気は重く風は死んでいた。
この森では平和を感じる事は出来なかった。
これが魔物が住む森。
美優は不安を押し殺しながら一歩ずつ森の奥へ進むと新しい能力に反応が見られた。
【サーチ】
森に入るなり新しい能力『サーチ』を使った。
この日のために覚えた能力二つのうちの一つであった。
この能力は広範囲に音の幕を張り、呼吸音や移動する時に聞こえる音によって魔物の居場所を探知する。
神様との修練で半径1k程の探索が可能となった。
サーチを行うと半径1kにいる魔物の位置を捉える事が出来た。
ここから強い反応するものだけを探知出来るように調整すると、反応した場所に風の刃を飛ばした。
するとサーチから反応が消えた。
討伐出来たみたい。
「ミユ殿、魔力の使い過ぎには注意するように。常に体内の魔力を意識しながら調整をして下さい」
「はい、先生。このくらいなら一晩中続けても大丈夫ですよ。あっ!隊長さん、魔力を調整しながら討伐してますので、反応の弱い魔物は皆様で討伐お願いします」
「自身の魔法を過信しないように。魔物の反応が強すぎて魔法で倒すのが少しでも厳しいようなら攻撃せず私達に知らせて下さい」
「はい」
今のところ強過ぎる反応はない。
だけど油断はしない。
ルーチェ先生が言われる通り、判断を間違えてしまうと魔物が興奮状態となりどう言った行動を取るか解らない。
私が無理をすれば皆に危険が及んでしまう。
なので絶体に無理をしない。
過信をしない。
油断せず的確に判断をしながら風の刃で魔物を討伐していった。
「調整か・・・」
隊長さんが何か言いたそうであった。
隊長さん的にはもっと頑張って欲しいのかもしれない。
でもお断りです。
文句を言いたければ好きに言って頂いて構いません。
何を言われても今の魔力配分を変えるつもりはないです。
だって、少しでも無理をすれば、騎士団達が裏切った時の対処が出来なくなってしまうから。
『サーチ』を使用すると共に『エコー』も発動させていた。
これには隊の陣形を把握しておかないと騎士達に魔法を被弾させないためもあるが、騎士等が可笑しな動きをしないか監視目的でもあった。
そのため、突然の異変にも直ぐに気付く事が出来た。
今回の魔物調査兼討伐は第一と第二の合同であったため、連携に不安を感じていたけど、入らぬ心配だったみたい。
騎士達の連携は何度も訓練されたかのように綺麗に陣形が整っていたため、陣形の内側は安全地帯となっていた。
団長さんが優秀なのもあるかもしれない。
そのため、その安全地帯に魔物がいるわけないのだけど、その安全地帯に魔物が突然と発生した。
しかも一匹ではなく数十匹が一斉に現れた。
流石に偶然な訳がない。
この中に裏切り者がいる。
「ルーチェ先生!団長さん!内側に魔物が現れました!」
「『シャドーゴースト』がどうしてここに!?」
シャドーゴースト。
確か先生から教えて頂いた魔物にそのような名前の魔物がいたような・・・
確か影の魔物で打撃系が利かない上位の魔物。
風魔法と相性が悪いとされている。
そんな魔物が数十匹もミユを囲むように突然に現れたのだから、明らかに私に悪意を抱いている者の仕業だ。
「ミユ殿、大丈夫かい?」
「はい、先生の予想通りです」
私の特性が風属性である事は多くの人が知っている。
ならば、陣形の内側に風耐性のある魔物を出現させるはずだとルーチェ先生は読んでいた。
よって私はこういう時のために神様にお願いをしてもう一つの能力を覚えて来た。
魔物を数十匹を一斉に出現すればより対応が出来なくなると思ったのだろうけど残念でした。
この能力の有効範囲は広く、出現した魔物全てが有効範囲内にいた。
【ボイス】
簡単に言うとただ歌を唄うだけ。
ただ、その歌声に魔力をのせてる事で様々な効果を付与する事が出来る。
覚えたての能力のため、まだ一つしか覚えていない。
覚えた効果は『瘴気浄化』。
歌声が届く範囲の瘴気を浄化させる。
魔物は瘴気に寄って具現化したもので、シャドーゴーストのように中途半端に具現化した魔物は瘴気消滅と共に魔物も消滅してしまう。
現状に最適な歌であった。
人前で唄うのは少し恥ずかしいが瘴気浄化の歌を唄うと数十匹のシャドーゴースト全てが徐々に薄れていき最終的には完全に消え去った。
気のせいだろうか?
さっきまで重く感じていた空気が軽く感じられる。
しかも空気が美味しくなったような気がするのだけど気のせい?
「ミユ殿、いま少し森の奥の方に入ろうかと思いますが、その時に先程の歌を今一度お願いしたいのですが可能でしょうか?」
「あ、はい解りました」
ルキウス隊長にもう一度歌を唄って欲しいと頼まれてしまった。
そんなに私の歌を気に言ってくれたのかしら?
移動後、ルキウス隊長に頼まれ先程の歌を再び唄う。
えっ!魔物調査終わり!?
思ったより早く終ってしまい、ちょっと物足りない感が残ってしったが無事に帰れるのなら良しとする事にしましょう。
~ ルーチェ視点 ~
「風魔法の弱点ですか?」
「そう、ミユ殿の風魔法ならば森に住み着く魔物は問題なく倒せるでしょう。
ですが、必ず大臣の息が掛かった者が邪魔をしてくるはずです。
その時懸念となるのが風耐性のある魔物を召喚してくる可能性があります」
「召喚ですか?」
「そう、例えばこちらのように」
そういうと、ルーチェは一枚の札を取り出した。
「これは『召喚札』と言うもので魔物が封印されています。
恐らく今回の魔物調査にこちらを用いて来るかと思われます。
考えられる魔物としては・・・」
呪文と共に札を放り投げると突然に魔物が現れた。
「見えますか?」
「はい、どうにか。ただ、普通の魔物より存在感が薄くハッキリと捉えられずぼんやりと見える感じです」
「この魔物はシャドーと言って低級の魔物です。ミユ殿のエコーは物体に音波が反射して周辺の地形を把握するようですが、この魔物は半物体であるため音波の反射が弱く姿がハッキリ捉える事が出来ないのかもしれません。
ですが、全く見えないのかと不安に思いましたが、ぼやける程度に見えるのなら問題ないでしょう。
次にこの魔物に風魔法を使用して見て下さい」
ミユ殿がシャドーに風の刃を飛ばすが風の刃は魔物をすり抜けてしまった。
「このような半物体の魔物は風魔法の耐性を持っております。このような魔物を風魔法で討伐するとしたら竜巻のような威力をもって霧散させるしかないのですが、現れる度にそんな魔法を使用していたら魔力が枯渇してしまうでしょう。
なので、このような魔物に対応出来るような能力があれば良いのですが」
「確かにそうですね。解りました、この件に関して神様に相談してみます」
結果、ミユ殿から新しい能力を覚えてきたと告げられた。
これで問題ないだろうが油断してはならない。
悪意があるものは真正面から来ることはない。
こういった攻防戦は卑怯な者の方が何でもありなため有利なのだから。
魔物調査の日を迎えた。
彼女には魔力の使い過ぎに気をつけるよう指示を出す。
魔力切れは彼等の思う壺となってしまうからだ。
また、彼女には陣形の近くの魔物は騎士達に任せ、遠くで能力【サーチ】が捉えた魔物のみを討伐するようにした。
その際の注意点として一撃で倒せそうもない魔物には攻撃をしないように指示を出した。
これは手負いの魔物は危険で魔物が凶暴化する恐れがあるからだ。
たが、そのような心配は取り越し苦労に終わる。
彼女の魔法で倒せない魔物はこの森にはいなかった。
騎士達が陣形を乱す事なく進むと彼女が倒したと思われる魔物が次々と現れた。
この中にこの森の主と言われるブラックグリズリーがいた。
ブラックグリズリーはここにいる騎士達数十人が束となってどうにか討伐出来るかどうかといった魔物だ。
それを一撃で倒すとは恐ろしい。
騎士達が倒しているのは低級の魔物ばかりだ。
しかも彼女は魔物討伐だけでなく騎士達が進むであろう方向の草を魔法で刈り飛ばしていた。
これで魔力調整していると言うのだからどれだけ魔力を保有しているのか想像するだけでも恐ろしい。
だが、彼女のお陰でスムーズに進む事が出来ている。
このまま良いのだが・・・
すると、突然に陣形の内側から魔物が現れた。
恐らく、騎士の誰かが召喚札で呼び出したのだろう。
しかし、彼女が覚えた新しい能力の前には無意味であった。
数十匹と出現したシャドーゴーストは簡単に消滅した。消滅した近くには破れた召喚札が落ちていた。
これがあれば魔力残渣で誰の仕業か解る。
しかし、あの『ボイス』とか言う能力、まだ一つしか覚えていないと言っていたが恐らく多様性があるはず。
彼女なら本当に魔王を倒せるのではないかと期待してしまった。
~ ルキウス ~
正直に言おう。
聖女は化物だ。
騎士達の前に現れる魔物は角ウサギなど低級の魔物ばかりで、その他の魔物は斬り倒されていた。
おいおい、あそこに転がっているのはブラックグリズリーか!?
これを全て聖女が行ったと言うのか・・・
しかも、これだけの魔物を斬り倒しておいて草も刈ってくれているからスムーズに進める。
これで魔力の調整をしていると言うのだから化物だ。
何だ!?
第二騎士団達に違和感を感じる。
普通では気づかれないような陣形の歪みを感じる。
第二騎士団達が意図的に歪めているように見えた。
何か仕掛けてくる!?
歪みによって生じたスペースに突然に魔物が現れた。
シャドーゴースト!!
第二騎士団の奴等が召喚したに違いない。
しかし、何てやりづらい魔物を召喚したのだ。
コイツらには物理攻撃が利かない。
しかも何十匹も召喚しやがって自分達の命もいらないと言うのか。
俺の炎魔法なら簡単に倒せる。
しかし、森で炎魔法を使えば大火災へと繋がってしまうと、俺が魔法を使おうか戸惑っていると、聖女が突然に歌い出した。
ほお、結構上手いものだな・・・
ではない、突然もち狂ったか思ったが、数十匹いたシャドーゴーストが全て消滅していった。
それだけではない、周辺の瘴気がなくなっている!?
魔物の多発は瘴気が濃くなったからだ。
そのため瘴気が薄くなるまで魔物討伐を行う必要があったのだが・・・
彼女にはもう一度唄って貰い森の瘴気をほぼ消し去った。
これなら十数年は瘴気の心配をすることはないだろう。
これでわかった。
聖女は・・・化物だ。




