⑩盲目の聖女と召喚の儀式
~ 美優視点 ~
「また召喚の儀式を行うのですか?」
魔法の訓練も順調で本気を出せば大竜巻を数本同時に発生させるほどの魔法を唱える事も出来るようになった。
今では、王城の庭では狭いため、以前に魔物調査のために行った森の中で訓練を行っていた。
この森にはニーチェ先生と私、従者のメイと護衛のため第一騎士団から2名の騎士だけで訓練を行っていた。
しかし、この日はもう一人ユーリ殿下がこの森に現れた。
そして、また召喚の儀式を行う事をユーリ殿下から伝えられたのであった。
「そうですか、どうやら私は聖女として失格と見なされたのですね。今後はどうしたら良いのでしょうか?城を出ていくべきなのでしょうか?」
私は聖女として認められなかったらしい。
前回の魔物調査で十分に力を示す事が出来たと思っていたのだけど、やはり『盲目』と言うのが駄目だったのかもしれない。
「私共はミユ殿が聖女失格とは誰も思っていません。各国の話合いでミユ殿一人では負担が大きいのではとなり、今一度召喚の儀式を行う事になりました」
「召喚を行うのはニーチェ先生ですか?」
「私にはそのような話は来てません」
「ああ、マグワリア国の魔道士が行う事になった」
「何故ですか?ニーチェ先生では駄目なのですか?」
「・・・マグワリア国王と我が国の大臣がその魔道士を推薦して決まったようです」
「大臣が・・・」
大臣の悪意を考えると二人目の聖女が召喚されれば私を陥れてくる事は明白であった。
ならば、私はこの場所にいるべきではないのでは・・・
「私の国に来ますか?」
「ニーチェ先生の国ですか?」
「ええ、私の母国はこの国の隣にありますユーグリア国なのですが緑豊かで空気が綺麗ないい所ですよ。私の田舎では葡萄の栽培が盛んでワインも有名なんです。今年は天候に恵まれてましたので素晴らしいワインが出来たかもしれませんよ。現在の国王陛下もお優しい方ですのでミユ殿の味方になってくれると思いますよ」
隣国・・・
目が見えない私には緑色と言うものが解らないが、自然の素晴らしさは解る。
ニーチェ先生の話を聞き私は川のせせらぎや小鳥の囀りなどを想像し魅力的に思えてきた。
ルーチェ先生と話すうちに不安で歪んでいた心のリズムがいつも通りの平常なリズムに戻りつつあった。
私にはもう一人味方がいる。
その方にも相談してみよう。
だって、その方は召喚の儀式に一番関り合いがある方ですから
そう・・・神として・・・
~ 神視点 ~
人はなんて愚かな生き物なのだ。
一度、下と見下した者が実は実力者だったとしても己の判断を訂正する事が出来ない。
目が見えないと言うことで違う生き物のように扱う。
なんて愚かな生き物なのだ。
髪の色が違うだけで・・・
皮膚の色が違うだけで・・・
言葉が違うだけで・・・
国が違うだけで・・・
讃える神が違うだけで・・・
それだけで人は差別する。
迫害をする。
争う。
悉く愚かな生き物だ。
美優は能力によって常人以上に視ることが出来ている。
しかし、それを認めたくないだけだ。
心底、愚かな生き物に嘆かわしく思えてきた。
「美優よ、人は愚かな生き物だ。今回の儀式はただそれだけの事」
「やはり召喚が行われるのですね」
「ああ、私は願いに答えなければならない。それが神の務めであるからだ。だが、答えなくてはならないが答えたくない。実は『魔王討伐』と言う人の願いを叶えられるであろう素質があるものは美優の他にもう一人いる。だが、その者は素質はあるが心が望ましくなかった。しかし、その者を喚ばなければならない。美優よ忘れるな。この者は必ず世界に悪意をばら蒔く。注意せよ、この者はお前にも危害を加えようとするであろう」
「私はどうしたら良いのでしょう?」
「お前は好きなように生きると良い。魔王討伐が嫌ならばしなければ良い。元の世界に戻りたければ私が戻そう。気に止むことはない。それが人が選んだサガなのだからな」
そう愚かなサガだ。
健全な者が正しいと思い込んだ愚かさ。
健全な者が争いを企て健全な者が邪な行いを如何に行って来たかを考えずに、この世界は美優を裏切った。
ならば美優には自由を選ばせて上げよう。
好きな未来を選ばせて上げよう。
「それでも、魔王から逃げたくはないです。私は神様やニーチェ先生と合って今までにない体験をさせて貰いました。その恩を返したいです」
私の選択は間違いではなかった。
美優を選んで正解であった。
ならば少しでも美優の平和を守らなければならない。
神は美優に一つの指輪が手渡した。
美優が言われなき罪に追い詰められた時にこの指輪が助けになるだろう。
~ ルーチェ視点 ~
召喚が再び行われる?
だが、俺は術者として呼ばれていない。
その後、ユーリの話を黙って聞いていて思い当たる人物が一人いた。
俺が召喚の儀式を行った際に俺に何故召喚の儀式を直ぐに行わないのか話し掛けてきた男だ。
俺は許される時間の中でその男へ丁寧に説明をした。
マグワリア国の魔道士と聞いて彼しかいないと思った。
彼は大魔道士と言われている程の賢者だ。
あの説明で全てを悟っていたとしても可笑しくない。
そう言えば、彼が王城に出入りしていたのを見掛けた事を思い出した。
もしかしたら大臣の手招きで召喚の儀式について調べていたのかもしれない。
だとすれば既にあの時から次の聖女を召喚する事は計画済みであったと言うことか・・・
新たなる召喚の儀式・・・
恐らく彼程の実力者なら成功するだろう。
そうなるとミユ殿の立場は・・・
彼等にとって一番邪魔な存在はミユ殿だ。
ならば、ミユ殿の身が危険となる前に安全な場所に移った方が良いのでは?
俺はミユ殿に自身の出身国を勧めてみた。
自然豊な国(正直に言うと自然しかないのだが)、あそこならミユ殿も落ち着いて暮らせるはず。
だが、自国に戻れば否応なしにもあの男に会わなければならない。
・・・。
考えること事態が間違いだ。
先程まで新しい聖女を召喚すると聞いて不安な表情が隠せないでいたミユ殿が自国の話をした途端に和らいだ顔となった。
ミユ殿が望むならばあの男に会うことなど構わん。
~ 天眼の魔道士視点 ~
皆がワシの事を『天眼の魔道士』と称えた。
ある者は大魔道士。
ある者は賢者。
ありとあらゆる言葉でワシは称えられた。
だが、足りぬ。
ワシにはあるものが足りなかった。
ワシには『成果』がない。
ワシは膨大な魔法力と博識な知識でこの地位まで来たが、ドラゴンを倒した事も村の英雄にでさえなった事もない。
私は称えられても讃えられる事はなかった。
魔王が復活したと聞いて不謹慎に笑みが溢れてしまった。
これで活躍出来る・・・
しかし、魔王が復活しても、この年寄りに求められるのは知識だけであった。
戦力としてみられる事は一度もなかった。
我が魔力で魔物を倒すことなど造作もないのに、年寄りと言うだけで誰もワシを魔王討伐隊に組み込もうとしなかった。
ワシは戦で死ぬ事など構わんのに。
願わくば・・・
魔王がもう少し早く復活していれば我が人生も違っていたかと思うと、人とは違った意味でワシは魔王を恨み続けた。
「聖女召喚の儀式の補佐としてユニアース国に趣向せよ」
ワシに王命が下された。
儀式には膨大な魔力が必要となり、その魔力供給源の一人として選ばれた。
なるほど、確かに年寄りにでも出来る仕事だ。
馬鹿にされている気分であったが、久し振りに期待されたためしょうがなく引き受ける事とした。
召喚の術者は名も知れぬ若僧であった。
ワシはこんな若僧の下でただただ魔力を注ぎ込むだけなのか。
なんとも情けない。
なんとも不甲斐ない。
ワシが自己嫌悪に陥りながらも魔力を込め続け、魔方陣には十分に魔力が溜めることが出来た。
にも拘らず若僧は儀式を行おうとしない。
ワシは何故に儀式を始めないのか彼に問くと、彼から召喚時のタイミングについて説明を受けた。
確かにこの若僧が言う事に一理ある。
そして、召喚は成功した。
「ヨードル、召喚の儀式の時に術者の若僧に召喚について聞いていたのは真か?」
「はい、召喚の準備が整ったのに始めようとしないため問うたところ、召喚のタイミングについて説明を受けました」
召喚の儀式を終えると自国にて国王よりワシが術者から召喚について話をしていた事を問い詰めなれていた。
恐らく他の魔道士達の誰かが報告したのだろう。
こんな歳よりなど目の敵にせずとも、後数年でこの世からいなくなると言うのに。
「ヨードル、今一度ユニアースに行き次の召喚の術者のなるべく知識を蓄えてこい。向こうの大臣がお前の味方となってくれよう」
ワシが次の術者!?
あの喚び出された女性は聖女ではなかったのか?
いや、今はそんな事はどうでも良い。
大事なのはワシが次の術者であると言う事だ。
結果が残せる・・・
国王が成功の暁には側近として席を開けておこうと申されたが、そのようなブラフなどはどうでも良かった。
ワシは後世にワシが行った成果を残したいがために召喚の儀式についての資料を調べ尽くした。
何なら若僧が書いたとされる論文もだ。
見事な論文であった。
何故、あれほどの論文がBマイナー止まりなのかと、教授運に恵まれなかった彼に同情してしまった。
召喚の日が決まった。
責任者はユニアース国の大臣だ。
この大臣には内緒で城に保管されている召喚についての書物を見せてもらった。
この男は我が国の国王から側近にして貰えると言うブラフを信じているようであった。
愚かな男だ。
自身の能力に釣り合っていない地位を望むとは。
まぁいい。
ワシは成果さえ残せればそれだけで良いのだ。
さあ、準備は万端だ。
後は、タイミングを待つばかり・・・
ワシなら成功できる。
ワシは大魔道士と言われている男。
ワシが失敗するはずがない。
この日、ユニアース国に二人目の聖女が誕生した。




