①盲目の聖女と魔道士
「!!!」
それは突然の事でした。
体が温かく感じたかと思うと冷たいコンクリートのような固い床の上に私は座っていた。
さっきまで駅のホームで電車が来るのを待っていたはず。だが、感じる風、聞こえてくる音は、ここが駅ではないことを示してくれていた。
「「成功だ!成功したぞ~~~!!!」」
複数の人が「成功した!」と叫びだした。
しかも声は私を囲むように届いた。
成功・・・!
もしかしてドッキリ?
ドッキリにあったのかもしれない。
まさか自信がドッキリに合うとは思わず、回りの騒ぎを無視して私の脳内は放送される番組と芸能人に出会えるのかなどを考えていた。
しかし、直ぐにこのドッキリが失敗に終わるのではと思う。
私ほどドッキリに不向きな者はいないのだから・・・
すると、突然に先程まで騒いでいた人の一人でしょうか、私の手を握り「大丈夫ですか、聖女様?」と問い掛けられた。
聖女様???
そう言う設定のドッキリ?
もしや、まだ気付かれていない。
正直に述べた方が良いのでしょうか?
「安心して下さい聖女様、先ずは『ステータスオープン』と唱えてみて下さい。」
先程から私の両手を握っている人が変な事を頼んできた。
こうなったら、相手が気付くまでドッキリを楽しむことにしよう。
どんなドッキリかは解らないが、言われた通り『ステータスオープン』と唱えました。
「聖女様、ステータス画面には何て書かれておりますか?私共は聖女様のステータス画面を見ることは出来ませんので教えて頂けませんか?」
さて、困ったぞ。
これは誤魔化す事が出来ない。
私はステータス画面など見ることが出来ないのだから。
折角、楽しもうとしていたのだけど、ここまでかと私は正直に話す事にした。
「すみません。画面を見ることが出来ません」
私の思わぬ返答に握っていた手の力が少し緩んだように思える。
「???、ステータスオープンと唱えて頂いたので見えるようになったかと思うのですが?」
「違うんです。私、目が見えないのです。だから見ることは出来ません」
「えっ!?」
私の言葉に確実に握っていた力が緩んだ。
周辺で騒いでいた人達も静寂と化していた。
やはり、ドッキリは失敗してしまったのかもしれない。
なんだか申し訳ない。
私は何も悪くないはずなのだけど、何故か罪悪感を感じどうしたものかと悩んでいたところ、「失礼します」と言って握る手を離し私の側に来ていた男性が何処かに走り去って行く音が部屋に鳴り響いた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!
「はぁー・・・」
思わず溜め息を吐き案内をする従者に睨まれてしまった。
慌てて口を塞ぐが、既に漏れてしまっているので意味がない。
しかし溜め息くらいは許して欲しい。
これから行う事を考えると憂鬱で仕方がないのだから。
三度目。
これから聖女召喚の儀式に三度目の挑戦を行う。
その術者に私が選ばれたのだ。
一度目の術者は出世欲の強い男であった。
二度目の術者は最強の魔道士と名乗っていた女性であった。
二人とも魔道士界隈では有名な魔道士。
なのに三度目の術者として選ばれた私は・・・
魔道学園で図書員として働いている普通の魔道士だ。
なぜ私が選ばれたのかというと過去に魔道学園の卒業論文として提出した召喚魔法についての論文が今回見つかったからだ。
しかし、あの論文ばBマイナーでギリギリ合格点レベルの論文だったはず。
そんな私を術者とするとは、各国の王は今回は成功させるつもりはないようだ。
この儀式にはペナルティがある。
儀式に失敗すると膨大な魔力が術者に反転し、膨大な魔力に体が耐えられず術者は消失してしまう。
既に2人が消失してしまった。
そして、次の消失者として三人目に選ばれてしまったのだから溜め息くらいは許して欲しい。
あれから、ただ図書室の管理をしているだけで、召喚の研究など一切行っていない。
そう思うと、睨まれる事など気にするものかと今一度溜め息を大きく吐きだした。
儀式の間に入ると、既に各国から集められた優秀な魔道士達が待機していた。
〖灼熱の魔道士〗
〖漆黒の魔道士〗
〖疾風の魔道士〗
〖灰色の魔道士〗
〖千言の魔道士〗
〖天眼の魔道士〗
〖不死の魔道士〗
皆が有名で誰しもが知っている大魔道士達だ。
これ等の大魔道士がサポートで図書員である私が術者なのだから笑えてくる。
私が儀式の間に入ると皆の視線が私に集まった。
皆が言いたい事は解る。
『誰だコイツ?』ですよね。
はい、私もそう思います。
皆に今回の術者が私だと説明をすると皆が一斉に目を見開き、『コイツが?』と言う疑問形の視線が刺さるように浴びせられる。
串刺し状態でやりづらいが召喚の儀式を行うとしよう。
時間的には十分にあるが、今回の機を逃すと次の機会は一月後となってしまうため、時間には十分に注意を図りつつもミスなく着実に準備を進めていた。
程無くして準備が整う。
後は機を待つだけだと月を眺めていた。
「儀式を行わないのか?」
準備が整ったのにも関わらず、動こうとしない私に不思議に思った大魔道士の一人が問い掛けてきた。
大魔道士と言われる方に私のBマイナーの論文内容を話すのは恥ずかしいが、聞かれたからには答えない訳にはいかない。
私の考えが正しければ、先の二人の失敗の原因はタイミングではないかと思う。
一人目の出世欲が強い男は功を焦るあまり、月の位置が不十分なタイミングで儀式を行ってしまった。
二人目の自称最強の魔道士の女は自身の力に過信し過ぎて、段取りが遅くなり月の位置が過ぎた状態で儀式を行ってしまった。
月の正しい位置とは、召喚のタイミングが次元と次元を結ぶホールの噛み合い。
それがズレてしまえば、穴が塞がってしまった状態なので魔力が通る事が出来ず膨大な魔力が戻されて儀式が失敗してしまったのではないか。
私の説明を聞いて大魔道士が己の自慢のヒゲを触りながら考え込む。
そんなに真面目に考え困れても困る。
あくまでもBマイナーな論文の意見なのだから。
月の位置がベストな位置にきた。
機が訪れたのだ。
私の合図でサポートと化していた大魔道士達が膨大な魔力を魔方陣に注ぎ込み、私はそれに合わせて魔法を唱えた。
結果、一人の女性が召喚された。
女性の側には杖らしき物が転がっていた。
聖女に間違いない。
今回は私が仕切ると言う事で誰もが失敗すると考えていたなかで女性が召喚されたため、儀式の間は大騒ぎとなった。
助かった。
私は召喚の成功よりも命が助かった事に安堵していた。
そのせいだろうか、他の魔道士とは違い落ち着いて状況が見れた事により聖女様の異変に気付いた。
聖女様は何やら困惑されているようであった。
よくよく考えれば、それもそのはず。
突然に違う世界に召喚されたのだから。
私は聖女様を落ち着かせるために聖女様の手を握り『ステータスオープン』と唱えて貰った。
ご自身のステータスを見ながら説明させて頂く方が早いと思ったからだ。
だが・・・
ここで、予想もしていなかった返事が彼女から返ってきた。
画面が見えない?
目が見えない?
ステータス画面は本人しか見ることが出来ない。
これでは彼女のスキルが解らない。
スキルが解らなければ鍛えることも出来ない。
そもそも、聖女様が本当に聖女かどうかの確認も出来ない。
周りの大魔道士達も聖女の言葉により、先程まで騒いでいたが、今はまるでそこに誰もいないかのように静まり返ってしまった。
私は彼女の手を離し召喚の間を後にする。
国王陛下にお伝えしなければ・・・




